10 戦った果てに
「こうなっては殺戮だ! ネルノルテ、海洋の残りや陸上も念入りに砲撃しろ......もう、あの惑星表面はみたくもない! すべてを焼き払ってしまえ」
チュライは激高しつつ、そう叫んだ。ネルノルテは無言のままうなづいた。
すでに彼らの艦隊は、旗艦艦隊のわずかだけが残存するだけだった。彼らは、そのすべての火力を用いて惑星表面を攻撃し続けた。
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抵抗する力を失った惑星表面では、海洋はほとんど蒸散して乾ききっていた。そのわずかに残された海溝を、戦線を離脱したレオンの潜水艦一隻が潜航しつつ密かに本拠地へ急いでいた。
「本拠地まで、この航行速度であれば残り一日程度で着く計算です……ただし、途中で海溝の一部分が干上がっていることが考えられます」
「そうか、そうすると途中から徒歩で基地へ向かわなければならないことになるな」
提督のレオンは、海図を見ながら部下にそう告げた。それでも、海溝の海水はまるで逃げ道をはじめから具えてくれていたように、彼らの潜水艦を本拠地基地へと導いていった。そして、あと一時間ほどで基地につくと思われたところで、海溝の海水は途切れたのだった。
「さて、皆、ここからは困難な行程になる……海水があればこの潜水艦でそのまま進めるのだが……」
「提督、雨などで再び海水が戻ることは考えられないのですか?」
「確かに、その可能性が高い......敵は、もう我々が全滅したと考えたらしい......敵の砲撃がやんだのはそのせいだろうから、地上が加熱されることもなくなった......そのうち、大雨になって海水が戻ってくる可能性が高い」
惑星上はあまりに多くの海水が大気圏内に充満しているために、時々ひっくり返ったバケツから水が注ぐように雨が降り注ぐことがあった。しかし、それがいつ来るかはわからなかった。艦内の部下たちは、観測を続けて来た経過から、必ずそのような雨が降ると予想した。しかし、住民たちは、早く進むことを主張した。
「提督、こんなところにとどまるのですか?」
「早くここから本拠地に行かなければ、有効な反撃が出来ないではないですか?」
アイゼンとシャルレ、マズールをはじめとした収容されていた住民たちは、口々に歩いて急ぐことを主張した。提督は、大気圏内の観測結果を手にしながら、住民たちを説得した。
「歩きで本拠地に急ぎたいのであれば、崩れやすい崖や谷を行くことになる......激しい登攀と滑落の危険、道なき谷を巡ることになる……豪雨が降りだせば、激流が襲っても来る......そんなところを、おそらく最低でも6時間は歩かなければならないんだぜ」
「提督! そんなことを言っていては、早く本拠地要塞に戻れないじゃないですか」
「みなさん、ここから本拠地へ徒歩で行く場合、その行程を案内できる者はいないんだ」
ほとんどの住民たちは、気ばかり焦っていたためなのか、歩いて本拠地基地へ戻ることを主張し続けた。ただ、村長やアイゼンとシャルレ、マズールたち数人だけは、提督の説明を海図を見ながら理解したこともあって、艦内に提督たちと共にとどまることを受け入れ始めた。
「我々は、この艦に収容されて、なんとかここまで生き延びて来られたんだ……それは、提督の判断に拠っているところが大きい......みんな、なんとかここは我慢してほしい」
こうして、村長たちの説得もあってか、住民たちもまた艦内にとどまることを選んだ。
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雨はなかなか降ってこなかった。それでも、衛星軌道上からの砲撃がやんだことで、ようやく大気圏内の水蒸気は冷え始め、突然に豪雨が降り注ぎ始めたのだった。
「これで、何とか進める......徐々に海水も戻って来るだろう」
こうして、海水が再び海溝を満たし始めた。その速度は、想定よりもはるかに遅く、なかなか水位は戻ってこなかった。
「敵に発見される恐れもあるから、おいそれとは動けない......発見されてしまうと、本拠地も発見されることになる......此処は慎重に行かねばならない」
「せめて、見込みを教えていただけると......」
そんな提督と住民たちとのやり取りを聞きながら、アフマドはハディージャ達が聞いているのも忘れて、独り言ちた。
