自己過信
英夜は店長にみんなの前で責められて、項垂れた。
「でも……みんなの前で責めるのは良くないと思います」
「俺に口答えする気か? 新人の分際で! 恥を知れ!」
「あっ、す、すみません……」
「全く、そっちの方も教育ができていないみたいだな、君は。クビにされたいのか?」
至極真っ当な意見を言われても、店長は聞く耳を持たなかった。
「そうやって怒鳴っていればいいと思ってんだろ、あんたは」
「は? 上司の俺に向かってタメ口か?」
「あんたなんか上司でも何でもない。うるさいおっさんだよ。偉そうにしてればみんながついてくるとか思ってる、歳寄り! 恥ずかしいのはあんたの方だ! クズ!」
英夜は言いたい放題言って、店長を怒らせた。
「何だと、このクソガキが……!」
「ああ、辞めてやる! こんなクズのいるバイト先なんて、クソのゴミ溜めみたいなとこだ! ネットにも広めてやる! ここの店長はクズでどうしようもない人間だって! そうなったら困るのはあんただろ? どうだ、思い知れ俺の力を!」
英夜は笑いながら、勝ち逃げをしていった。
だが、英夜の書き込みはそれほどネット中に広まらなかった。
影響力のある有名人の書き込みではなく、一般人の書き込みなのだ。
憂さ晴らしに書いたのだろうというコメントもあった。
当たっている、と英夜は心中で思った。
「カナーン……俺……って、たいしたことないのかな」
隣で歩いているカナーンの甲羅を撫でて、英夜は話し続ける。
「俺にはもっと力があると思ってた。俺の言葉一つで、一気に味方を増やせるって。あのクソがいる店を潰せるって。でも……俺にはそんな力、ないんだな」
ネットの人間は、スキャンダルや悪い噂には敏感なはずだ。
だが、たった一人が何か言ったところで、どうにでもなるわけじゃない。
世界は広い。
英夜の持てる能力だけでは、足りないのだ。
英夜は自分の力のなさを痛感した。
力がないことがわかって、良かったのだ。
このままそれを理解せずに人生を歩んでいけば、一生自分の力を過信して自惚れている、恥ずかしい人間になっていたから。
「……暫く、職探しだな……」
英夜は分厚い電話帳のような本を取り出して、就きたい職を探す。
できることは料理しかない。
料亭にでも雇ってもらえれば、いいのだが。
「……遂にニートデビューか……」
ハァと英夜はため息をつく。
カナーンが鳴き声を披露した。
「カナーン……。わかってくれるのは、お前だけだよ」




