永遠の別れ
愛の逃避行というものもやってみたが、家が一番好きだった。
「兄ちゃん。お出かけ楽しかったね」
「ああ」
「また行こう。二人だけで」
大きいのに手を繋いで、恋人らしく暗い夜道を歩いていく。
「現実は……うまくいかないもんだな」
「うん。私たちのこと、きっと母さんも父さんも認めてくれない。だから、二人だけの秘密。絶対に喋っちゃダメだよ。宮が死ぬまで、ずっと言っちゃダメ」
「わかった。約束だ」
これがきっかけとなったのか、宮は間もなくして、交通事故に遭った。
一時も離れていなかった二人が離れた瞬間、宮が道路の真ん中を歩いていて余所見をしていた車にはねられたのだ。
交通事故は、起こした車側が全責任を担う。
宮が道路の真ん中を歩いていたから悪いと言っても、事故を起こせば運転手が不利になるのだ。
宮はまだ若くて、未来もあった。
だから多額の慰謝料を渡された。
「娘の命には代えられない……」
母親は泣いて、それを受け取ろうとしなかった。
「そんなもの、もらったって、何の意味がないもの! 死んだ人間の命に比べれば、お金なんて……要らない! 燃やして、捨ててしまえばいいんだわ」
いつもは冷静な母親が、怒鳴り散らして泣き明かす。
父親は陰で泣いていた。
宮は、死にたかったのだろうか?
「……」
悪いことをして、兄に罪を背負わせるくらいなら、先に逝っていると伝えたかったのだろうか。
死んだら喋ってもいいという意味の言葉は、そういうことだったのかもしれない。
だが、宮が死んでみんなの心にぽっかり穴が開いた。
みんな抜け殻のようになって、残された沓を苦しめた。
母親も父親も言わないし、そんなことは思っていないだろうが、まるで『お前が死ねば良かったのに』と思われているようで、居心地が悪かった。
「ごめん……母さん。俺……宮を守れなかった」
「沓……」
「俺、家を出るから」
「ごめんね、母さん……あなたのこと、ちゃんと見てなかった」
「いいよ、謝らなくて」
「ごめんね……」
「じゃあ」
それきり、沓は我が家に足を踏み入れることはなかった。