「待ち続けなければならないときこそ、静かにしているべきだ......僕はハディージャと一緒に静かに過ごして居なければなければ未来はない.......だから、これからはいつも一緒に居たい......それが愛を注ぎ注がれることにつながるから......そして静かに待ち続けなければいけない」
アフマドたちや住民たち乗組員たちは、閉鎖空間の中で待ち続けた。それも、水面から近い位置でとどまっているため、大きな音を出してはならなかった。こうして、何日も何日も彼らは雨を待ち続けた。
豪雨は降っては止み降っては止んだ。雨が降る限り、激流に飲み込まれることが分かり切っていた。焦る気持ちとは裏腹に、海溝を歩いていくことはかなわなかった。ただ、雨が降り続け、水位が増すとともに、雲の切れ間も見え始めた。
星空が見える日が徐々に増えた。提督のレオンは、艦内の住民たちや部下たちの心理的負担を軽減するために、夜間の間は水面に艦体を露出させ、夜空の下で過ごせる時間を設けた。それは、住民たちばかりでなく提督や士官、乗組員のすべてに、安らぎのひと時を与えた。
その星明りの中を艦内の人々は思い思いに時を過ごした。ある者たちは及びある者たちは、艦上の平坦な部分に寝そべった。そんな人々がひとときの楽しい時を過ごしているとき、アフマドは黙って星空を眺め続けた。
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「この安らぎのひと時の後、ふたたび苦難の時が来る…」
傍にハディージャが来た時、アフマドはそうつぶやいた。二人がこの時脳裏に浮かべたのは、今後のことだった。ただ、そのあと二人は長く黙り込んでいた。いや、それは二人だけがささげた沈黙のいのりの時だった。
やがて、アフマドは目を開いた。改めて、彼が信じてきたことを振り返った。
「たとえ見えなくても、たとえ声で応えてくださらなくても......僕たちは、この時空を僕たちのために創造された啓典の主がここで共に居てくださっていることを、つまり臨在を感じられる」
「そうね、アフマド......ねえ、ところで......さっき、なぜアフマドがいつも私といたいと思っているか、を話していたわよね......愛を注ぎ注がれるため、とか......」
ハディージャはふとアフマドの独り言を思い出して彼に問いかけた。アフマドはそう聞かれた途端、顔を真っ赤にして口をつぐんだ。
「うっ......何のことかな?」
「ねえ、さっき言っていたじゃないの?」
ハディージャは彼の前に立って彼に正面から体を寄せ、彼を暗がりに押し込んだ。アフマドは当然ながら、ハディージャの質問した意味を理解した。だが、今はそれに正直に答える時ではないと、理性を最大限に働かせて一生懸命に自分を制した。
「え、何のことだ?」
「ねえ!」
ハディージャは少しばかり怒りを含んだ思いを込めて語気を強めた。同時に、彼女はアフマドを見つめながら、引き付けている両腕に力を込めた。責められ責められて、アフマドは先ほどまでの力強さと冷静さとをすっかり失ってしまった。
「ね、ねえ、ハディージャ、なんでそんな風に僕に圧力をかけるの? こ、困る......」
「だって、私について言っていたじゃない......『いつも一緒に居たい』って......」
ハディージャの両手は、アフマドの両頬を捕らえ、ハディージャの目はアフマドの目を覗き込んだ。アフマドは逃げられないことを悟り、観念した。
「それは......ぼ、僕にとってハディージャは家族だから、いつも一緒にいたいと言ったのであって......」
「えっ?」
ハディージャは、顔を真っ赤にして口を閉ざした。彼女は自分が男心をわかっていなかった、と我に返ったのだった。でも、実はアフマドもまた、自分のハディージャに対する気持ちの変化がわかっていても、それを口にしてはいけないような気がしていたのだ……やはり、彼は女ごころが分かっていなかった。
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数日後、海溝の海水は潜水艦が航行できるほどに水位を増した。
「そろそろだな......そろそろ進むことができる......ソロソロ進むんだぞ」
レオンは冗談を言いながら、艦橋から潜航を指示した。それは、もうすぐ本拠地基地に到達できるという期待と不安が入り混じった心理に、今までの精神的な疲れが重なって、彼自身が少々精神的に高揚していたせいかもしれなかった。
