ゆき 1
1年で一番寒い季節。冷たい風が吹き、雪もはらはらと舞い降りる。
神社には合格祈願や誓願成就の為にお祓いに来たり御守りを買いに来る人が後を絶たない。
俺もあと2年後、大学受験の為にこうして来るのだろうか。
寒い季節、それでもこうしてやってくる人達の為に俺は願った。
”願いが叶いますように。“
2月になりバレンタインが近づくと学校中がそわそわと浮かれた雰囲気に包まれた。
俺は今までぼっちだったからバレンタインにチョコを貰った経験がない。ぼっちというより嫌われていたからな。当然そんな物貰えるなんて考えた事もなく生きてきたので俺は浮かれる男達を微笑ましく見ていた。
「貰えるといいね。」
「……おい…、何だよ、その余裕は…。」
「お前誰かに貰える予定でもあんのか?」
「何?奏多ってそんな感じの子がいるの?」
俺はキョトンとして言ってしまった。
「いないよ?俺にくれる人なんている訳ないじゃないか。ただ皆は貰えるんじゃないか?」
皆良い男だしな。
「えっ……、お前今まで貰ったことないのか?」
「うん、ないよ。俺さ…、この力の事で皆に怖がられてたから俺に近づくやつなんていなかったよ。
だからお前達には感謝しかないよ。この力を知っても普通に接してくれる人なんて身内以外ではいなかったから。」
「奏多…。」
「だから俺、皆には幸せになってもらいたい。
良い子からチョコ貰えるといいな。」
「待て待て…!貰えないかも知れないだろう?」
「貰えない時は見る目がある子が居なかっただけだよ。お前達にとって出会うべき子とは出会うべきタイミングで出会えるよ。だから今回貰えなかったのなら、まだその時じゃないって事だ。」
「へぇ…、そんな考え方もあるのか…。そう考えると楽になるな…。」
「あぁ。しかも現役神職に言われてるもんな。」
「見習いだけどな。」
「俺達には関係ねえよ。あれだけの事をやってのけて助けてくれたんだ。俺達にとってお前は立派な神官で友達だよ。」
「……ありがとう…。」
「こちらこそだ。」
バレンタイン当日、やはり校内は落ち着きなく男子はそわそわと、女子はひそひそと、どこかお祭り気分が漂っていた。
案の定、智輝も大貴も悠も翔太も女の子からチョコを貰っていた。智輝は彼女がいると公言していたので友チョコを。他の3人は友チョコの他、きっと本命チョコも入っているだろう。
皆本当に良い男達だからな。
ちなみに俺もチョコを貰った。
瞳さんと響子さんだ。
俺は初めてチョコを貰った。しかも友達としてだ。
嬉しい…。本命チョコなんかよりも俺にとっては嬉しかった。
2人は俺を友達だと思ってくれていたんだ。
普通に嬉しくてちょっと泣きそうになった。
放課後、俺はホクホクと浮かれた気分で帰ろうとした所、声をかけられた。
弓道をやっている日野香織さんだ。
「奏多君、ちょっといい…?」
人気のいない所へと移動するとチョコを渡された。
「あのね、私奏多君が好きみたい。私と付き合ってもらえませんか?」
なんてこった…!ほとんど話した事ないのに…?
「なんで俺?あんまり話した事ないけど…?」
「うん…。でも奏多君が弓道やってる所見て凄いなぁって…。なんか他の人と違うっていうか……。」
それだけで…?
「それに、奏多君SNSでバズってたよ!どこかの神社?で不思議な格好して矢を飛ばしてたやつ。
あれ、コメントでどこの誰だって騒がれてたんだよ!イケメンだって!」
なんてこった…!あれがバズるとは……。すぐに消してもらえば良かった…。どれ程の人が見ているのか……。あれを昔俺を化け物扱いした奴らも見るのか…?
日野さんの話が頭に入って来ない。嫌な予感がして冷や汗が出てくる。
「ねぇ!聞いてる?私と付き合って欲しいんだけど…。」
ハッとして前を見ると面白くなさそうな顔をした日野さんがいた。
「…ごめん…。俺…今、誰かと付き合うとか考えてない。」
「なんで?別に結婚してとか言ってる訳じゃないんだよ?気軽に付き合えば良いんじゃない?」
「ごめん。俺そういうの苦手。気軽にとかじゃなくてちゃんと好きになった子と付き合いたいんだ。
今は忙しくて付き合うとか考えられない…。
だから、ごめん。」
「何それ…。女の子が勇気出して告白したのにあっさり断るなんてあり得ない…。奏多君にはがっかりした…。」
そんな…、男は断る事さえ許されていないのか…?
