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愛こそ必要悪で正義 -sins-  作者: 社容尊悟
Ⅶ 人間と動物

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ありふれた人間であることを認めたくなかった

 正社員になりたくなかったから、ならなかったのではない。

 正社員になれなかったのだ。

 最終面接まで行っても、落ちた。

 どの会社も大体一次選考で落ちて、英夜を欲しいと思う会社は少なかった。

 会社のイメージに合わないから、その会社とは仲良くやっていけそうにないから、自分の実力をちゃんとわかっていないからと言い訳をした。

 自分に実力がないことを認めなかったのだ。

 リーダーシップも、人に自慢できるような能力もなく、ありふれた人間であることを認めたくなかった。

「俺は凄いんだよ」

 悲しいかな、それに気づくのは、アルバイトを辞めてからだ。

「俺は……もっとできる。あいつなんかより、もっと」

 あんな奴よりも俺の方が優れていると英夜は言い張った。




 実のところ、優れているのは店長だと頭ではわかっていたのだ。

 怒りっぽいが、現場を指揮する店長として、統率が取れていた。

 店員からは尊敬もされていた。

 あの人が店長だから、店が回るとさえ言われ続けている。

 英夜はその才能に嫉妬していたのだ。

 性格に難ありでなければ、店長を認めることができたのだろうか。

 店長が開店前にみんなを集めて、指示を出した。

「今日はお得意様がいらっしゃる。我が社を懇意にしてくださっているお客様だ。ご友人にも広めていただいている。皆、心してかかるように」

「はいっ」

 店員一同が声を揃えて、気を引き締めた。

 失敗は許されない、大事な客なのだ。

「まず、カウンターに当たる君たちに指示を出す」

 店長はそれぞれの持ち場での対応について、細かく指示を出した。

 みんなが一丸となってお得意様へのもてなしをすると、お得意様から礼状や高級な品物が贈られてくるそうだ。

 お得意様は気の良さそうな老人で、着物を着ている日本人女性だと聞かされた。

 英夜は実際に会ったことがなく、話に聞いただけで特に興味も持たなかった。

 高級な品物ももらった覚えがないから。

 もらっていたとしても、店長や店長候補の人間しか食べていないのだろう。

 互いに嫌い合っていて世話の焼ける英夜に褒美はない。

「よし、次。ホール担当。ホール担当は、俺が見張ってる」

 カウンター担当の店員たちが、準備に取りかかりにミーティングルームを出た。

「はい」


 ホール担当は英夜を入れて五人。

 五人で力を合わせて、メニュー通りに料理を作っていく。

 少しでも間違えたら作り直し。

 間違えた料理は後で店長が食す。

 作り直すと非常に時間がかかるので、ホール担当は手順を間違えないように頭に入れておく。

 英夜は、勉学は苦手だが、料理に関しての知識ならば店長にも負けない。

 一度も失敗したことがないのだ。

 正に料理の天才とも言える逸材だった。

「出汁は一番だし。沸騰させないように、俺が見てるから。代わりにじゃがいも剥いて」

「はい、お願いします」

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