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春に奏でる  作者: よしみず


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20/24

春を奏でる 2



 翌日課外が終わり大貴、翔太と待ち合わせて駅へ向かうと、駅には智輝と悠がいた。

「?智輝?悠?どうしたんだ?」

「?何が?」

「いや…塾があっただろう?」

「あぁ、終わった。腹減ったな…。行く前に何が食べて行こうぜ。」

「?行く…?……行くって……、行くのか?!お前達も?!」

「?当たり前だろ?」

当たり前の顔をして言われた。

「いや…、でも…、勉強とかあるだろう?」

「息抜きは必要だ。」

「危ないかも知れないし…。」

「お守り持った。」

横で笑いながら見ていた智輝が、

「毎回同じやりとりしてるな…。奏多諦めろ。

俺達は一緒に行く。何かあったら俺達がお前を守ってやる。だからさっさと飯食って行くぞ。」




 電車で2時間、俺が生まれ育った所に着いた。

懐かしいがあまり良い思い出はない。

改札を出た所で圭吾が待っていた。

バスで圭吾の家へ向かう道中、その後を聞くと、

「あの桜の木のお陰か、昨日は姉ちゃん悪夢を見なかったらしい。俺、朝久し振りに落ち着いて飯食った。」


いつもは夜中に魘され目の下にクマを作ったお姉さんとお姉さんを心配してちょこちょこ様子を見に行くために寝不足で目の下にクマを作った母親、心配してるのにその態度が不機嫌に見える不憫な父親。


そんな感じだからいつも朝からどんよりと重い空気が漂っているそうだが、今朝は悪夢を見ずに眠れたお姉さん、それに安心した親御さん。


「今朝の空気は軽かった〜…。」


圭吾も昨日より笑えていた。





 圭吾の家の近くに着きバスを降りる。降りた瞬間異様な匂いが鼻をさした。

(生臭い…?それにこの空気……。)

足元から不安そうに俺を見上げるゆきに対して俺は深く頷いた。


(これは気合を入れないと行けないかもな…。)




「着いたぞ。わざわざ遠い所まで悪かったな。」

目の前の圭吾の家は黒いモヤで覆われていた。

皆は気が付かないのか普通にしていたが、俺は息を呑み、ゆきはシッポを高く持ち上げ毛を逆撫でて小さく”“ピャッ“と鳴いた。



 圭吾の家のリビンクに案内されると、そこには母親とお姉さんと思わしき人がいた。

リビンクには昨日の桜が花瓶に挿され存在感を放っていた。


「…あの…、遠い所までわざわざ来てくれてありがとう…。あの……、貴方が奏多君…?」

「はい、始めまして。圭吾君の同級生の三浦奏多です。現在は三嶋神社の見習い神官をしてます。

今回の事を圭吾君から相談を受けて来た訳ですが、お母さんもお姉さんも私が関わる事に納得されておりますか?もしも私では不安だと仰るのであれば信頼出来る神官をご紹介致しますが。」

母親とお姉さんは顔を見合わせて、

「正直不安でしたが、貴方が持たせてくれたこの桜のお陰か、昨日からはおかしな事が起こらずに過ごせています。今私達へ配慮をして下さった貴方を信用いたします。どうぞよろしくお願いします。」

お姉さんも一緒に頭を下げた。

「…分かりました。ではお姉さんの話を聞く前にそちらの桜にご挨拶をさせて頂きます。」

「えっ?桜に?」

「えぇ。昨日圭吾君にも話しましたが私達神道の世界では全てのものに神が宿ると考えられてきました。八百万の神という言葉は聞いた事がありますか?この桜も元は力ある桜の木が今回この家の為にとお力をお貸し下さったものです。ですので皆様、毎朝、やっていただきたい事があります。」


飾られた桜の前まで移動し、

「毎朝花瓶は洗って新しい水を入れて下さい。切り口が浸るくらい、少量で大丈夫です。

次に、小さいお皿とお猪口はありますか?