提督は慎重にそして静かに潜水艦を本拠地へと向かわせた。その半日後、ようやく彼らは本拠地基地への入り口付近に到達した。
「提督! 間もなく本拠地要塞への入り口に到達します」
「提督、本拠地要塞の入り口が見当たりません!」
「そうか、やはり......」
本拠地周辺は激しい爆撃によって、崩落が激しかった。当然、潜水艦がそのまま本拠地基地へ入ることはかなわなかった。彼らは、全員潜水艦から脱出し、徒歩で移動し始めた。激しい雨の中を、彼らは危険な登攀を繰り返し、本拠地基地への入り口と思われるところへ何とかたどり着いた。
崩落箇所はいたるところにあった。それでも彼らはかつては入り口からの通路であった横穴を、なんとか進み歩いた。たどり着いた本拠地要塞は、ほとんどが死に絶えていた。
「提督、先ほどこのエリアの上部構造を見に行ったところ、どうやら敵の砲撃が直撃していたようです」
「不運な一撃がここを襲ったのか…...」
レオンはそういうと、そのまま祈りをささげるかのように目をつぶった。その後、彼らはさらに過去に検出した救難信号の記録をもとに、発信位置へと急いだ。そして、彼らがそこに発見したのは、息絶えた通信兵たちだった。
「ここは、司令部のはずだ」
レオンの声は悲痛だった。彼宛てにレアが発信した救難信号には「迎えに来て」と記されていた。気持ちを込めた言葉が、ここから発信されたに違いなかった。つまり、ここに要塞司令官のレアが隠れていたと考えられた。
「レア......」
レオンは小さくつぶやくと、狂ったように司令部跡を捜し歩いた。
「レア! レア!」
「レア! 生きているなら、返事をしてくれ!」
レオンの後についてきた住民たち、アフマドたちは、ただただレオンを見守ることしかできなかった。
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「提督、あそこは何でしょうか?」
部下の一人が指さしたのは、当直士官が交代で休む最奥の休憩個室だった。
「あそこを、一応確認しておくべきかと」
「そうだな」
そのドアを開くと、その部屋にはさらに奥があった。それはレオンも知らない防空壕が設けられていた。
「こ、これはなんだ?」
「なんでしょう......」
「この司令部は、これ自身が防空構造になっていたはずなのだが、この防空施設に、さらに防空壕があるというのだろうか?」
レオンは半信半疑のまま、その奥、さらに最奥を目指した。
「ああ、そうか......この先にはエネルギー炉の制御室があるはずです」
潜水艦の動力炉技術官が思い出したように、声を上げた。レオンはエネルギー炉の近くが最も安全かつ効率的に人間たちを生かすエリアであることを思い出した。
「そ、そうか!」
大声を出したレオンは、そのまま最奥のエネルギー炉制御室へと走り出した。部下たち、そして住民たちは慌ててその後を追った。
最奥にはまだ指令を出し続けているレアと残存兵卒たちの一団がいた。そこで、レオン一行はレアたちと合流した。
「レア!」
「あれ、レオン、戻ってきてくれたの?」
レアの大声に、レオンたちは歓声を上げた。
「なんでここにいたんだ?」
「敵の爆撃が激しく、要塞の上部構造が徐々に崩壊し始めたから、生き残った者たちだけでここに集まったのです」
エネルギー制御室には生活設備や大量の食糧など様々なものが運び込まれていた。それらを少しずつ消費しながら、彼らはエネルギー炉の燃え残りを利用していた。彼らは、本拠地の内部で息をひそめるようにして生き延びていたのだった。
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「よく生き延びていてくれた!」
レオンはレアやほかの生き残りたちに、そう声をかけた。レアたち要塞の要員たちは、表情を明るくして返事を返した。
「提督たちこそ、よくここまで生き延びられてくださって......みなさん、いずれも傷だらけ、泥だらけですね......さあ、シャワー室もありますから、家族単位で順序良くご利用ください」
「えー、シャワーがあるの?」
「ありがとう」
住民たちは口々にそう言って歓声を上げた。
提督や潜水艦の乗組員たち、村人たちは次々にシャワー設備を利用した。アフマドとハディージャは、自分たちがよそ者であることを十分認識していたためか、シャワー施設利用をためらっていた。そこに、全体の様子を見に来たレオンが通りかかった。
