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義(フィラーファ)を求めて(Seeking the Khilafah, the story of Khadijah and Ahmad)  作者: Iassy Quassia Zaki
第三章 アンスロラス星系-トンベリュマニテ星系の謎
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35 憐れみと正義

 アフマドとハディージャは、ダイアナの後に従って基地へ戻った。高くそびえる山岳地帯の谷あい。低い地へ押し出された氷河からにじみ出る青白い水は、周囲の空気を冷やす。そんな山腹の巨大な洞窟へ入り込むと、平らな滑走路ともいうべき平坦地にはいくつものシャトルが止まる。


 アフマドとハディージャは、ダイアナにせかされながら、コリオレイヌスの待つ司令官オフィスへ入った。

「ただ今、帰投」

 ハディージャの声が響く。コリオレイヌスが、ディスプレイから顔を上げた。

「戻ってくれてよかった。実は、帝国艦隊に動きがある」

「ということは、ラタノルライ提督が動いている?」

 アフマドの顔がこわばる。コリオレイヌスがなだめるようにジェスチャーを示す。


「旗艦ゼルノック53世が第二リング上空を離れた。おそらくは、ラタノルライ提督もそれに乗って第二リングの地上から第三リング若しくは艦隊へ帰投している途中だと思うよ。気になるのは、第三リングの方なんだ」

「何が起きているの? 司令官」

「うーん、第三リング内に逗留する帝国艦隊に動きがある、ということしかわからない。おそらくは何らかの艦隊運動をはじめようとしているんだろう」


 コリオレイヌスの思案顔をアフマドが一瞥する。

「簡単なことだよ。まず、提督の立場で考えよう。彼は人質は解放できたものの、僕達や貴方たち反抗人類を一切捕まえることが出来なかった。彼は必ず反抗人類のゆくえを求める。その考え方からすると、帝国艦隊もその意向に沿って動くはずです。おそらくは第二リング上に、僕たちの隠れ家若しくは本拠をさがすために、第二リングの付近に艦隊が展開するだろうね」

「であれば、我々はどうすれば?」

「以前聞いた話では、私たちのいた城塞とは別にいくつかの城塞遺跡があるとか....それを探しに行こうよ」

「どういう意味だ?」

「彼らが僕たちを探すとすれば僕たちの本拠だね。彼等は、僕達が僕たちが皇帝宮の対空砲を用いるなど、機械を駆って戦闘しているのを見ているはず。ということであれば、彼らが僕たちの本拠として探すのは、夏の皇帝宮のような城塞都市、若しくは、第三リングによくみられる建物のような基地だ。他方、僕達が遺跡を本拠とする考えには追いつかない」

「それで?」

「僕たちが見つからない限り、彼らは攻撃対象を見つけることが出来ない。もちろん第二リングそのものを破壊するということであれば別だけど.......。彼らが僕たちを探している間に、僕達は対抗策を考えようよ」

「対抗策? アフマド、それと城塞遺跡とどんな関係があるのかね?」

「考えてもみて。コリオレイヌス、貴方の教えてくれた城塞遺跡が第二リング状に散在している意味を。僕にはそれらが防御陣地の一種に思える。そして、散在する防御陣地があれば、中央司令所もあるだろうからね」

「そうか。なるほど......だが、アフマド、それらを探して何をするつもりなのか?」

「まだ何とも言えない。まあ防御陣地であれば、何らかのシステムがあるよ」

「なるほど......確かに、逃げ続ける我々には他に頼りになる武器もない。アフマドの言う廃墟を再建するのもいいかもしれない。身を隠すことにもなるしね」

 コリオレイヌスはこういうと、まずは彼の知っている城塞遺跡へ行くことを決めた。


 広葉樹林の谷あいを下り、谷底からはるか下流の熱帯密林ヘ分け入る。人間が入り込んだことのない地域であるらしく、先頭の兵士たちはジャングルを切り開きながら進む。ジャングル特有の鳴き声やさえずりが響く中を、みんな汗だくになりながら進んだ。