お皿には生米を、お猪口には清酒をお供えしていただきます。お供えした物は下げた後に料理に使っていただいて大丈夫です。」

俺はカバンの中から持って来ていた生米と清酒を取り出し桜の前へとお供えする。

「では皆さん、こちらに立って頭を下げて下さい。」

俺は柏手を打って祝詞を奏上する。



家の中に清浄な風が吹いた。




 

「さて…、では詳しくお話を聞かせていただけますか?お姉さん、清子さんが最初に違和感を感じたのはいつ頃でしたか?」

「え…と、12月です。彼…律君と付き合う事になってすぐ…。最初はお気に入りのネックレスが切れたんです。でも偶々かな…?って…。」

「何かに引っ掛けたとかではなく?」

「はい。いきなりスルッと落ちてきて…、見たらチェーンが切れてたんです。」

「そのネックレスを見せて頂くことは出来ますか?」

「いえ…、すみません…。捨ててしまいました。」

「そうですか…。次は…?」

「ネックレスの次は指輪とか、ピアスとか…。付いていた石や飾りがポロっと取れちゃうんです。勿体ないので接着剤でくっつけてみたんですけどやっぱりすぐに壊れて、それもやっぱり捨てちゃいました。」

「彼から貰った物とかはどうですか?」

「クリスマスに貰ったネックレスもすぐにダメになっちゃいました。」

「具体的には?」

「すぐに錆びちゃうんです。最初は材質の問題かなぁって思ってたんですけど、錆びるっていうよりは腐食するって感じで…。1週間位でチェーンがボロボロになったのでそれも捨てました…。一応彼には見せて捨てる報告もしましたけど…。」

「彼はなんて?」

「顔を引き攣らせてました。手持ちのアクセサリーがなくなったら今度はスマホとパソコンが壊れました。スマホなんか落としてもいないのに気が付いたら画面にめちゃくちゃヒビが入ってたし、パソコンは起動しなくなりました。正直、アクセよりもこっちの方が痛いです…。皆の連絡先も分からなくなるし、大学のレポートも作成途中だったのに…。」

「それは…、大変でしたね……。」

「ええ……。」

ため息をついて悔しそうな顔をしている。

「でも…その後から……、最初は不注意だと思ったんです。私よく転んだり躓いたりするから…。

でも、そういうのじゃなくて……。一瞬足を掴まれた様になって転んだり、誰かに突き飛ばされた感じで転んだり…。」

「姉ちゃんは先月、駅の階段から転げ落ちて入院もしたんだ…。頭を打ってたから検査も兼ねて。」

「えぇ…。脳しんとうと全身打撲でした。あの時も後ろから押されたんです…。でも警察に言って防犯カメラを調べてもらったけど、押された映像は確認出来なかったって言われました…。そもそも、後ろには誰も立ってなかったそうです…。」

「………。」

「それからは外に出るのが怖くなって…。今は春休み中だから良いけど…。段々と酷くなっていく気がして…。最初は転ぶ程度だったのに、搬送されて入院まで……。」

清子さんは暗い顔をしてため息を吐いた。


「…悪夢を見ると聞きましたが…?」

「…はい…。」

「どんな?」

「毎回同じなんです。何処かの学校?見たことのない所です。古い学校で誰もいない。私一人だけがカーテンの閉まった教室に立ってるんです。薄暗くて空気が重い…。誰の声も聞こえないのに、水が落ちる音だけ定期的に聞こえるんです…。ピチャン……ピチャン…って…。私…怖くていつも教室から出て外を目指すんですけど、毎回外には出れないんです…。廊下に出ると暗い廊下がずっと続いてて、階段もなく、延々と真っ直ぐの廊下。歩いても歩いても水が落ちるピチャン……って音だけはずっとしてるんです。音が近づく事も遠ざかる事もなくて、ずっと同じ大きさで音がするんです。」



誰も言葉を発しない。智輝達が顔を引き攣らせて聞いている。


「でも最近それが変わってきました…。廊下を走ってると後ろから足音が聞こえるんです…。ヒタ…ヒタって…。後ろを向いても誰も居なくて、ただ暗い廊下があって…、そこからヒタ…ヒタって。靴の音のような硬い音じゃなく裸足の様な靴下のような…?それが近づいて来てます。日に日に近くに来てる…。私…、怖くて怖くて…。夢の中で夢だって分かってるんです。早く目が覚めてって思いながら全速力で走るんですけど、この前後ろを振り向くと長い髪の女の人が歩いてました。私に向かって。」