「アフマド、ハディージャ、あんたたちもシャワーを早く使うとよい…...お湯の残りが少ないらしい......」
「わかりました」
「ありがとうございます」
二人は順番の最後にシャワー設備を利用することとなった。ただ、係員は少々困ったことを言い出した。
「ちょうど、あなたたち二人で終わりですね......残りの水があと5分の分量もないんです......」
「えっ?」
「ちょうどお二人はご家族なのだから、一緒に使ってくださいね」
「そ、それは困る......」
「あなたたちは夫婦なんでしょ?」
「僕たちは未成年です」
「じゃあ兄妹なんでしょ......申し訳ないけど、家族なら一緒に利用してもらえないかな?」
「だ、だから、僕たちはもうすぐ大人になる未婚の男女なんです」
「だから、どうしたというのです?」
アフマドとハディージャは、この星の文化を初めて知った。未婚の男女ではあっても、家族であれば恥ずかしがる事情がないらしかった。
「ぼ、僕たち、兄妹とはいっても血縁ではないから......」
「困りましたね......もう水は少なくなっているんです......水は長い時間貯めないと、使えないんです......このエリアで過ごすには、やっぱり清潔にしていただかないと困りますし......さあ、とにかく家族なんだから、一緒に! そして、早くしてください!」
本拠地基地の要員は、有無を言わさずに二人を脱衣所へ放り込むと、ドアを閉めてしまった。
「僕は、脱衣所で目隠しをして待っているよ......だから手早く済ませてくれると嬉しい」
アフマドは仕方なく自らは身近なタオルで目隠しをした。ハディージャは先にシャワールームに入っていった。
「アフマド、大変よ、あと3分でなくなるって......」
「ええ?」
「仕方ないじゃない、一緒に......」
こうなると、少女は強かった。だがアフマドは拒否感が強かった。
「だって、僕は見なくて済むけど、ハディージャには僕の......が、見えちゃうじゃないか!」
「じゃあ、私も目隠しをするから......目隠ししているんでしょ、そのまま入ってきてよ」
二人は時間が限られている中を、どたばたとシャワーを使い始めた。狭い中での忙しい作業は、困難を極めた。二人の目まくしは外れてしまったため、良かれと思って照明を消すと、それがまた作業を困難にした。5分の間、二人は自分の体を洗いながらも互いに体をぶつけはするは、二人そろって転倒はするは、悲鳴を上げるは、という状態だった。作業は終わり、息も絶え絶えの二人は、互いに恥ずかしさはあったものの、何かを感じ合う余裕などあるはずもなかった。
息を切らしたまま暗がりのシャワー室を出た二人を、住民たちはなぜか好奇と祝福の混じった微笑みで迎えてくれた。
「おお、二人とも、結婚の準備を済ませたのか?」
「ちょうど、提督がいるのだから、結婚式をしてもらえ!」
「いいねえ、お祝いだぞ!」
おそらく彼らは、未婚の若いふたりだけが暗い一室から息を切らして出てきた姿を見て、この星の文化に照らし、結婚が前提の何かをしたと考えたらしかった。その後、住民たちは大騒ぎをして、事態を飲み込めない二人をそのままに、二人の結婚式を勝手に準備した。
「提督! こんな時に、何ですが……結婚式をやってあげたいカップルが居たんです」
「おお、住民たちには若者たちも多かったからなあ......ああ、そうか! アイゼン、シャルレだな」
「それで、あの子たち、アフマドとハディージャなんですけど.......」
「あの二人かぁ? あの二人は、幼い時から一緒に育ったはずなのに、今になって手をつなぐことさえろくにできないんだぞ!」
「でも、先ほど暗いシャワールームで二人だけの秘め事をやっていたんです......それも、息を切らして......よほど激しい愛の交換をしていたに違いないんです」
「へえ、そうなのか.......それはめでたい」
結婚式は提督により執行されることになった。あとはみな勝手に盛り上がり、アフマドとハディージャが抗議するのを意に介さず、さっさと式を終えると宴会を始めてしまった。
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「地上の奴らは、どうなっている?」
提督兼大神官のチュライ・マーゼルが、座乗するシムーン33艦隊旗艦ゼルノックの専用玉座席から旗艦艦長のネルノルテ・テルメイロルを召喚した。