 そんな道が長く続くと思われたとき、行く手から突然悲鳴が響いた。アフマドや周囲の人間たちは息をのむ。

「たすけて」

「いやあー」

 コリオレイヌスは全員に藪の中に身を伏せるように指示をする。その後、彼とアフマドと共に行く手の様子を見に行った。


「逃げてくる奴ら。あれは、家畜人間たちだ」

「え?」

 アフマドは、コリオレイヌスの指摘に驚きながら、逃げ続ける家畜人類たちを見つめる。

「アフマド、お前もテオンルライの施設で見ただろ、家畜人類たちの集団を。彼らは認識票をつけている。彼らは管理された放牧場から逃げ出したんだ」

 コリオレイヌスは、思案顔でアフマドを見る。

「ということは、彼らは魔族に追われているの?」

「ということになるな」

「魔族が残っているなら、ここを素通りできないね」

 アフマドはコリオレイヌスを一瞥する。二人は急いで本体に戻った。


 かえりつくなり、コリオレイヌスの命令によって、反抗人類部隊は逃げ惑う家畜人類たちを収容しつつ、防御陣形を取る。

「この後、ここまで逃げて来た家畜人類を追って魔族の軍が来るに違いない」


 逃げ来る家畜人類はそのあとも続いた。その後を、追い立てる一団の足音と声が大きくなる。

「奴らを一人残らずみな殺しにしろ」

 女の声が響く。

「やつらは、あろうことか、我らを長く苦しめ、殺し続けた魔族に無批判・無気力のままに自らなびき、自らを見直すことすらしない。存在することを許してはならない」

「はい」


 まだ、声の主たちの姿は見えなかった。声からすると魔族ではない。

「牧神を務めるブーバル族の声ではないな」

 コリオレイヌスに、アフマドもうなずく。

「そうだね。皆殺しの理由がいただけないしね」

「そうよ。魔族でさえ、家畜をそんな理由で殺さないわ」

 ハディージャは、家畜人類たちの逃げ去った方向を見つめる。

「やつら、『自らを見直すことすらしない』と叫んでいたわね。言っていることがまるで憎しみに満ちているわ」

「きっと、一般的な魔族ではないな。家畜人類に恨みを持つハーフサキュバスたちだろうか?」

 アフマドの分析に、ハディージャが首を横に振る。

「憎しみというより、何か、価値観が相いれない同類に対する言葉のように思えるわ」

「まさか、同種の人類だというのか?」


 アフマドの分析に、コリオレイヌスが何かを思い出したような顔をする。

「まさか、反抗人類の一派だろうか」

「反抗人類の一派?」

「あなた方が反抗人類の代表ではなかったのか?」

 アフマドとハディージャはコリオレイヌスを見つめる。


「我々は反抗人類には違いない。この第二リングは広大だ。我々がここまで来たこともない。此処に反抗人類がいるなどと想定したことすらない」

「私たちが逃げてきた家畜人類たちを保護していることが知られると、その人類と対立しかねないわ」

「そうだね。ということは、コリオレイヌス、まずは接触してみては? 彼らがどんな集団かわからない今は、下手に戦いに突入することは避けたいでしょ?」

「そうだな」

 コリオレイヌスは、同行する人選を含め考え込む。その後、アフマドとハディージャを伴って出かけた。



「子供を見逃してください」

「子供は将来の人類資源のはずでしょ?」

 必死に命乞いが聞こえる。その中に、コリオレイヌスたちが飛び込んだ。彼らが目の前に見たのは、子供を抱えながら追い詰められた女たちの姿。その周囲を謎の人類狂戦士が包囲する。

「女を殺せ、子供も残すな」

 リーダーと思しき人類の女が大声を出す。すると、包囲した狂戦士たちが一斉に銃撃の構えを取った。


「ハディージャ、シェイベットを貸してくれ」

 アフマドは言うが早く、シェイベットからの小さな電圧を狂戦士たちに放つ。彼らが一斉に金縛りになると同時に、ハディージャがコリオレイヌスと共に家畜人類の母子たちの許へ走る。

「安心して! 私たちは貴方たちを助けに飛び出してきたのよ」

「こ、子供たちの命だけは、たすけて」

 包囲されていた母子たちは、まだ助けられたことを理解していない。ハディージャが大声で呼びかけた。

「安心して! 子供たちもあなたたちも助けてあげるわ」

「え? 助かるの?」


 他方、コリオレイヌスはアフマドとともに、気絶させた狂戦士たちをすべて縛り上げた。続いてコリオレイヌスは、その狂戦士部隊を包囲監視するように反抗人類部隊を配置した。


