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春に奏でる  作者: よしみず


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22/24

春を奏でる 4



「夢渡りをします。」


皆の顔が“何それ”と言っている。

だよね。普通は知らないだろう。



他人の夢に入り込む夢渡りという術がある。その人の精神世界に入る事で問題を解決したり、今回の様に相手と接触をする事も出来る。

ただ問題は他人の精神に入る為、深く潜り込みすぎて帰れなくなる事が稀にあると言う事だ。

その為、この夢渡りは必ず二人で行わなくてはいけない。

一人が入り、もう一人は帰り道を見失わない様に精神を繋ぐのだ。



「ゆき、頼めるか?」


ゆきはハッとして、

「やっやるっ!ゆき…ゆき!出来るよ!やれる!任せて!ご主人!」

先程まで萎れていたシッポと耳とヒゲまでピンッと立ててやる気を示す。

「よし!なら、任せた。頼んだぞ。」





 布団を二組敷いてもらい、清子さんと俺が並んで横になる。

「なんか…、緊張するね…。寝れるかな……。またあの夢見るんでしょう…?」

清子さんの顔色が悪い。

「なるべくすぐに合流出来るようにしますので、動かないでいてもらえると助かります。」

清子さんは横になりながらもコクリと頷いた。


枕元にゆきが来て清子さんのおでこに足を載せると清子さんはすぅっと眠りに堕ちた。

大貴が、

「ゆ、ゆき?今何したんだ?清子さんがあっという間に寝たぞ?!」

「ゆきが眠らせたんだよ。」

ゆきが胸を張り答える。

「…す…凄いぞ!ゆき!そんな事も出来るのか!」

「えへ。ゆきは色々出来るんだよ!」

ゆきの胸の毛がモフッと膨らんだ。


今度は俺の頭の上にゆきが来て、俺のおでこにゆきの足が載った。柔らかくて気持ち良い…。思わず、

「ふはは…。ゆきの肉球は気持ち良いなぁ。」

「でしょ?ゆきは可愛いだけじゃなくてこんな事も出来るんだからね!」



すぅっと意識が闇に堕ちていった。







意識が浮上するとそこは一面灰色の何もない空間だった。意識を集中させると左斜め前に清子さんの気配を感知した。後ろを振り返ると俺の後ろには光る青い道が続いている。


“ゆきがしっかりやってくれてるな。流石だ。”


これが帰り道だ。ゆきがいてくれるから俺は帰れる。


ゆきはちょっと怖がりだけど、能力は高い。

あのお兄さんが生み出しただけある。

今の俺の術はほとんどがお兄さんから教わったものだが、ゆきもきっとお兄さんから教えられているだろうから、ゆきは弟弟子のようなものだ。

安心して任せられる。


俺は清子さんの気配のする方へと足を向けた。





灰色の世界を暫く進むといきなり世界が現れた。


「学校…?」


現れた世界は学校の校舎だった。


“そう言えばいつも夢で学校にいるって言ってたもんな…。”