「組織的な抵抗はやみました......熱的な変動も見られなくなりました......上陸をしてもよいか、と......」
「いいか、旗艦艦隊の上陸部隊は虎の子だぞ......失敗は許されん」
「ええ、心得ております」
衛星軌道に達したシムーン33は、さらに念入りに惑星表面を爆撃し続けた。
「もういいだろう」
チュライ自らが、そう宣言し、上陸部隊の降下が指示された。その指令を受けてネルノルテは、従来に比較するとはるかに少ない数ながらも上陸部隊を降下させた。彼らは、アンデッドと化した怨躯たちの上陸占領部隊、吸血鬼と人狼たちの人間捕獲部隊、雑多な魔族から構成される破壊部隊だった。彼らがシムーン33に残された最後の上陸部隊だった。
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「怨躯が近くに来ています......その後ろには魔族が!」
その一報は、本拠地要塞残骸の周囲を哨戒していた監視隊員からのものだった。
「編成は、従来の惑星全体を征服するためだった大部隊とは違い、ざっと数千ほどの部隊です......おそらくは、とこかで逃げまどっている同胞たちを狩るための部隊編成のように思われます」
「うーむ、彼らはおそらく、残存の上陸部隊だろう、それも最後の部隊だろうよ......なぜなら、最後にこの星の衛星軌道上に姿をみせた艦隊はおそらく旗艦艦隊、最後まで残存した艦隊だからだ」
レオンは、提督らしく冷静に分析して見せた。
「ということは、ここを発見されなければ、戦いを避けられる、と......」
「いや、発見される確率は一定程度ある」
「その時は、戦いましょう」
本拠地基地の要員たち、住民たちは口々にそういった。レオンはそんな勇ましい言葉を聞きながらも、本拠地基地司令のレアを見つめて言った。
「問題は、我々に有効な対抗手段がないことなんだが......」
「つまりは、発見されてしまった時、我々には絶望的な戦いしか残されていない、ということね?」
「いや、戦う手段はないことはない」
ここで、アフマドは再び声を上げた。
「提督! ここを脱出して、逃げましょう......彼らに見つからないように逃げ回るのです」
「それは、自殺行為だよ」
「提督......なぜですか?」
「彼らは赤外線スキャンもしくは熱スキャンを使っているきらいがある......おそらく、地上を大集団で移動すれば、簡単に見つかってしまう」
「提督、地上を異動するのではなく、あの潜水艦を再び使うのですよ......海の水位はだいぶ戻ってきているではないですか......先日の彼らの砲撃は、もう地上を表面的には焼いても、海水を蒸発させるほどの威力はないようですし......」
アフマドの提案はもっともだった。すでに海洋の水位は以前ほどにはなっていないものの、潜水して隠れ逃げ回れる程度の水位を確保できていた。
「そうか、それなら一案がある」
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ついに、シムーン33の上陸部隊は、本拠地基地内を発見した。彼らはエサに誘い込まれるようにして、地下へと降りていった。最初は怨躯たちの部隊、次に吸血鬼や人狼などからなる魔族部隊、その後に雑多な魔族たちが続いた。
彼らが最初に見つけたのは、かつてのこの本拠地要塞の要員だった干からびた骸だった。彼らはそれ以外の生きた人類を探し求め、本拠地の廃墟を下へ下へと入り込んでいった。だが、なかなか捜索は進まなかった。
「旗艦より、艦隊全艦へ......上陸部隊だけでは捜索がおぼつかない......他方、今や地上に組織的抵抗はなくなった......それゆえ、操艦要員以外は、上陸して捜索に加われ」
これは、旗艦艦長のネルノルテ・テルメイロルの指示だった。だが、これは結果を急ぎすぎた指令だった。
この指示により、旗艦を含めた残存艦隊は、操艦に必要な最低限の要員以外をすべての要員を、追加の上陸部隊として駆り出した。旗艦艦長は、いまや人類発見だけに集中し躍起になっていた。そんな旗艦艦長の指示に従って、ビユヌたち第33-97中隊も駆り出された。
「ビユヌリーダー、どうやら、ここは空っぽですね」
「バッコス、ペレ、イライザ、ガチャルバ、ベラルよ! 旗艦から観測した結果では、この廃墟の地下深くで生活反応が検出されていた......どこかに潜んでいるはずだ......よく探せ! 我らは死んだはずのところを旗艦に救われた身だ......乗る艦載機もない今、我々中隊のメンバーは、この場所で捜索に加わるしか働く場所はないんだぞ......白兵戦を覚悟して全員参加せよ!」
