次第に、思いは想いに変わる
「敬語も覚えたのね。偉いわね」
母親は宮の頭を撫でて、頬に軽くキスをした。
沓にも同じことをして、母親は言う。
「沓。いつもありがとう。いいお兄ちゃんになってくれたね」
「そんなこと……」
「どういたしましてって、言えるようになったらいいね」
「…………どういたしまして」
「偉いわ。沓、これからも宮のこと、宜しくお願いね」
母親は沓の頬を撫ぜて、母性本能溢れる笑顔で沓を魅了した。
そうだ。三歳の頃の、沓の好きな人間は、母親。
この時は恋ではなかったが、徐々に近親への思いが、想いに変わっていく。
「うん……」
「ありがとう。大好きよ、沓。宮も大好き。二人共、愛しているわ。これからもずっと、私たちの子供でいてね」
母親は二人を抱き締めて、二人に愛を囁く。
沓はぎゅっと目を瞑り、宮は顔を綻ばせた。
幼い頃から受けた愛情は、今も変わらずにいる。
沓と宮のことを第一に考え、優しい笑顔と温もりを与えてくれる。
沓もそれが嬉しくて、たまらなかった。
沓と宮が小学校に入る頃には、両親は五十を超えていた。
あの優しさは、たくさんの苦難を乗り越えてきたもので、晩婚して産んだ子供であることも要因だった。
若い夫婦ならば、子育てに対する意気込みというものが薄れていたかもしれない。
産みにくい状況で、命を懸けて産んだからこそ愛情をめいっぱい注げるのかもしれない。
それは本人に直接聞いてみなければわからないことだが。
「母さん、行ってきます」
「行ってきまーす! お母さん、お父さん!」
二人は新品のランドセルを背負って、元気良く挨拶をした。
「行ってらっしゃい。気を付けて行ってくるのよ」
「うん」
「はあい!」
母親は二人の見送りに出てきて、申し訳なさそうに謝った。
「ごめんね。入学式なのに、行けなくて……父さんの仕事も立て込んでて。こんなこと、あなたたちに言うことじゃないのにね。懇談には行くようにするからね」
「いいよ。無理しないで」
「ありがとう、沓」
「宮も、わかってるからね。お母さんとお父さんが、大変なこと」
「宮もありがとう」
二人を抱き締めて、行ってらっしゃいのキスをした。
「……恥ずかしいよ、お母さん……」