 やがて、女のリーダーをはじめとした狂戦士たちは、縛り上げられたまま目を覚ます。

「こ、この状態は!?……お前たちは誰だ?」


「狂戦士の諸君、やっと気が付いたんだな」

 コリオレイヌスは、目の前の狂戦士たちを注意深く眺める。それに反発するように、リーダーらしい女が大声を出した。

「お、お前は誰だ!?」

「俺か、ここから少し離れたところを本拠とする反抗人類のリーダー、コリオレイヌスだ。それでは、お前の名前を教えてもらおうか」

「私は、帰還運動(オリム)のリーダー『アリーヤ』だ」

「そうか、アリーヤ。お前たちはなぜあの母子たちを襲っているのか」

「あの女と子供は、逃げ出した家畜人類どもの残党だ」


 アリーヤが大声でそう叫ぶと、家畜人類の母子たちが悲鳴を上げた。

「あ、あの人たち、私たちのところにいた男たちを全員皆殺しにしたんです。そして、私たちもみな殺しだって」


「そうだ、あの者たちは皆殺しにしなければならない」

 アリーヤが決意を言葉に込めた。

「な、なんだって! 皆殺しだと! 無抵抗な母子たちを、皆殺しだと!」

 アフマドが顔色を変える。ハディージャは慌ててアフマドの両手を押さえた。

「アフマド、おちついて! まだ様子が分からないから、少し待たないと!」

「ど、どうしてだよ。か弱い女子供をみすみす見殺しにするのかよ!」

 アフマドは半泣きのまま、ハディージャを見上げる。ハディージャは思わずアフマドを抱きしめながら言い聞かせる。

「今は、ダメ! どこに正義があるか、まだわからないの。相手もどうやら反抗人類よ」

「反抗人類が、なぜ同じ人類を殺すんだよ。しかも、か弱い女子供を!」


 アフマドを一瞥すると、コリオレイヌスはアリーヤを振り返る。

「ところでアリーヤ。知っているかどうかは知らないが、俺たちは、激しい戦闘の末に、魔族帝国軍をこの第二リングから撃退したんだぜ」

「激しい戦闘……? そうか、数週間前の大規模な戦闘は、あんた達と魔族たちとの戦いだったんだな」

「そうだぜ、今までの魔族に我慢ならなかったから、反抗人類として蜂起したんだ」

「コリオレイヌス、あんた達が反抗人類を名乗るのか?」

「そうだぜ、何が言いたいんだ?」

「私たち『回帰者(オリム)』も反抗人類として蜂起したのよ。魔族が第二リングから出て行ったからね。まあ、あんた達が魔族をこの第二リングから追い出したのなら、「反抗人類」の代表みたいに威張っているのも分かるが」

「威張っているわけじゃあないぜ。まあ、お前たちが俺たちと同じ反抗人類であることはわかった。ただし、俺たちは今まで容赦なく敵を叩いた。今はあのアフマドとハディージャが一緒でね、彼らの手前、俺たちは、同族である家畜人類を殺しまくるなどということはできないね」

「なぜだ! あの家畜人類どもは、偶像崇拝の下で、男が不特定多数の女と情交を通わすんだぞ。そして、彼らは啓典に反する彼ら自身のありようを、自ら見直すことすらしない。そんな人類集団が、啓典の父の前に存在してはならないはずだ」


「アリーヤ、男が不特定多数の女と情交を通わす点に関しては、実は......俺たちも家畜人類と同じ文化を有している。啓典の主の前では、そのような自由があるからね」

「啓典の主の前で、そんな自由がある筈はない。ということは、お前たちもあの家畜人類と同じような裏切者(マアル)なんだな」


 アリーヤはコリオレイヌスを睨みつける。コリオレイヌスは首を横に振りながら補う。

「俺たちを裏切者(マアル)と呼ぶのだな。僕達こそ反抗人類の代表なのに……ということは、あんたたちアリーヤと回帰者(オリム)のメンバーを解放するわけにはいかないな。お前たちは狂戦士(バーサーカー)だ」


