小痲の傷
実は、小痲はただの人間ではなかった。
小痲は予知能力を持っていたのだ。
だから他者を遠ざけ、冷たくあしらってきた。
自分と深く関わった者の、未来が見えてしまうから。
それなのに、どうして矛屡とだけは深く干渉することを望んだのか。
それは大学生になってからわかったことだった。
「答えは一つ……あたしが、小痲の予知を一度破ったからだよ……」
矛屡は小痲が一人で昼飯を食べている時に、話をしに行った。
「……」
「小痲の不変の心を、打ち破ってしまった……」
「…………」
「ちょっとくらい、話聞いてくれてもいいんじゃない?」
「あなたは……真面目な人間は業が深いっていうの、知ってる?」
小痲の唐突な話に、矛屡は目を丸くする。
「知らないかな」
「あたしの体、見たことないわよね」
「うん……だって、君ガード固いしさ」
「ちょっと来なさい」
小痲は矛屡の手を引っ張って、トイレに連れ出した。
更衣室だと他の学生に見られる恐れがあるからだろう。
広めの個室に二人きりで入って、小痲は服を脱いで見せた。
体中に無数の傷痕。
切り傷と打撲の痕と火傷が残っていた。
顔には傷一つないのに、体中は傷だらけ。
下着姿になった小痲は矛屡を見て言う。
「顔を傷つけると目立つからよ」
「……」
「あたしはあなたが思うような人間じゃないわ。あたしは強くない。一人で生きようと思えば、自分を傷つけて生きることしかできないのよ。そうしなければ、生きている実感がない。死んでるのと同じ。血を見れば、生きているとわかるの。生きたいから自分を傷つけるの。自傷行為をする人間の言葉なんて、誰も信じようとしないけれど」
小痲の深い心の傷は、自分を傷つけることでしか癒えなかった。
だが、それは一時しか持たない。
すぐにまた自分を傷つける。
小痲は服を着直して、パンパンと汚れを払って直した。
「あたしには親もいない。愛してくれる人間もいない。あなただって……あたしという特別おかしい人間を好きになったから執着しているだけ。生きていたって仕方ないのに。未だに生に執着しているの。可哀想な人間でしょう。あたしは自分が大嫌いだわ」
自嘲する小痲の顔を、矛屡は悲壮感に溢れた顔で見ていた。
「やっぱり寂しかったんじゃん」
「……違うわよ」
「あたしだってさ、人の心を察する能力みたいなもん、持ってるんだよ。何かよくわかんないけどさ。……あたしが君のことを好きになったのは、どこか似てる気がすると思ったからだよ。変わらない君も好きだけど、あたしは君のそこに惹かれたんだ。まるで自分の鏡のようだとね」
矛屡は小痲に笑いかける。




