浮気される男
片名準は四十代の会社員で、部長職に就いている優秀なサラリーマンだ。
妻一人、子一人を持つ、ごく普通の家庭を築いてきた。
子供のことは妻に任せきりで自分は働き詰めで大忙し。
子供に構っている時間などないほど、仕事に追われる日々を送っていた。
そんな準を見てきた妻は、ある時大人の恋愛をしてみたいと思って不倫をし出した。
子供をほったらかしにして、自分だけ男とランチを食べに行ったり遊びに行ったりして、準の稼いだ養育費と食費をばら撒いた。
その額、およそ数千万を遊びに使っていたのだ。
職場から遠く離れたファミリーレストランで妻が誰かと話しているのを見かけた。
「ねえ~。もっといいところ行かない? 一泊二日の旅行だったら、友達と行ってくるって言ったらばれないし」
「遠い場所なら、一泊二日じゃ足りないな」
「一週間くらい必要?」
「そうだな……金はどうする?」
「もちろん、あたしが出してあげる。お金ならがっぽり持ってるから」
「助かる」
明らかに金目当ての男だ。
それにまんまと引っかかる妻を見ていられず、準は妻の席に行ってどういうことかと事情を話せと命令した。
「……あんたか……。何の用?」
「お前、俺が必死に働いてるのに、陰でこんなことしてたのか。こんな……芸能人のスキャンダルに取り上げられるような……不倫なんか」
「あんたに愛想が尽きたから」
「……え。その人、旦那?」
「そ。でももうすぐ離婚するって決めてるから」
「……何……? 人が必死こいて働いて稼いだ金を、そんなくだらないことに使いやがって。お前こそ慰謝料を払え。俺の時間を返せ、クソ女!」
殴りかかりそうになった準を、騒ぎに気づいた店員が羽交い絞めにする。
「店内での乱闘は禁止しています……! どうか、おやめください」
「うるさい、言われたことしかできないバイト風情が……! ロボットが!」
ベテランの会社員としてのプライド。
バイトをしている学生に暴言を吐く。
「……すみません。でも……決まりなので」
「……ち、クソッ」
準は店を出て、煙草を一箱吸って気持ちを落ち着かせた。
イライラを抑えるためには、酒と煙草が丁度良かった。
イライラする度に一箱吸い切って、毎日煙草代がかさんでいく。
税金を山のように取られ、愛煙家たちは国に貢献するのだ。
ストレスを解消する道具がない人間には、いい薬だった。
「婆さん、煙草」
「あいよ。吸いすぎなよ」
「要らん心配するな。老い先短いあんたの心配しとけ」
「口の減らない餓鬼だねえ」
そう言いつつ、煙草を売ってくれる駄菓子屋の婆さん。