「どんな感じの人ですか?」

「暗い廊下より更に暗い人。決して声をかけようとは思えない。むしろ逃げなきゃって…。捕まったらマズイって…。本能的に逃げなきゃっいけないって思わせるような人でした。顔は見えません。下を向いてるし、髪で覆われているので…。」

「昨日は夢を見なかったんですよね?一昨日はどの位近くまで迫りましたか?」

「すぐそこです。あと5〜6m位。」

「水音は?今も聞こえますか?」

「水音…?そう言えば聞こえないかも…。」



やっば……!思った以上にマズイ事態だ…。



「ありがとうございました。怖い事を思い出させてしまいすみませんでした。具合悪くなってませんか?」


清子さんはかなり顔色が悪い。夢の話を聞いていた母親も圭吾も智輝達も顔色が悪い…。

何なら俺の足元にいたはずのゆきも今は膝にいる。怖くて這い上って来たのだ。シッポは下に下がり耳もペタンと寝てる。若干震えが伝わってくる。



無意識にゆきを撫ででいたのだろう。

「ずっと気になってたんだけど奏多それがクセ?

この前も膝の上で手を動かしてたよな…?」


…ありゃ…バレちゃった……。無意識に撫でてたもんな…。でもこんなに可愛いゆきを…怯えているゆきを放置する選択肢なんかない。


「失礼。皆さん猫は大丈夫ですか?」

ゆきを紹介しようと思い聞くと、戸惑いながら大丈夫だと言われた。

いつもは勢い良く現れるゆきだが、今日は恐る恐る姿を見せた。


「…どうも…こんにちわ…。ゆきです……。」


ゆきはすっかり怯えて、シッポは脚の間に入り耳は後ろに倒れている。そわそわと落ち着きなく体を動かしてはチラッと俺を見上げる。

圭吾達はいきなり現れたゆきに理解が出来ないのか、あんぐりと口を開けて固まっている。

圭吾達の衝撃が落ち着くまで俺はゆきのメンタルケアを優先しよう。


「ゆき、大丈夫だぞ。ゆきの事は俺がちゃんと守るからな。」

「……ゆき…、ゆきは大丈夫だよ…。ゆきはご主人を守る為に此処にいるんだから…。

…でも…でもね……、ちょこっとだけギュッてして欲しいな……。」


俺はゆきの可愛さに力加減を忘れてぎゅうっと抱き上げると、ゆきは”グェッ“と聞いた事のない音を点ててから、俺に高速猫パンチを繰り出した。

ゆきを離した後も怒りの猫パンチは続き、

「ご主人は!ゆきを!殺す気か!!」


ゆきの怒りが収まるまで俺は何度もゆきに平謝りをし、やっと許してもらえた。

その時には既に圭吾達は衝撃から立ち直り俺達の騒動を笑いを堪えて見ていた。



「ごめんなさいね。笑ったりして。ゆきくんもごめんね。」

「ゆきは大丈夫だよ!」

「すみません…お騒がせして……。」

ゆきには怒られるし智輝達にはゲラゲラ笑われるし、圭吾達依頼人の前でみっともない姿を晒した俺はしょんぼりと謝った。

「いいんです…。こんな事言うのもなんだけど…、久し振りに笑った気がする。なんか…、笑うってそれだけで体が軽くなるんですね。」

「そうだな。この家がこんなに明るくなったの久し振りだ。笑うって凄いんだな。」


笑われた俺は微妙だけどな……!


「そう言って頂けて良かったです。笑う事は邪を祓うと言われます。笑いや喜び等の陽の気が怨みや妬み怒り等の陰の気を祓うので笑いって大切なんですよ。ほら…、若干ですがこの家を覆っている陰の気が薄れてます。」


俺の言葉にハッとした様に圭吾が、

「陰の気…?この家を覆っている…?」

「あぁ、そうだ。」

智輝達も不思議そうな顔をして、

「どういう事だ?」


俺は圭吾達一家の顔を見ながら言った。




「この家は今呪われてます。」








お読み頂きありがとうございます。

明日も更新しますのでよろしくお願いします。

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