ゆき 2
あの後、尾黒神社の榊木宮司からすぐに連絡が入り、謝られた。
「いえ、榊木宮司が悪い訳ではないので。」
「いや、しかし、私達は今の世の中の怖さを分かってなかったんだ。結局高校生の君にしわ寄せが行ってしまった。申し訳ない。」
「いえ。俺も正直分かってなかったんです。とても良い映像でしたし、文化を守る為にも神社の事を知って頂く為にもああいう事は必要だと思ったので。なので榊木宮司は何も悪くないんです。
ただ、もしも俺の事について問い合わせとかきたら守秘義務が…、とかで濁して頂ければ…。」
「それはもちろん。後は撮影者にも連絡ついたよ。本人も騒ぎになって焦ったみたいだ。転写禁止とかの文言を入れたみたいなんだけど遅かったみたいで…。本人が奏多君に謝りたいと言ってたけどどうする?」
「それは…。どうしましょう…。
俺、撮影者さんの映像好きだったんです。あの場の雰囲気がきちんと残されていてとても誠実だと思いました。だから撮影者さんが謝るのも違うと思ってて…。」
「分かった。君の気持ちは伝えておくよ。その上で君を、君達を守る何かを神社庁の方でも考えてもらうよ。」
はぇっ?!じ…神社庁……?
お…大事になってきたぞ……。
「いや…そんな…、俺のせいで皆さんにご迷惑をおかけするわけには…。」
「いや、良いんだ。これは遅かれ早かれ問題になったと思う。我々も時代との付き合い方を考える良いきっかけになったよ。今やらなければ別の人が被害を受けるかも知れないからね。神職を守るのは当然の事だ。」
「…ありがとうございます。ではこの件はお任せしてもよろしいですか?」
「あぁ、何かあったら連絡をもらえるかい?」
俺は了承して、そして撮影者さんの連絡先を頂いて電話を切った。
なんとなく皆さんを巻き込んでしまった様で落ち着かない。
叔父さんからも落ち着くまでは神社に来ても表に出ない方が良いと言われて裏方仕事をしていた。
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「何落ち込んでんだ?」
振り向くと綺麗なお兄さんがいた。
「お兄さん?!またこっちに戻って来たの?」
「いや、たまたまだ。たまたまお前を見かけたら元気なさそうにしてたからな、何かあったのか?」
俺はお兄さんに起きた事を話した。
「いや…、まずは神社庁?の事か?
それは当たり前だ。自分の所の奴を守るのはどこの世界でも同じだろ?もしもやらなければ天罰が下るかもな。ちゃんと言っとけよ。」
お兄さんはニヤリと悪そうな顔をして綺麗に笑った。
「あと、その女?随分と性格悪いな。お前が大人しくしてたから下に見てたんだろ。それで断られて生意気だと思った訳だ。
あぁ…、忘れてた…。俺はそういう人間が大嫌いだったんだ。
…そうだな、先にそいつを呪ってやろうか。煩わしい奴がいなくなって良いぞ。」
「あはは!ありがとう!でも大丈夫。お兄さんに聞いてもらったら少しスッキリしたよ!」
「冗談じゃなかったんだけどな…?