この時、地上から本拠地廃墟に入り込むための入り口付近が、突然の爆発とともに崩落した。
「て、敵の砲撃です!」
「なにぃ、どこから!?」
「海からです! それ以外は不明です」
「旗艦へ連絡しろ」
「旗艦と連絡が取れません!」
「どうしたのだ!?」
「旗艦艦隊が惑星表面から砲撃を受けています」
「なんだと!」
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衛星軌道上の旗艦でも、大騒ぎになっていた。惑星表面からいきなり強烈なコヒーレント光が照射され、旗艦傍らの打撃艦が大破したのだった。
「テルメイロル艦長、敵からの砲撃です」
「艦隊全艦、応戦せよ!」
「駄目です、砲撃要員はすべて地上に出払っています!」
「な、なんだと!」
「本艦も主砲の全てが大破しています......今は艦隊全艦に回避行動を指示してください!」
「ううむ」
「艦長、多くの僚艦が、敵砲撃によって操舵不能となったために惑星へと落下しています......今や、我々の仲間は次々に艦を脱出してこちらに向かっています」
「そ、そうか、仕方ない......収容急げ! こうなっては......」
旗艦艦長はある決意をもって、提督兼大神官のチュライ・マーゼルの玉座へと向かった。
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「よおし、これでよい! 敵の上陸部隊はこれで地下に閉じ込めた......上空の敵艦隊も、どうやらこちらへ砲撃を加える力を欠いているようだな」
この一連の攻撃は、追加の上陸部隊が本拠地廃墟へ入り込んだころを、見計らっていたように実施された。レオンたちは怨躯たちばかりでなく、追加の上陸部隊までをも本拠地廃墟地下ににすべておびき寄せたうえで、沖合の潜水艦から、エネルギー炉と生き残っていた大地動力線を用いて、本拠地廃墟目掛けて艦砲射撃を加えたのだった。
さらにレオン・ブラック提督は怨躯たちを上陸させた旗艦艦隊をも砲撃した。旗艦の前に立ちはだかった同僚艦によって旗艦は打撃を免れたが、それが艦隊への痛撃となったことで、衛星軌道上の残存艦隊は大混乱となった。
「ネルノルテ! おまえ、なにをしたかわかっているのか!」
チュライは珍しく激高していた。
「もうしわけございません」
「わかった、こうなっては、この艦そのものを用いて敵に襲い掛かることにしよう」
「わかりました、チュライ様......ただし、それなりに準備が必要です」
「そうだな、この種の攻撃はタイミングが命だ......一度しか行えない、しかも最後の手段なのだから......」
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怨躯たち上陸部隊が無力化され、衛星軌道上の艦隊はどうやら惑星の反対側に退避したようだった。
潜水艦は海面に浮上していた。海風を受けながらの艦上はつかの間の休息の時だった。潜水艦の乗員や収容されていた住民たちは、長く閉じこもっていたこともあり、思い思いの過ごし方を楽しんでいた。
そんな姿を眺めながら、提督のレオンは無言で何かを考え居てるようだった。要塞司令官だったレアは、長く付き合っていることもあって彼の顔を見て、戦術上の何かを考えていることを悟った。
「敵の、何を考えているの?」
「彼らは衛星軌道上から攻撃することが、どうやらできないらしい」
レオンは戦術家らしく敵の動きから敵の状態を検討していた。その思考を追うようにレアが質問を返した。
「何か、事情が生じたのか?」
「我々の砲撃が、衛星軌道上の敵艦をいとも簡単に撃沈させたのに、彼らはろくな反撃をしてこなかった......いや、反撃できなかったのだ......おそらくは、我々の放った砲撃か何かによって、彼らの武器に何らかの支障が生じたか、砲撃のための要員に支障が生じたのだろう」
「だから、彼らはいったん撤退した」
「ということは、彼らはもう襲撃して来ない?」
「いや、彼らは惑星の反対側にとどまっている」
「ということは?」
「彼らはまだ攻撃の意思を持っているし、何か攻撃の準備をしているということだ」
「先程の分析では、彼らの武器運用に支障が生じたと......」
