堕ちた天使
アキヤが首を振って、ノーを唱える。
「宮の気持ちをわかっているのは、俺だけなんだ」
「それが自惚れなんですよ。家族であれ、兄妹であれ、わからないことはたくさんあります。あなたには見えていない。彼女の気持ちは……第三者にしかわからないんです」
アキヤの胸倉を掴んで、沓は叫んだ。
「お前に……何がわかる!」
「また、それですか」
「またって何だ!」
「そうやって何がわかる、なんて怒鳴ったところで、こっちは白い目で見るしかないんですよ。そんなものわかるわけないじゃないですか。私は貴方ではないのに。貴方の気持ちを押しつけたところで、現状は何も変わらないんですよ。頭の悪い子供の台詞です」
胸倉を掴んでいるのに、流暢に話すアキヤを見て沓は不審げに思っている。
咳き込んで話しにくくなるのが、当たり前なのに。
「女性に向かって、乱暴するのもいただけません。その様子なら、一度くらいは妹さんに暴力を振るったことがあるのでは? ビンタとか、しっぺとか」
「……ない。一度も、宮には」
「そうですか。クさんは貴方の大好きな妹さんですしね」
「それよりお前……」
沓はアキヤを離してやり、疑問を口にしかけた。
「私ですか? 私に興味を持つとは、思いませんでしたが」
「一体何者なんだ。武術でもしていたのか」
「この姿は仮の姿です。私は、本来は天使。堕ちた……天使です」
アキヤの正体が、ここでようやく判明した。
「人間のあらゆる負の感情と禁断の愛を好んだために、私は堕天使となってしまいました。であるので、今修行中の身なんです。ふふ……いつ終わるか、わかりませんけどね」
アキヤは嫌らしい悪魔のような笑みを、沓に向ける。
「堕天使……俺は、そんな奴に罪を洗い流してもらってるのか……」
「そんな奴とは、失敬な! これでも列記とした仮聖職者ですよ? 悪いことにはなりません。寧ろですね、この先いいことばっかり起きることを約束しますよ? 昨日の客人にも言ったことですが」
沓は難しい顔をして、アキヤの言葉を疑り深く思っているようだ。
「百歩譲ってお前が天使だとして、何故その後の人生が明るいものだと断言できる」
「辛いことがあった人間には、そうなるように私たちが力を貸しているんですよ。信じる者は救われるんです。信じなければいいことなんて、起きっこないですよ」
「……」
「では、帰ってください。私はこれから自室に行かねばなりません。貴方がいては、いつまで経っても懺悔日記を書けないではありませんか」
アキヤは沓の背中を押して、ドアの外まで追い出した。




