芽生えた悪感情
「……」
ズクン、と心臓の音が鳴った。
嫌な、でも心地良い音だ。
今までに感じたことのない悦楽をくれる、新たな門出を祝うような音。
妹を傷つけられ、裸にされているのに、沓は興奮してしまった。
母親に淡い恋心のようなものを抱いた時から、沓の近親への興味が深まっていたのだ。
歪んだ愛情を持ってしまった。
小学生なのに、こんな感情を抱いてしまった沓は唇を噛んで、妹を奪還するために一人の男と戦った。
結局は負けて、大怪我を負うことになったが、男に殺されることはなかった。
「金ならいくらでもやる。だが、このことを誰かに言ったら殺す……! 見つけ出して、必ず殺してやる。あの女にも喋ったら、絶対に殺す。俺の趣味は、誰にも邪魔させない……俺だけのカワイコちゃんへのご褒美だ。ひゃははは」
沓はその男のことを狂っているとは馬鹿にできなかった。
妹に並々ならぬ煩わしい想いを抱いてしまったからだ。
自分も異常であることに気づいている。
気持ちが悪いのも、気づいていた。
動けるようになるまで、数時間はかかった。
宮に自分の服を着せる。
まだ傷が痛むが、沓は宮をおぶっていく。
部屋を出ると、担任の他の家族、恐らく双子の姉に心配された。
「どうしたの、その怪我……!」
沓は白々しいと思った。
「滑って転んで」
「でもその傷は……」
明らかに嘘だとわかる言い訳をされて、その人は眉尻を下げて沓たちを心配した。
「わかったわ。何があったか、言いたくないんだね。こっちへ来て。治療しましょう」
優しくされても、沓は警戒した。
さっきの男のように、外面は優しいだけかもしれない。
ぐずぐずしている沓を見て、痺れを切らした担任の姉は、沓に言った。
「なら、私が行ってあげる。救急箱と包帯を持って。手当しましょう」
担任の姉は宣言通り救急箱と包帯を持って、沓を縁側に座らせた。
「ちょうどあなたぐらいの歳かな。私の妹もね、こうやってよく怪我してたものよ。その度に包帯巻いたり、傷の消毒したり。毎日のように傷作って。もう大変だった」
「へえ」
毎日していたとあって、包帯を巻くのは上手で手際が良かった。
「消毒しないと、傷が化膿することもあるから、気を付けるんだよ。黴菌がいっぱい入っちゃったら、病院行かないといけないからね」
「……うん」
「はい、できた! 次は妹さんね。あら、服が……」
「……お、おれが無理やり……」
「ダメ。そんなことで、嘘つかなくていいんだよ。深くは聞いて欲しくないんでしょう? だったら聞かないから。でもどうしても言いたくなったら、嘘じゃなくて本当のことを言わないとね。嘘吐きは泥棒の始まりってね。私みたいな人には言わなくていいよ。あなたが信じられる大事な人に言ったらいいから」
担任の姉は微笑んで、沓に嘘をつかせないように口を閉ざさせた。