「だが、武器だけが攻撃の手段ではない」
「どんな手段があるとお考えですか?」
「わからない、ただ、彼らにとって、自滅に等しい手段しか残されていないと思われるのだ」
「もうすこしわかりませんか?」
「わからないか、彼らには捨て身の先方がまだ残されいてるということだ! 我々はまだ戦いに勝ったわけではない......レア、今、ちょうど士官たち、住民たちが思い思いに過ごしている…...彼らを集めてくれ」
「わかりました」
レオンは、浮上している艦の上に士官たち住民たちを集めて、これから考えられる事態を説明した。だが、住民たちは、レオンの分析を聞いて、あたかも勝利が近いと口々に言い始めた。
「提督、奴らがまた来ても、この潜水艦と大地動力線さえあれば、奴らを粉砕できるじゃないか! 何を恐れているんだよ」
「俺たちは、もう勝利したようなものだぜ」
「そうだ、そうだ」
「だが、みんな、彼らはまだ衛星軌道上にとどまっているんだ」
レオンは、敵艦隊の危険性がまだ残っていることを指摘したのだが、それでも住民たちはその指摘を覚えるどころか、逆に戦意を高揚するように求めたのだった。
「提督、あんた軍人なんだろ! そんな弱腰でどうするんだよ」
「奴らに何ができるんだよ」
「そうだ、我々が生き残るには、奴らを全滅させなければならない......今こそ、そのチャンスだ」
これらの主張に加わるように、弱っていたはずのアイゼンとシャルレ、マズールたちまで、戦い続ける意思を示したことに、アフマドとハディージャは驚いた。
「積極的に彼らを攻撃するというのですか、それとも反撃をするというのですか」
「そりゃあ......」
住民たちはその指摘に戸惑った。それを引き取るようにレオンが現状分析と攻撃防御手段とを披露しつつ、方針を示した。
「もちろん、我々には、我々とは反対側衛星軌道上にいる敵艦隊を、積極的に攻撃できる手段はない。敵艦隊が再び衛星軌道上に姿を見せ、攻撃に出てきたときには、先日のように有効に彼らを撃滅できる兵器は有している」
「それなら、我々は奴らに対抗できる......場合によっては戦って最終的には勝利を得られるじゃないか」
これを指摘したのは、アイゼンだった。その指摘に賛成するようにシャルレ、マズールまでが頷いていた。そして、レオンもそれを肯定したのだった。
「それは、その通りだ」
他方アフマドは、再び逃げ隠れることを主張した。
「みなさん、なぜ戦いを選ぶのですか、陸上へ、そうでなければせめて海の中を逃げて逃げ続けることこそが生き残ることに繋がるのではないですか?」
「もう、おまえたちのいうことはきかないぜ」
「お前たちは、なぜ、そう主張し続けるんだよ」
アイゼンとシャルレ、マズールを含めた住民たちは、勝利が目前であると思ったのか、アフマドたちの言うことに、耳を貸さなかった。
「今、陸地へとにげるチャンスなのです」
「なぜいまなのか?」
「彼らには、もう陸上部隊がいないのだと考えられます……あれだけ怒り狂ったように動き回った艦隊も、今は隠れています......これらのことから、敵にはもう陸上に展開する手段を持たないと推察できるのです」
「そうか……しかし……」
「戦いのための脱出ではなく、逃げ続けるための脱出なのです……戦いには未来はありません! すでに、村人の中にも戦いにつかれている人もいるはずです......あなたもそうではないですか......だから、今はただ、弱い立場の人たちに黙って寄り添い続け、戦いを避け続けて逃げ回ることなのです! 潜水艦では、一撃されるか、大地動力線が失われてしまうと、もう沈むしかありません......今は陸へ一緒に逃げましょう!」
「潜水艦を、迎撃手段を捨てて逃げるというのか? うーむ」
レオンとレアさえも、逃げ続けることに否定的だった。アフマドとハディージャは、もはや語る言葉がなかった。
ハディージャとアフマドは、説得に限界を感じた。二人は集会が行われている艦橋近くを離れて、艦尾近くへ歩いていった。
「この苦しみはいつまで……それにこの人々は逃げられるのに敢えて戦うのか」
「ああ、啓典の主よ、なぜわれわれをこの迷いから解放して下さらないのか」
二人だけで寄り添うように座り込むと、二人は顔を見合わせて、黙ったまま寂しそうに空を見上げた。
艦橋近くでは相変わらず戦況の説明が続いていた。それを聞いても、二人は黙り込んだままだった。いや、それは二人だけがささげた沈黙のいのりの時だった。