「そうか、あんたたち裏切者(マアル)は、私たちと相容れないことが分かったわ。あんた達もあの家畜人類と同じように、皆殺しにしなければならないようね」

 アリーヤはそういうと、コリオレイヌスを睨みつける。コリオレイヌスはその視線に一度は睨み返すと、悪態をついてオリムのメンバーに背中を向けた。

「回帰者(オリム)だと? 狂信者(バーサーカー)め」


 その会話が行われているところに、アフマドとハディージャがやってきた。彼らは、先ほどまでのアリーヤとコリオレイヌスとの会話を聞きながら、かつての人類子の中で、啓典とその主を尊重しつつ自由を第一とした勢力と、同じく啓典とその主を尊重しつつ結婚という男女の在り方を第一とした勢力と、を思い出した。彼らは、互いに啓典の主から始まっていながら、長らく啓典を巡る対立をつづけた者たちだった。


 その記憶を頭の片隅にとどめながら、二人は拘束中のアリーヤと、彼女たちに背を向けて独り言を言うコリオレイヌスとをみつめた。

「あなた、アリーヤというのね。私ハディージャよ。この子はアフマドよ」

「へえ、あんた達は、そいつ、コリオレイヌスが言っていた仲間ね」

 アリーヤは上目遣いでハディージャを睨む。ハディージャの隣からアフマドが口を出した。

「裏切者(マアル)とよびたいのかい。啓典を重んじる僕たちからすると、確かに彼らはあまりに自由を標榜しすぎるね」

「そうね! アフマドと私は、互いに夫、妻として互いを唯一の連れ合いとして尊重することを第一としているわ」


「そう、ということは、あんた達は私たちと似た考え方を有しているわね」

 アリーヤの淡々とした答えに、アフマドは苦虫をかみつぶしたような顔をする。

「アリーヤ、僕達はあんたたちのように価値観の異なる者たちを殺しまくるようなことはしないよ」

「なぜ? 粛清しないのか?」


 アリーヤは驚きアフマドを睨む。アフマドもアリーヤを睨み返す。

「粛清? それはおかしいよ」

「何がおかしいというのかね」

「どこから説明してあげようか……アリーヤ……まず最初にいうべきことだけれど、啓典の主は僕達を愛しているよね」

「ええ、そうよ! だからこそ私たちはその愛にこの身を祈りの生贄として捧げ、応えなければならないのよ。私たちは、苦悶を伴う修行によって正しさすなわち救いに至れるのよ」


 アリーヤの自信満々の答えに、ハディージャは憐みの目を返す。

「苦悶を伴う修行? アリーヤ、救いに至る道筋が誤っているわ」

「何が誤っているのよ」

「啓典の主は私たちも私たちを代表とした人類のすべてに対して、愛を注ぐわ。それは自由を与えることに現われている。そのうえで、主が救おうとする者、つまり啓典の主からの愛に祈りを以って応える者のみが救われる者が救われることになるのよ」

「そうであればこそ、啓典の主に応えない者など存在する価値がないはずだわ」

「いいえ、そのようなことはない。なぜなら、啓典の主自らが愛に応えない者も含めて愛を注いで自由を与えている。啓典の主が愛を注いでいる者たちを誰が断罪できるのですか」