まぁ、いいか。ならこいつをお前にやるよ。元々お前にやるつもりで育てたやつだからな。」
「にゃぁ」
下を向くと真っ白い猫がいた。
「えっ?えっ?」
「前に呉神社で舞っただろう?教えた通りに出来てた。良い舞だった。その褒美だ。お前にやろうと思って作った。」
「作ったって、猫を?」
「あぁ、俺はすごいんだ。」
「凄いけど…、でも猫を……。」
あの子猫が頭を過った。
「猫は嫌か?なら違うのを作るが何がいいんだ?」
「嫌な訳ない!でも猫は…、猫は居なくなったら哀しいから……。」
「いなくなるか!この俺が作ったやつだぞ?そんじょそこらの式とは違う。」
白猫は俺の足元にいて俺を見上げる。
「猫嫌いか?」
「……好き…。」
「なら良いじゃねえか!焦らせやがって!」
俺は白猫を抱きあげる。
もふもふする……。
「俺の神気をふんだんに分けて作った使い魔だ。普通の猫とは違う。飯は要らねえ。ただ欲しがったら食わせてやれ。お前が名前を付けたらお前の使い魔になる。お前がこいつを育てるんだ。」
「ありがとう。俺も何かお返しを…、」
「いや、要らねえ。言っただろ。あの時の褒美だと。」
「でも…、」
「それだけお前の舞が良かったって事だ。」
「…ありがとう。大切にするから。」
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ふと気が付くと片付けの最中だった。
足元には猫が俺を見上げて、「にゃぁ」一鳴き。
堪らずに抱き上げ、もふもふすりすりする。
(そうだ!名前を付けなきゃ。)
猫をじっと見つめる。
(真っ白。大きな青い目。ふわふわ。)
思いつく単語を頭に浮かべていくと、あの山形の山々が思い浮かんだ。
「ゆき。お前の名前はゆきにしよう。」
「良い名前をありがとう〜、ご主人〜!」
「………。」
「あれ?聞こえてないの?ご主人〜?」
「……ゆき…?喋れるの……?」
「えへ。ご主人が名前を付けてくれたからね!ありがとう!ゆき。可愛い名前。」
「う…うん。こちらこそありがとう。」
「ゆき、ご主人の為に頑張る!」
「頑張らなくて良いんだよ。一緒にいてくれるだけで俺は嬉しいよ。」
「ご主人………………。ありがとう。」
うん……。可愛い。けど空耳か?チョロいって聞こえた気がしたけど…?まさかな…。こんなに可愛いゆきがそんな事言うはずがないもんな……。
「ゆき、これからよろしくな。」
ゆきと親交を深めていると、叔父さんがやってきた。
「奏多、そろそろ休憩しなさい。
あれ?猫?何処からか入りこんだのかい?」
あれ?神社って猫禁止だったっけ……?
「叔父さん。この猫は今貰ったんです。猫は神社に入れたらダメでしたっけ…?」
「いや…、ただ大切な物が多いから悪戯しない様に……。って貰った?今?」
「はい。今日はあのお兄さんがいたんですね。呉神社で舞ったご褒美に、ってくれました。しかもただの猫じゃないですよ!お兄さんが作った使い魔です!ゆきって云います。」
叔父さんは呆然としてゆきを見る。
「ほらゆき、ご挨拶しないと。」
「よろしく〜!」
「わぁ!挨拶が出来るなんてゆきは賢いな!」
「まぁね〜!ご主人が恥をかかないようにゆきはしっかりしようと思います!」
「偉いぞ!ゆき!」
思わず抱き上げすりすりする。
「そ…奏多…。詳しく話しなさい…。」
俺はお兄さんと会ってからのことを叔父さんに伝えた。天罰が…、のくだりで叔父さんの顔が引き攣った。呪うのくだりで顔が青くなった。
だよな。軽々しく言う言葉じゃないもんな。全くお兄さんは神職の自覚に欠けているぞ。
神官は特に言霊を大切にする。言霊とは言葉に力が宿るという考えの事だ。良い言葉には良い気が、悪い言葉には悪い気が。祝詞を奏上する同じ口で悪い言霊を発するのを極力避けるため神官は皆言葉には気を付けている。
まったく…。でもそのくらい俺の事を気にかけてくれて嬉しい気持ちもある。
叔父さんはフラフラと用事があると言って出て行った。ゆきのことは問題ないと言ってくれた。
「ゆき、叔父さんはああ言ってくれたけどイタズラはダメだぞ。ここは高価な物もあるし、何より神様も坐す所だからな。常に神様に敬意を持って過ごすんだぞ。」
「分かった〜!」
ゆきは俺と叔父さんの前では喋り、他の人の前だと猫のフリをした。
賢い!!