このとき、ハディージャは杖の疑似声音を聞いた。
「ためらわずに荒れ野へ逃げよ」
そうこうしているうちに、衛星軌道をスキャンしていた観測員が大声を出しながら観測結果を持ち込んできた。彼が提督に持ってきた観測結果は、蛸のような異形戦闘艦の大群が、本拠地の奥深くにまだ残されているエネルギー炉を目指して突入してくる姿だった。それは残存艦隊そのものが艦隊ごと捨て身の攻撃に出てきた姿だった。
「あれが本拠地要塞跡の地底に深く隠されているはずのエネルギー炉を目掛けて、そのまま降下してくるつもりなのか 自滅行為じゃないか!」
『いいえ、衛星軌道上には一隻の艦が残っています」
「それはおそらく旗艦だ......そうか、奴らはエネルギー炉を見つけたのか......それで残りの艦をすべて地上にぶつけて我々を無力化するつもりだ......その後、恐らく奴らは我々を捉えて生贄にするのだろう」
レオン・ブラックは、レーダースキャンの映像と窓から見えた空の一角に密集した光点の群れから、降下してくる艦隊の規模を悟った。彼は、襲い来る艦隊の無謀な行動に驚愕し、レア・ブラック配下の人員たちとともにすぐに離脱することをきめた。
だが、そのときすでに敵艦は星空いっぱいにひしめき合うほどに展開していた。それらは、最初こそ星空いっぱいの光点にすぎなかった。その光点こそは、みずからを大気圏内に突入させ、地下エネルギー炉目掛けてそのまま激突させようとしている姿だった。それらの一部には、地上目掛けて残りの爆弾や砲撃を加えつつ突入してくる打撃艦さえあった。
「全員、戦闘配置! 住民たちの収容急げ! 大地動力線が健在なうちに、あの敵旗艦へ一撃を加えてやる」
だが、潜水艦は、降り注ぐビームや爆弾の中を、なかなか動くことができなかった。逃げることさえできなくなった住民たちや、アフマドたちは、ただただ恐怖に震えて空を見上げるだけだった。
二人は沈黙の祈りをつづけた。彼らは、ただひたすらに「啓典の主よ、いつまでなのですか、救いはいつ来るのですか」と祈り続けていたのだった。
ハディージャとアフマドは、この地が滅びることを悲しんで、空を仰いだ。その視線の先、はるかかなたの空の上には、二人の祈りに拠って現われた六翼ドラゴンが小さく見えた。その姿は、ドラゴンとはいえ、周囲の戦闘艦たちに比べてはるかに小さく、渡り鳥のように非力で目立たない姿だった。
「アフマドとハディージャよ、今は休むがよい」
久しぶりのドラゴンの疑似声音だった。二人は、ドラゴンの言葉に従って潜水艦を後にした。
空へと登っていくドラゴンの背中から、二人はこの惑星の地平線の彼方に、既に永い間立ち続けていた黒い巨体群を見出した。それはいままでの敵艦隊の攻撃によって惑星表面に露出した呪縛司達、つまり古代の黙示録によって伝えられた呪縛司達の姿だった。おそらく、こののち、何かのタイミングで再び動き出すに違いなかった。
二人は、その黒い呪縛司達によって地上の人々が救われることを願った。
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二人がこの地を離れてからしばらくしてから、黒い巨体群が動き始めた。
「地上の人間たちよ! あなたたちは、この惑星に群がるあの魔族たちと同じ過ちを繰り返そうとしている!」
黒い巨体群は、黙示録に預言された呪縛司だった。彼らはその言葉とともに動き出した。
「立ち返れ......思い出せ、経典の民たちよ! そうすれば経典の主があなた方を守られる......たとえこの星アクサルが壊滅しようとも、啓典の民であるあなたたちが滅びなければ、啓典の文明であるアクサルは形を変えてでも存続する……そして今でも啓典の主が、自らを木に掛けられた犠牲者のように血を流して死する姿、そして復活の希望を見せつつ、あなた方の傍に臨在しているのだ……あなたたちはそれによって新たなアクサルの民、啓典の民として逃れていくことができる……その先には必ずあなたたちを選んで迎えてくださった啓典の主の配慮によって、あなたたちは新たな地で生きる......立ち返れ」
その言葉に従って、誰かが立ち返ったのだろうか。衛星軌道上のシムーン33旗艦目掛けて、呪縛司の一撃が走り、大破した旗艦は大気圏へと火の玉となって墜落していった。
「ここには、あの呪縛司が用意されていたのか......」
それが、提督兼大神官チュライ・マーゼルの最期の言葉だった。




