矛屡と小痲の出会い
察しのいい少女の名は、藺草矛屡。
少々変わった名前を持ち、それでからかわれたことも星の数ほどあった。
だが、どの時も明るく生きる彼女は、落ち込んだことはなかった。
……あのこと以外では。
藺草家はごく普通の一般家庭。
貸家に住んでいて、ローンも組んでいるサラリーマンと専業主婦の間に生まれた一人娘、それが矛屡だ。
矛屡という名前は、父親と母親の名前を半々にしてくっつけただけの簡単な名前。
一から考えるより大分イージーだ。
意味は特にないらしい。
「矛屡。可愛い名前」
「富矛の矛と蘭屡の屡。きっといい子に育ってくれるだろう」
「ええ……そうね」
可愛いからそう名付けた、と父親と母親は言った。
矛屡もそこまで名前に興味はないようだった。
名付けとは特別なもの、とは知らなかったからだ。
それを知るようになったのは、矛屡が十三になってからだった。
同じクラスの見目麗しい少女、後に矛屡の心を奪うことになる亜那伎小痲という名の少女。
彼女はとにかく変わり者で、他者を寄せ付けないオーラを放つ。
変わり者が好きな矛屡ぐらいしか、彼女に話しかけることはなかった。
「ねーねー、君名前は?」
「犬みたいな奴ね。亜那伎小痲」
「あなぎ、こま?」
「そうよ。あたしの名に不満でもあるの?」
「変な名前だなって思って」
「あら、あなたこそ変な名前じゃない。藺草矛屡なんて、今時流行んない名前よ。素敵だわ。あなたの両親に感謝しなきゃいけないんじゃないの?」
小痲は頬杖をついて、矛屡に言った。
矛屡は小痲の言葉の意味を理解できていなかった。
「あたしの名前、何で知ってんの?」
「クラスメイトの名前くらい、覚えてるわよ。自己紹介の時、話してたでしょ。あなたは何で覚えていないわけよ。何のための自己紹介? 時間を無駄にして何なのよ。授業をきちんと聞いていれば、勉強だってしないですむわよ。あたしたち生徒は、時間を有効的に使わないといけないのよ。こんな無駄な問答なんかしてないで」
ハァとつまらなさそうに小痲はため息をついた。
この年頃の女子にしては、小痲は真面目で堅い性格をしている。
それが他者を寄せ付けない雰囲気を醸し出しているのだ。
矛屡も最初は頭にきていた。
「小痲さん、君ってさ……」
「何よ。いきなり名前で呼ぶなんて馴れ馴れしいんじゃないの? 日本人なら、苗字にさん付けが普通よ。あなたに軽々しく呼ばれるほど気安い名前じゃないんだから」
「さん付けしてるじゃん。そう堅くならないでさ。もっと楽しもうよ」
「は? 何言ってるのよ」
「真面目に考えすぎると疲れるよ。ほら、今も眉間に皺寄ってる。あたしみたいに、気楽に生きればいいじゃん。そんな難しい顔ばっかりしてたら、幸せ逃げちゃうからさ」




