矛屡と小痲は同じなんだ
小痲は矛屡に聞こえないように、ぽつりと呟く。
「あたしとあなたに似ている部分なんて、あるのかしら……」
「あるよ。気づいてないだけだから」
「あたしのことなんだから、あなたよりも詳しいに決まっているじゃない。知った風な口を利かないで。不愉快だわ」
「他人から見た自分という窓があるじゃん。それだよ」
「ジョハリの窓のこと? あたしは信じないわよ。あたしが信じられるのは、自分だけだもの。第一、あなたとコミュニケーションを取っているとは、思っていないわ」
「会話することがコミュニケーションなんだからさ、目が合って睨み合うこともコミュニケーションなんじゃないかなー」
「呆れた解釈ね。コミュニケーションは双方の豊かな心身がないと駄目なのよ」
小痲のいささか難しい言い回しに、矛屡は首を傾げて意味を問う。
「どういう意味?」
「互いに思い合う気持ちがなければ、コミュニケーションが成立しているとは言えないのよ。会話だけでコミュニケーションが成立しているのなら、喧嘩して意見が食い違っていても、コミュニケーションが成立していることになるでしょう。そんなのをコミュニケーション力とは言わないの」
「あたしが聞いたら、ちゃんと答えてくれる。あたしと小痲さんも、コミュニケーション取ってるじゃん。違わないでしょ」
矛屡は小痲の手を取って、ニコッと笑った。
小痲は苦笑いを返した。
「あたししか信じないって言ってるじゃない」
「じゃあ何で、あたしに体の傷見せてくれたの? あたしのこと、信じてないの、それで」
矛屡の質問に小痲は言い淀んだ。
矛屡も自分の服を脱いで、小痲に見せた。
小痲のものよりも酷い、腹の深い切り傷を平然とした顔で見せた。
その他にも癒えていない傷がたくさんあった。
小痲の予知は外れたのか、唖然としている。
「あたしもね。ちっちゃい頃から空気読めない発言ばっかりしてきて、いじめられたんだよ。この体の傷は他人につけられたものばっかりじゃない。だから、あたしは君の気持ちがわかる。同じなんだよ、あたしたちは。どこかで通じ合ってると思ってた。あたしは、小痲さんのその傷に、引いてないから」
暗い話も明るい笑顔で吹き飛ばすように、重い言葉を軽い口調で言った。
「あたしの取り柄は、明るいことだけだからね」
「そんな……あたしの予知じゃ……」
「あたしはまた奇跡を起こしたんだね」
「いいえ、違うわ……奇跡は二度起こらない。これは必然よ……」
ごくりと唾を飲み込んだ小痲は、矛屡の顔を見て続ける。
「あなたがあたしを変えてくれる人かもしれないのね……」
「……変わりたいんだ……」
「そうよね。あなたは変わらないあたしが好きなんでしょう。あたしが変わったら、あなたは好きではなくなるわよね」
「違うよ。ちょっとビックリしただけ」




