お前はおれが守る
「私の妹は強引で、人の話あんまりまともに聞かない子だけど、仲良くしてやってね。悪い子じゃないから」
「……」
「って、あの子が受け持ってる子たちに言っても、しょうがないか」
担任の姉は豪快に笑った。
沓も笑った。
悪い人間もいたが、いい人間もいた。
悪い人間に出会ったことがなかった沓と宮には、衝撃的な事件だったが。
あのおぞましい事件があってから、お喋りだった宮があまり喋らないようになった。
怖い思いをして、トラウマになったのだろう。
今現在も歳のいった男性を見ると、震えが止まらないくらい恐怖している。
物言わぬ人形にされ、好き放題に体を弄ばれたのだ。
それも六歳といういたいけな年齢で、経験した。
嗜虐的な趣味の男に、いいようにされて、プライドもずたずたで、心も体も蝕まれた。
同じように怖い思いをした沓も、もっと喋らなくなった。
今では多少喋るようになったが、人に殺すと言われたのは初めてで、あんなに怨恨をぶつけられて恐ろしかったのだ。
「怖い、怖いよお兄ちゃん……もう大きい男の人、見たくない……」
「父さんもか?」
「お父さんは別……。だって、お父さんは優しいから。知らない人は見たくない……外に出たくない。ずっとここにいる」
「ずっと家にいるって……でも、母さんの願いは……」
二人が青春を送ってくれる様を見ていること。
だが、無理に外に連れ出して、宮の心の病が悪化すれば、元も子もない。
暫くは自宅で療養するのが得策か。
「母さんたちに話せるか」
「……」
「……無理か」
肝心な時に両親の力を頼らず、年端もいかない子供の、二人だけで力を合わせた。
涙で満ち溢れているボロボロの顔を見て、沓は傷ついた。
兄として、きちんと守ってあげられなかった。
たった数分早く産まれただけだが、沓は宮の兄であることを自覚していた。
今度は、目を離さない。
沓は宮を抱き締めて、約束した。
「お前は、おれが守るからな……」
「お兄ちゃん……」
「約束は……絶対」
母親に言われた決まり事、この『約束』は後に二人にとっての枷となっていく。