「せっかく自慢出来る彼氏が出来ると思ったのに!
あ〜あ…!…君って本当は男が好きなんじゃない?
女の子に興味ありませんって顔してさ!」
俺は愕然とした…。名前すら呼ばれない…。
断ればこんな扱いを受けるのか?
それからも延々と言いたい放題、帰るタイミングを逃し、結局彼女の怒りが収まるまで俺はサンドバッグにされた…。
女って怖い……。
彼女は俺が好きだというよりもSNSでバズっていた俺を彼氏にしたかっただけのようだ…。
俺の事が好きだった訳じゃない。そんな俺に断られたから腹が立ったらしい…。
女って…、人って自分勝手だな……。
久し振りに人への嫌悪感が湧いた……。
翌朝、俺が教室に入った途端空気が変わった。
懐かしい空気だ。
取りあえず俺はいつもの様に席の周りの人達にだけ挨拶をすると、どこかぎこちなく返された。
智輝達はまだ来てないようだ。
どこか人を観察するような雰囲気が漂う。視線を感じてそちらを向くと、日野さんとその友達達が俺を睨んでいた。日野さんはどこか俺を馬鹿にしたように見て、周りに聞こえるように、
「仕方ないよ…。だって男の人が好きなんだから」
「本当?やだ…、大貴君達も狙われてるんじゃない?」
コソコソしたふりをして話始めた。
あぁ…、昨日の事で、か……。面倒くせぇな…。
馬鹿らしい事だがこの探るような視線はそういう事か…。人はいくら年を重ねても人と違う人間を排除したがるんだなぁ…。化け物だろうが男が好きだろうが何が好きだろうが、逆に誰を好きにならないだろうとその人の勝手だ。人であることに変わりはないはずなのに。
本当に馬鹿らしい…。
俺は溜息を深くつく。周りの目を気にしないように席について暫くすると大貴がやってきた。
周りの空気に不思議そうな顔をしながらも、
「おう!奏多、おはよう!」
後ろから悠が、翔太が智輝が入って来て、
「おはよう。宿題したか?」
「奏多はしっかりしてるからいつもやってるよ。」
等といつも通りだ。
すると、ある一角から、
「大貴君も智輝君達も、奏多君と仲良くしない方が良いよ。そういう人だと思われちゃうよ…。」
教室の空気がピンッと張り詰める。
「それ、どういう事?」
大貴が笑顔で返すと、日野さんは悲しそうな顔に嬉しそうな声をのせて、
「男が好きだと思われるって事。」
智輝が不愉快そうに、
「何だそれ?バカらしい…。」
「でもね、そういう噂があるの…。」
悠が不思議そうに、
「噂だろ?俺達は奏多がそうでない事を知ってる。例え、そうだとしてもそれが何か?奏多が何かしたのか?されたのか?俺達は奏多と友達だ。」
翔太が笑いながら、
「そうだよ。下らない事は止めてね。きっと奏多に告白断られた腹いせとかで言ってるんじゃないかなぁ…?ほら…、バレンタインの翌日だしね!」
あぁ…、本当にこいつ等と友達になれて良かった。
視界の端で顔を赤くした日野さんが見えたけど、俺は視線を外した。
教室の空気が緩んだ所で先生が来てホームルームが始まった。
昼休みいつもの様に化学準備室に集まり弁当を食べようとしていると、響子さんと瞳さんが来て、
「あれ、どういう事?」
「奏多君、誰かに恨みをかったの?」
「あぁ…、俺達も今からその事について奏多に聞こうと思ってたんだ。」
なんて言えば良いか分からずにいると、智輝が、
「奏多が何を言っても奏多の事を酷いとは思わないし味方でいるつもりだ。だからちゃんと話せ。
今後の対策を練ろう。」
「そうだよ。あれは明らかに奏多を貶めるためにやってた。」
「あれで諦めればいいけどまだ何か言ってくるかも知れないぞ。」
「そうだね。あの子、日野さんとは私達もあまり話した事ないけど、癖のある子かもね。」
「分かる!お近づきにはなりたくないタイプ。」
「ただの無神経な子でなくて?」
「違うよ、大貴君。あれは意思を持って人を陥れる性悪タイプだよ。」
「そうそう。あなたの為を思って〜、とか善人ぶりながら都合よく人をおとすタイプ。ネチネチしてああいうタイプは面倒くさいよ〜。」