校舎の中は静かで誰もいない。

古い水の匂いがする。 沼のような水が停滞したような独特の生臭さがある。

湿った空気が纏わりつき、手足が重い。

不快だが仕方がない。


俺は清子さんを探して足を進めた。





暫く進むとある教室で清子さんを発見した。約束通り動かないでいてくれたようだ。


「奏多くん!!」

清子さんは安堵して顔を緩めた。

「遅くなりました。では、行きましょうか。」


俺達は教室を出て、延々と続く廊下を共に歩き出した。

「水音は聞こえてますか?」

「うん。さっきも今もずっと聞こえる。水道の蛇口が壊れてて、一定の間隔で水が落ちてるみたい…。ピチャン……ピチャンって…。」

「そうですか。実はそれ、俺には聞こえてないんですよ。」

「えっ……!何それ!ちょっとこわいんだけど!」

「逆ですよ。それは清子さんを守ってるんだと思います。」

「え〜…。そうなの?なら…、ありがたいけど…ありがたいけど…もうちょっとなんかこう…、もっと分かりやすく不気味じゃない感じで守ってくれたら嬉しいのに…。」


ある程度廊下を歩き進めると、後ろからヒタヒタと足音が聞こえた。清子さんの顔が引き攣り、歩調が速くなる。

「水音聞こえますか?」

「えっ…?そう言えば聞こえないかも…。それよりも…奏多君も聞こえる?後ろから誰かが来てる。」

「はい、聞こえます。嫌な気配を振りまいてアピールしてますね。」


実際走り出したくなる程嫌な気配がする。それが近づくにつれ臭いがきつくなってくる。何かが腐敗したような腐った水の臭いだ。


「落ち着いて下さいね。走らず慌てず、俺の側を離れないで下さい。」

「う…うん…。気を付ける…。でも、一人じゃないからまだ我慢できる…かも……?」

清子さんは走り出しそうな足を抑えて気丈にも笑ってみせた。



「では、そろそろ相手に向き合いますか…。」





俺達は足を止めて後ろを振り返る。後ろからは長い髪を振り乱し、痩せた体に落ち窪んだ目をギョロギョロとしさせた女がこちらを睨んでいた。


「あれはりか先輩ですか?」

俺が清子さんに尋ねると、なんとも微妙な顔をして

「えぇ…?似てるような違うような…?」


それはりか先輩に見えるようで違う人にも見えるそうだ。




「こんにちは。何か用ですか?」

対峙しても睨むだけで埒が明かないと思い、こちらから声をかけてみる。

清子さんがギョッとした様にこちらを見るが、だって仕方ないじゃないか…。時間は有限なんだから。


「……で……か……りぃ………」

「貴方は自分が何をしているか自覚してますか?人を呪うなんて自滅と一緒ですよ。何故こんな事をしたんですか?」

「…な……わ…」

こちらをギョロギョロと睨みながら何事かを喋っているが、説明する気はないようだ。

「睨んでも怒っても恨んでも呪っても無駄ですよ。あなたが何をしたいのかさっぱり分かりません。思っている事はきちんと言葉にして下さい。」

「な……でお……な……し……え………」

「聞こえません。話をする時はもっと大きい声で、きちんと、相手に伝わるように、話をするのが基本です。やり直しです。さぁもう一度。」

「…………」

目の前の女は黙り込み、体をフルフルと震わると同時に鼻を突く嫌な臭いが強くなった。

顔を強張らせた清子さんがこいつ何言ってんだみたいな目で俺を見上げる。

「言わなきゃわかりませんよ。人に分かってもらおうとするなら話して下さい。他人の気持ちなんか察する事なんて出来ないんですから。話さないなら呪いなんて送らないで、口を閉じて気持ちも自分で処理しなさい。このままなら貴方に呪いを返さなければいけなくなります。そうしたら貴方は死ぬ事になるかも知れませんよ。」

徐々に女の震えが大きくなり、女から発せられるドロドロとした圧が強まった。

突如女が叫び出す。

「お前がいなければ!お前なんか!お前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がぁぁぁぁ!!!」

狂ったように叫ぶ女を前に清子さんが身をすくめた。

「彼女が何をしましたか?彼女は何していない。」

「お前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前が!!」

女はもう清子さんに向かって言っておらず、下を向き髪を掻きむしりながら狂ったように意味不明な事を言い続けている。

「ダメですね…。すっかり取り込まれていたしまったようですね。話がなり立ちませんね。せっかく夢にお邪魔したのに無駄足でした。残念ながら呪いは返します。」

どういう事だと清子さんが俺を見るが、

「起きたら説明しますよ。もう此処にいる意味はないのでさっさと起きましょう。」


俺は目の前の女に対し、柏手を3回鳴らし黙らせると近付き神気を込めた息を吹きかけた。

途端、女は消え去り学校だった場所は掻き消え元の灰色の空間に戻った。



さて、現実世界に戻りますか…。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ゆきが奏多の枕元で丸くなり動かなくなってから三十分は経過した。あまりにも動かないので心配だが、ゆきからは事前に何があっても絶対に自分達に触らない事、無理矢理起こさない事を約束していたので皆固唾をのんで見守るしかない。



ピンポーン…

突如来訪を告げるチャイムが鳴り響いた。

圭吾が対応する為玄関へと向かうと、暫くして争う声が聞こえた。徐々に声が大きくなりリビンクの扉が開くと、そこには一人の男が立っていた。

「清子ちゃん!!」

奏多と共に横たわる清子さんを見て男が声を上げる。それを圭吾が宥めるように声をかけるが耳に入っていないようだ。二人に近付こうとするので俺達も圭吾と協力して行く手を阻むように立つ。

「そこをどけっ!なんだお前ら!清子ちゃんに何してるっ!そこの男はなんだ!なんで一緒に寝てるんだ!どけっ!」

突如現れた男は大声を出して暴れ出す。


マズイ…、起きてしまう……。


俺達が焦っていると後ろから声がした。



『煩い』



聞いた事のない声だった。


途端に空気が重くなり呼吸がし辛くなった。一瞬で場が静まり返り、周りを見ると怒鳴っていた男も、大貴も悠も翔太も皆同じ顔をしていた。俺も皆と同じく青い顔をしているのだろう。


『静かにしろと言われなかったか?この愚か者共が。』


声が発せられる度空気が重くなる。男が強い重力でもかかっているかのように膝を付くと俺達も立っていられず座り込む。

声の方を振り返るとゆきがこちらを見ていた。

いや、ゆきではない。いつもの表情豊かなゆきではなかった。無表情でありながら高圧的で支配的。じっと見つめる事すら躊躇われる。そこにいるのは圧倒的な存在感を持つ何者かだった。



『この子供に何かあったら存在ごと消し去るぞ。』



ゆきの口からあり得ない言葉が紡ぎ出される。



…空気が薄い……。呼吸が苦しい……。ガンガンと頭が脈打つ様に痛む。

苦しくて辛くて意識が朦朧としてきた時それは突如として消えた。


皆が一斉に息をし、崩れ落ちた。肩で息をして呼吸が整うのを待っていると、後ろから可愛らしい声がした。



「上手くいったよ〜!…………皆どうしたの…?」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



俺達が身を覚ますと皆が緊張した面持ちでいた。


どうしたんだ……?



中には知らない顔の男がいた。男は青い顔をして怯えたように俺を見る。隣で寝ていた清子さんが、

「律くん?!」


ほほぅ…これが噂の彼氏か…。



ゆきが俺の膝に乗り上げ、

「ゆき、上手く出来たでしょう?」

と褒められ待ちをするので、存分に褒めた。褒めて褒めて褒め称えた。

「でしょうでしょう?ゆきは色々出来るんだよ!」


実際ゆきが居なかったら夢渡りは出来なかったし、やったとしても戻って来れなかったかも知れない。



青い顔をした面々を暫し放置して俺はゆきへの感謝を延々述べたのだった。






お読み頂きありがとうございます。

明日も更新しますのでよろしくお願いします。

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