勘の鋭い母親
小学生の間は学校に行くふりをして、こっそりと抜け出し秘密基地に行って二人で遊んだ。
不登校が続いていたことは、両親にすぐにばれる。
担任からの電話がかかってくるから。
何があったのかと母親が聞いて叱りつけても、二人は口を固く結んで答えなかった。
言ったら殺される、と沓は脅えていて、それを知らない宮は口にするのが嫌だっただけ。
「どうして教えてくれないの……。母さん、二人に何か悪いことした?」
「ううん、違う……約束だから」
「約束? 沓は誰と約束したの?」
「言えない。言ったらダメなんだ」
「その人が困ることでもあるってことね。わかった。言いたくなったら、教えて。いつでも聞くから。もっと母さんたちを頼ってくれないと、いる意味なくなっちゃうからね」
二人をぎゅっと抱き締める。
二人の体が強張っていたことを感づく母親。
「……? あなたたち、何か怖い目に遭ったんじゃない?」
「……何でそんなことがわかるの?」
「ほら。何かあったら、母さんにちゃんと言いなさい。僅かに、体が拒否反応を起こしてるの。昔ね、誰かに嫌なことされた時、抱きつかれるのを拒否したわ。それは多分だけど、悪い人に触れられたから。心ではいい人だとわかっていても、触れられるのを嫌がる。人の心って複雑だからね。よくわからないけど、あなたたちもそう感じてる」
母親の手に、ビクッと肩を震わせて目を閉じる宮。
「……宮、可哀想に。こんなに脅えて。怖かったね、辛かったね。でも、もう大丈夫だよ。母さんたちがついてるから。……人間が怖いなら、着ぐるみでも着ようかな」
「着ぐるみ? どんな?」
「宮が大好きなお魚さんの着ぐるみ。ないなら、作ってみるわ」
母親はニコッと笑って、宮の緊張を解した。
宮を笑顔にできるのは、沓ではなく母親。
母親は大好きだが、同時に負けたくないとも思ったのだ。
沓の恋心は母親から妹へシフトチェンジした。
誰にも感づかれないように、ひっそりと恋心を育てていく。
勘の鋭い母親も、沓の宮への想いは最後まで気づかなかったらしい。
「沓、あなたは? そろそろ言いたくなったんじゃない?」
「おれ?」
「あなたも何か怖いことがあったんでしょう。話してみなさい」
「ダメだ。言ったら……ダメなんだ」
拳を握り締めて、沓は言いたい気持ちを抑え込んだ。
「……やっぱり、機は熟さないとダメなのかしらね……。ごめんね、沓。無理させてしまって。母さん、悪いことした。あなたが言いたくなるまで、ちゃんと待つことにするから」
母親は沓に謝って、宮を連れていった。
「……本当は」
言いたい。
けど、欲しい言葉を言ってもらっていないから、言えなかった。
たまには、約束は破ってもいいんだよと、言って欲しかった。
いつもはちゃんと守るようにするから、今日だけは破らせて欲しかったのに。