「そうそう!偶にいるよね。自分から仕掛けといてそんなつもりじゃなかったのに…とか言って被害者ぶる子。」
「…おい、奏多。お前面倒な奴に目をつけられたな…。」
「…………分かってるよ……。」
俺は昨日の一連の話をした。告白された事からSNSでバズった事。断ったらキレられた事。
最後の方は呆れながらも聞いてくれた。
「お前なぁ…、途中でふざけんなとか怒って帰れば良かっただろう!何優しさ見せてんだよ!そのせいであの子完全にお前の事舐めてるぞ!」
「いや…、優しさっていうか…、呆然としちゃって…。醜い子だなぁとか、なんでこんな性格になっちゃったのかなぁとか、色々考えてたら出遅れたっていうか……。」
なんせ対人スキルが低いもんで……。
皆が呆れながらも、
「「「「「まぁ、奏多(君)だしな。」」」」」
「あ、あぁ…、ありがとう…?」
「でも正直な話それで完全にあの子調子に乗ったぞ。お前の事何しても良いと思われたぞ。」
「だね。恥かかされた分、仕返しされるぞ。」
「仕返しって…、なんで…?告白を断るのがそんなにダメな事なのか?」
「いや、良いんだよ。今回は相手が悪かったってだけの話だ。話の通じない奴や思い通りにいかないと怒る奴とかも世の中にはいるからな。」
「でも実際問題、厄介な子に目を付けられちゃったよね。あの子多分まだ何がしてくるよ。きっと。」
「分かる!朝悔しそうにしてたもん。」
そこで翔太が携帯を見せて、
「バズったる動画ってこれ?」
皆で覗き込むと、確かにそこには尾黒神社での祭事が映っていた。コメントもたくさん来ていて、そこには多くの肯定的な意見が寄せられていた。
「……確かにこれを見たら彼氏として自慢したくなっちゃうかも…。」
「へぇ〜、奏多って休みとかにこんな事もやってるんだな。」
「確かにこれは格好良いな。」
「でも、これって本人の意思を無視して乗せられた物じゃないのか?奏多の顔が本人の了承無しに全世界に流れるって事だ。恐ろしくないか?」
「……だな……。」
「これについて連絡とかはなかったのか?」
「尾黒神社のホームページに使わせて貰いたいとは話があった…。」
「う〜ん…、そこから無断掲載されたか、撮影者が許可が下りたと思ったのか…。」
「このままだといずれ特定班が動き出すぞ。」
「何?特定班って?」
「こういうのを見てどこの誰それだって特定する奴の事。彼奴等は凄いぞ…。少しのヒントで相手を特定するんだ。あるだろ?虐め動画とかで、虐めた相手を晒すやつ…。」
「あぁ、ネットに出た情報は誰かが保存するから決して消えないからな。
おい奏多、これ一応身内や神社の関係者に言っておけよ。もしかしたら撮影者に通じるかも知れないからな。」
「あぁ、ホームページに載せた撮影者なら連絡先知ってるかも知れないからな。」
「そうだね、後は日野さん関係の事は私達もちょっと調べてみる。あの子の言う事は信用しない様に皆に言っておくね。」
「あぁ、ありがとう。」
1人で我慢するしかないと思っていた。嵐が過ぎるのをじっと待つように、噂に飽きるまで耐えれば良いと思ってた。
俺、この高校入って良かった。智輝の近くの席で良かった。そのお陰で智輝が声かけてくれて、皆と仲良くなれたんだから…。
皆のアドバイスの通り、両親と叔父さんにSNSの事を話した。叔父さんはすぐに尾黒神社の榊木宮司に連絡を取ってくれた。両親は何かあったら警察へ届けるつもりで動いてくれる事になった。
一緒に映っていた白石氏に連絡を取ると、本人的には問題はないそうだ。しかし俺がまだ未成年な事、高校生な事を気にしてくれた。
ノンデリだと思っていたが意外と親身になってくれて、心の中で白石氏には謝っておいた。
その週はあの一件以外は起こらず、噂を真に受けた人達から一部不躾な視線を感じた位で穏やかに過ごせた。
翌週、事件は起こった。
お読み下さりありがとうございます。
明日も続きを投稿します。