「明日は俺の友達も紹介するからな。」
「分かった〜!学校って所に行くんだね!ならゆきは姿を消してついて行くね!」
「姿まで消せるのか?ゆきは賢いだけじゃなくて有能だなぁ!!」
俺は最近の学校での憂鬱を忘れてゆきの可愛さにデレデレになっていた。
翌週、学校に行くと、更に空気が悪くなっていた。クラスメイトが目を反らしたり、嘲るような視線を感じたり、ぎこちない雰囲気を感じた。
俺は心の中で溜息をついた。
また新たに何かやったのか?
日野さんに視線をやると俺を嘲る様に甲高い声で笑った。
バカバカしい。今の俺にはゆきがいるから全然気になんないんだけどな!
クラスメイトの一人、日野さんと比較的仲の良い男子生徒が近づいて来て、
「なぁ、奏多。お前虐められてたって本当か?」
馬鹿にするように、デカい声で言ってきた。
クラス中がしん…と静かになり俺の返事に聞き耳をたてる。
「いつも助けてくれるお友達がいなくて困ってるのか?残念だな!」
本当に虐められている人にこんな事を聞いたら普通に虐めだし、普通にドン引きだ。
俺は虐められてたっていうよりは、怖がられてたっていうか、不気味がられてたっていうか、嫌われてただけだ。
「虐めとは違うと思うけど…?」
「じゃあ何なんだよ!いつも一人でいたんだろ?」
「確かに。でも虐めとは違うと思うけど…。君は何を知ってるの?俺が何をされたって?虐めって何をされたら虐めなんだ?」
そこの所が本当に分からなくて聞いてみる。
「ははは!馬鹿じゃねぇの!何聞いてんの?」
「君が今やってるのは虐め?」
男子生徒は少しバツが悪そうに、
「これは虐めじゃねえよ!なぁ?」
周りに聞くが周りからは返事は得られない。
「じゃあ、俺は虐められてたんじゃないんじゃないか?こんな馬鹿らしい事をしてくる奴はいなかったからな。」
大抵は何かされるかも知れないと近づいてこないだけだ。
男子生徒は顔を赤くして、
「馬鹿にしてんのか?」
「君が俺を馬鹿にしてこなければ馬鹿になんかしなかったよ。先に吹っかけてきたのは君だろう?後、君の後ろにいるであろう日野さんとね。」
日野さんはビクッと大袈裟に肩を震わせて、
「酷い…。なんで私が…?」
「君の顔だよ。隠してるつもりだろうけど顔に表れているよ。なかなかこんなに醜い顔はお目にかかれない。そのくらい今の君の顔は醜いよ。」
日野さんはカッと顔を赤くして声を大きく、
「酷い!!女の子にそんな事言うなんてそれこそ虐めじゃない?」
「女だから?男なら何を言っても良いって?俺が君に言った事が虐めなら君がその男子生徒に言わせた事も俺に対する虐めだよ。被害者ぶらないでちゃんと加害者の顔をして話しなよ。」
日野さんは言葉にならないのか口をパクパクとさせ
「ちなみに俺が言ってる醜いっていうのは顔の造形じゃないから。内面から滲み出る表情の事だから。自分の顔見てみなよ。先週から君は俺にどうやって復讐しようか、どうやって俺を甚振ろうかって意地の悪い顔をしているよ。鏡があるなら今見てみれば良いよ。誰か貸してあげて。」
彼女の周りに声をかけるが誰も動かない。
「残念。誰も貸してくれないから自分じゃ気が付かないかもね。でもね、気を付けて。その顔、今皆が見てるから。」
日野さんはハッとした様に顔を下に向けて隠した。
俺は目の前の男子生徒に目を向けて、
「君も彼女が好きならば彼女の言いなりになるんじゃなくて、彼女を諌められる男になりなよ。
彼女が醜くなったのは自業自得だけど、更に醜くしたのは君だよ。」
教室はしん…と静まり返り日野さんの啜り泣く声だけが響いた。
お読み下さりありがとうございます。
明日も続きを投稿します。