「私たちが断罪するのです。私たちは苦悶のともなう修行によって、断罪する正しさを得ている。そして、正しい者である私たちが断罪するのです」

「正しいものとは、だれが決めたのですか」

「神が私たちを正しいものとお決めになったのだ。修行の際の苦悶こそがその証拠だ。それゆえに、神が命じられたといえる」

 アリーヤの余りの言葉に、アフマドは怒りを表した。

「傲慢な! 啓典の主によって愛される者たちへの断罪など、啓典の主がお決めになるはずがないではないか」

「いいや、裏切者など啓典の主がが御許しになるはずがない。それゆえ私たちは許さない。だからこそ私たちが断罪しなければならないのよ」

 アリーヤは、一部のわき目も感じさせず、一気にまくし立てる。


「なるほど、これ以上話してもあなたたちと私たちとの間で落ち合えるところはないようね」

 ハディージャは、そういうと、アリーヤを睨み続けるアフマドの手を引く。アフマドは、最後にアリーヤに一言を言った。

「アリーヤ、貴女はおぼえていないのか? 『私の求めるものは憐れみであって生贄ではない』と啓典に記された主の言葉を」

 それを聞いたアリーヤは、ショックを受けたように黙り込んだ。その様子を見つつ、コリオレイヌスとアフマドたちは、それぞれのテントに戻った。


 戻る途中、アフマドは独り言ちる。

「僕たちは、啓典の主の臨在の下で呻きつつ祈る。しかしアリーヤたちは別のことを言う。苦悶を伴う修行? 彼らの言っている意味がさっぱり分からん」

 ハディージャがそれに気づいて付け加えた。

「私たちは、あくまで啓典の主が愛を注いでくださる臨在の下で、呻きを伴う祈りを大切にするのよ」

「そうだね。反抗人類は「苦悶を伴う修行」にこだわっているのかな」

「そうなのかしら。そこはわからないわ」

「そうか、それならコリオレイヌスたちに聞いてみようか。彼等の慰めは苦悶を伴っていた。彼等も苦悶を伴う修行をしていたんじゃないか」

「アフマド…それは、あの、間違いのもとよ。そういう方向に行くと、貴方はいろいろと間違ってしまうんじゃないの?」

「え、僕が間違う。いや、そんなことはないよ、今までだっていろいろ仮説を立てて試し続けているんだから。ただ、結論が得られていないだけだよ」

「それって、間違ったアプローチなんじゃないの?」

「え、いつ僕が間違ったアプローチをしたのかな。ハディージャのいろいろな所だって摘まんで試したじゃないか。どこか間違っているの?」

「それが間違っているのよ」

「何が間違っているのさ。そうやって、ハディージャは恐い顔をするし、お尻を叩くし。ああ、そうか、尻を叩くということは、もっと急げということだよね。わかったよ」

 アフマドはそういうと、コリオレイヌスたちのところへ行ってしまった。その後ろから、ハディージャが悪態をついた。

「もう、アフマドは何もわかっていない!」


「ねえ、アリーヤのいっていたことについて、少し、意見を聞きたいんだけど」

 アフマドはテントの中にコリオレイヌスを見出した。

「おお、アフマド。どうしたんだ?」

「ねえ、アリーヤの言っていた「苦悶を伴う修業」のことなんだけど」

 アフマドの質問に、コリオレイヌスはニヤリとする。

「おお、アリーヤの修行のことか」

「うん、そう言えば、コリオレイヌスもアガメムブーバルの神殿で女の人に慰めを与えて、苦悶させていたよね」

「ああ」

「あれは苦悶を伴う修行だったんだよね」

「え? 何を言っている?」

 コリオレイヌスはアフマドの言いたいことが分からなくなった。


「アフマド、俺が施していたのは刺激だぜ。それによって女たちはよがり声を上げていたんだ」

「よがり声? なに、それ? ヨガのような修行の際の苦悶なのかな」

「アフマド、それはね、ハディージャにもあるんだけど、私の此処と此処を、撫でて、摘まんであげると、その刺激で声が出るの」

 ダイアナの説明にアフマドはうなずく。それを見たコリオレイヌスもうなずき、ニヤリとする。

「それなら、アフマド、俺たちがどんな修行をしてどのように苦悶の声を上げたのか、ダイアナを使って俺がやっているところを見せてやるよ」

「見せてくれるの?」


 コリオレイヌスが一通りの終わりに言う

「どうだ、よがり声が出ているだろ?」

「ヨガ? ということは、やっぱりヨガのような修行だったんだね。二人ともありがとう!」

「まて、アフマド、ヨガ? とはなんだ?」

 コリオレイヌスの声はアフマドに届かなかった。すでにアフマドは喜び勇んで出て行った後だった。


 アフマドは、自らの今までを振り返った。

「僕たちも修行してみれば、アリーヤたちの間違いがどのようなものか、分かるかもしれない。ハディージャと相談しよう」


 アフマドは、自らの宿泊テントに帰っると同時に、ハディージャに話しかけた。

「なあ、ハディージャ 苦悶を伴う修行って、正しさに至るものなのかなあ」

「そうね、邪念を払うことが出来れば、そういうこともあるのかもしれないわね」

「邪念を払う……苦悶することによって、鍛えられるのかなあ」

「そうなのかもね」

「ねえ、ハディージャ。人類は、たぶん、それぞれの立場で修行して来たんだよ。苦悶をあげながらね。たとえば、家畜人類は苦悶をただ受け止めているだけだった。その姿自体が、反抗人類にとっては苦悶の象徴だった」

