ありふれた人間であることを認めたくなかった
正社員になりたくなかったから、ならなかったのではない。
正社員になれなかったのだ。
最終面接まで行っても、落ちた。
どの会社も大体一次選考で落ちて、英夜を欲しいと思う会社は少なかった。
会社のイメージに合わないから、その会社とは仲良くやっていけそうにないから、自分の実力をちゃんとわかっていないからと言い訳をした。
自分に実力がないことを認めなかったのだ。
リーダーシップも、人に自慢できるような能力もなく、ありふれた人間であることを認めたくなかった。
「俺は凄いんだよ」
悲しいかな、それに気づくのは、アルバイトを辞めてからだ。
「俺は……もっとできる。あいつなんかより、もっと」
あんな奴よりも俺の方が優れていると英夜は言い張った。
実のところ、優れているのは店長だと頭ではわかっていたのだ。
怒りっぽいが、現場を指揮する店長として、統率が取れていた。
店員からは尊敬もされていた。
あの人が店長だから、店が回るとさえ言われ続けている。
英夜はその才能に嫉妬していたのだ。
性格に難ありでなければ、店長を認めることができたのだろうか。
店長が開店前にみんなを集めて、指示を出した。
「今日はお得意様がいらっしゃる。我が社を懇意にしてくださっているお客様だ。ご友人にも広めていただいている。皆、心してかかるように」
「はいっ」
店員一同が声を揃えて、気を引き締めた。
失敗は許されない、大事な客なのだ。
「まず、カウンターに当たる君たちに指示を出す」
店長はそれぞれの持ち場での対応について、細かく指示を出した。
みんなが一丸となってお得意様へのもてなしをすると、お得意様から礼状や高級な品物が贈られてくるそうだ。
お得意様は気の良さそうな老人で、着物を着ている日本人女性だと聞かされた。
英夜は実際に会ったことがなく、話に聞いただけで特に興味も持たなかった。
高級な品物ももらった覚えがないから。
もらっていたとしても、店長や店長候補の人間しか食べていないのだろう。
互いに嫌い合っていて世話の焼ける英夜に褒美はない。
「よし、次。ホール担当。ホール担当は、俺が見張ってる」
カウンター担当の店員たちが、準備に取りかかりにミーティングルームを出た。
「はい」
ホール担当は英夜を入れて五人。
五人で力を合わせて、メニュー通りに料理を作っていく。
少しでも間違えたら作り直し。
間違えた料理は後で店長が食す。
作り直すと非常に時間がかかるので、ホール担当は手順を間違えないように頭に入れておく。
英夜は、勉学は苦手だが、料理に関しての知識ならば店長にも負けない。
一度も失敗したことがないのだ。
正に料理の天才とも言える逸材だった。
「出汁は一番だし。沸騰させないように、俺が見てるから。代わりにじゃがいも剥いて」
「はい、お願いします」




