特別バカ
「貴方こそ、私の名前を呼ぶ気がないんですから。貴方に意見する権利はありませんよ。名前を呼ぶのだって、私の自由なんですからね」
「どうでもいい話で時間を潰すな」
「貴方が話を振ったんですけど!」
毛を逆立てて威嚇する猫のように、アキヤは沓の理不尽な物言いに反発した。
面倒くさそうに、沓はため息をついてアキヤを睨む。
アキヤは睨みたいのはこっちだという顔をしていた。
「お前とは馬が合わないらしい。さっさと終わらせて帰る」
「時間を引き延ばしているのは、話すのがド下手な貴方の方なんですけどね。まあいいでしょう。今日のところは、許して差し上げます。次は許しません」
一言も二言も多いアキヤを一瞥して、沓は話を続けた。
沓の話は生まれてから現在までのかなり長い話だった。
三時間どころではなく、五時間ほどかかってしまったのだが、待ち人は大丈夫なのだろうか。
暇を持て余しているのではないだろうかとアキヤは心配になってきた。
「これで終わりだ」
「はぁ……疲れました。トさんの話は長すぎます……オーバーヒートしてしまいそうですよ。キャパオーバーです。あううー」
話を聞き終わったアキヤは途端にだらけて、男性の沓の手前で寝転がった。
床をゴロゴロして、服を汚す姿に、沓は絶句している。
仮聖職者だから許される非礼の数々。
沓はアキヤが仮聖職者であることを知っているが、これではまるで堕落した人間のようだ。
「床に転がるシスター……今日日こんな者は見たことがない……」
「だから、私は仮聖職者なんですよ。割と融通が利いて、いいでしょう? 人の目なんて、気にしませんよ。私は私のやりたいようにするんです!」
「踏んでくれと言っている粗大ごみのようだな」
ゴロゴロ転がっているアキヤを沓は冷ややかな目で見つめる。
「踏んだら犯罪者になってしまいますよ? せっかく、罪を清算したのに、新たな罪を背負って貴方は何がしたいんでしょうか? バカですね、バカです」
「人をバカバカ言いすぎだ」
「バカじゃない人間が、この教会に来るはずありませんから。でも貴方は特別バカです。愚かすぎる人間ですね。他の誰よりも群を抜いて大バカです」
「お前の言葉、侮辱と受け取るが」
アキヤは目を細めて、むくりと起き上がった。
「何故助けを呼ばなかったんですか。貴方が頼れる人間は、一人もいなかったということですか? ご両親も、ご友人も……。おバカにも程がありますよ」
「……」
「ほんの少し、勇気を出せば助けられたかもしれないのに。何で貴方はそうやって一人で背負っていくんですか。そんなことしたって、誰も喜ばないのに」
「宮は……喜んでくれた」
「ク、さん。妹さんですね。喜べば兄が救われると思ったんですよ。本心じゃないんです」




