正しいのは自分だと勘違いしている男
十中八九、おかしいと言われるに決まっていた。
で、結局、アルバイト先でも断られた。
店員も店長も英夜の言動に呆れを感じていた。
「……これが恋人?」
「はい。俺の恋人、亀のカナーンです。恋人なら、いても問題ないですよね」
「仕事の邪魔になるから、どっかにやっておけ」
「邪魔にはなりませんよ。カナーンはいい子ですから」
「常識を考えろよ、え? ここは厨房で、ホール。お客様にお出しする食事を作るところ。それなのに、常岡君、君は……。ペット持ち込み禁止だって言ってるのに」
「ですから恋人を」
「動物が嫌いなお客様だっているんだ! とっとと連れて帰れ、バカモン!」
英夜は店長に怒鳴られ、目を瞑った。
「す、すみません……」
英夜はカナーンを連れて帰り、家に置いていった。
英夜には、カナーンが寂しがっているのが、手に取るようにわかった。
カナーンも英夜と一緒にいたいと思っているとテレパシーで感じ取った。
「ごめん、カナーン。俺が店長になったら、別の部屋でもいいからペット持ち込み可にするからな。ちゃんと水槽も飼って、泳ぎやすくて住み心地のいい場所にするから」
しかし英夜の行っているアルバイト先は、アルバイトの人間が店長にはなれない。
店長は正社員なのだ。
そんなことも知らずに、英夜は何でもうまくいくと勘違いしていた。
カナーンは英夜の女神で、幸運を運んでくれると本気で信じていたのだ。
アルバイト先に持って行けば、みんなが幸せになれるとも思っていたので、店長に怒られて半ば納得がいかなかった。
英夜は機嫌を損ねていた。
「……カナーン。このまま、バイトサボっていいかな」
英夜は床に寝転んで、カナーンに話しかける。
「だって、俺……あの店長嫌いだし。会いたくないんだよなあ。馬が合わないっていうか、何て言うか……。怒ってばっかりだし、俺の他にも嫌いな奴絶対いる」
愚痴を零していると、段々とヒートアップしてくる。
今までため込んでいたストレスを、恋人のカナーンに吐き出すのだ。
「あの店長。絶対高卒だよ。俺は大学も出て、こうやって一人暮らし頑張ってる。バイトだけど、ちゃんと自分で自分を養ってる。偉いよな? 俺は偉いって、カナーンもそう思うだろ。でも俺のこと馬鹿だって罵るんだ。今日もバカモンとかって言ってたし。何様だよあいつ。ちょっと立場が上だからって、調子に乗んなよな」
英夜も人間らしく、文句を垂れたり愚痴を言ったりしたいのだ。
愚痴を零せる友人がいないので、こうして独り言のように垂れ流している。
誰だって、不満はある。
英夜はそう思う。
「常識を考えろって言ったってさ、人によって常識が違うだろ? しかもあの言い方はない。店長の器がないと思うんだよなあ。あいつ、何で店長になれたんだろ。不思議だよな、カナーン。俺の方が店長に相応しいと思うんだけど」
そんな願望を口にしても、実力的には店長が上なのだ。
若いから気づかない、自分の欠点。
英夜はそれに見向きもしなかった。