「そうね、私たちも、修行の意味が何なのか、考えてみないとね」

「ハディージャ、そう言えば、コリオレイヌスたち反抗人類も、アガメムブーバルの神殿で苦悶を上げていたよね。彼等もそれで自分たちの生きる方向について確信を得ていたのだろうか」

「あの……アフマド、それはね.......」

「下手な考え休むに似たり、というからね。僕たちも、まずは苦悶を上げるほどの修行を経験してみよう」

「それは、そうだけど。でもコリオレイヌスが与えたのは……違うんじゃないの?」

 ハディージャが真っ赤な顔をアフマドに向ける。アフマドは気が付かずに続ける。

「いや、僕達も苦悶を上げるほどに耐えて、修行しなければいけないよ」

 アフマドはそういうと、ハディージャに向かって近づく。

「何をするの?」

「声を出すほどに苦悶に耐える修業だよ」

「修行?」

「ヨガだよ」

「ヨガ?」

「ハディージャもよがり声が出るほどに、苦悶に耐えて打ち勝てるようになろうよ」

「え?」

「僕も一緒にやるから」

「何をやるの?」

「だから、苦悶に耐え抜く修行だよ。ヨガり声が出るほどに苦悶が与えられても耐えられるように」

「それを私に?」

「ああ、僕が協力するよ」

「それって、貴方が私に?」

「ああ、ヨガり声が出るほどに、ね」

「あの、苦悶に耐える時の声を言っているの? 喘ぎ声のこと?」

「ああ、喘ぎ声ともいうのか? よがり声ではないのか?」

「ふうん、いいわ。私、貴方と二人だけだから。でも、やり方を知っているの?」

「うん、子供の僕でもできそうだから。じゃあ、ハディージャ、僕の膝枕で仰向けになって」

「こうね」

「そう、ではやってあげるけど、一応説明しておくよ……これをやると、そのうち苦悶の声が出ると教えられたぞ。修行だから、ハディージャを苦しめることになる。苦しめばよがり声が出るというから….よがり声を出させてやる。あ、違う、間違えた。何だっけ? 苦悶によって喘ぎ声を出させてやる」

「つまり、そのような苦悶を与えてくれるのね」

「そうだよ」

「つまり、私を喜ばせてくれるのね」

「ち、違う、苦しみを与えるんだ」

「わかったわ、私受け入れるから、ねえ、早く」

「な、なにを?」

「私によがり声を出させてくれるんでしょ」

「ち、違う、言い直したでしょ」

「だから、もういいの」

「あ、待って! あっ」


 アフマドは、半分ハディージャにイニシアティブをとられながらも、コリオレイヌスに教えられたとおりに『ヨガの修行』をはじめた。たしかにしばらくたつと、ハディージャは声を上げ始めた。


「これが喘ぎ声なんだな。苦悶に耐えているんだね」

「え、ち、違うわ 嬉しいの アフマドの手が私を愛してくれている」

「え、苦しいんじゃないの?」

 ハディージャは短めの高い声を発しながら、上気した顔で小さいアフマドを両手で捕まえる

「ね、ねえ、どうしたの、これって、なんかまずいんじゃないの」

「いいの、うれしい」

「いや、柔らかいところが。あ、これは拙いよ」


 その後、小さいアフマドは自分が何をされているのかわからなかった。ハディージャに抱きしめられ、両足を絡められ、胸で抱えられ

「た、助けて。これが苦悶の修行なのか」


 この後の二人はどうなったのか。次の日すっきりしたハディージャと、疲労困憊した夫のアフマドの顔とが印象的だった。

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