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愛こそ必要悪で正義 -sins-  作者: 社容尊悟
Ⅳ 女と女

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矛屡と小痲の出会い


 察しのいい少女の名は、藺草矛屡。

 少々変わった名前を持ち、それでからかわれたことも星の数ほどあった。

 だが、どの時も明るく生きる彼女は、落ち込んだことはなかった。

 ……あのこと以外では。


 藺草家はごく普通の一般家庭。

 貸家に住んでいて、ローンも組んでいるサラリーマンと専業主婦の間に生まれた一人娘、それが矛屡だ。

 矛屡という名前は、父親と母親の名前を半々にしてくっつけただけの簡単な名前。

 一から考えるより大分イージーだ。

 意味は特にないらしい。


「矛屡。可愛い名前」

「富矛の矛と蘭屡の屡。きっといい子に育ってくれるだろう」

「ええ……そうね」

 可愛いからそう名付けた、と父親と母親は言った。

 矛屡もそこまで名前に興味はないようだった。

 名付けとは特別なもの、とは知らなかったからだ。

 それを知るようになったのは、矛屡が十三になってからだった。

 同じクラスの見目麗しい少女、後に矛屡の心を奪うことになる亜那伎小痲(あなぎこま)という名の少女。

 彼女はとにかく変わり者で、他者を寄せ付けないオーラを放つ。

 変わり者が好きな矛屡ぐらいしか、彼女に話しかけることはなかった。

「ねーねー、君名前は?」

「犬みたいな奴ね。亜那伎小痲」

「あなぎ、こま?」

「そうよ。あたしの名に不満でもあるの?」

「変な名前だなって思って」

「あら、あなたこそ変な名前じゃない。藺草矛屡なんて、今時流行んない名前よ。素敵だわ。あなたの両親に感謝しなきゃいけないんじゃないの?」

 小痲は頬杖をついて、矛屡に言った。

 矛屡は小痲の言葉の意味を理解できていなかった。


「あたしの名前、何で知ってんの?」

「クラスメイトの名前くらい、覚えてるわよ。自己紹介の時、話してたでしょ。あなたは何で覚えていないわけよ。何のための自己紹介? 時間を無駄にして何なのよ。授業をきちんと聞いていれば、勉強だってしないですむわよ。あたしたち生徒は、時間を有効的に使わないといけないのよ。こんな無駄な問答なんかしてないで」

 ハァとつまらなさそうに小痲はため息をついた。

 この年頃の女子にしては、小痲は真面目で堅い性格をしている。

 それが他者を寄せ付けない雰囲気を醸し出しているのだ。

 矛屡も最初は頭にきていた。

「小痲さん、君ってさ……」

「何よ。いきなり名前で呼ぶなんて馴れ馴れしいんじゃないの? 日本人なら、苗字にさん付けが普通よ。あなたに軽々しく呼ばれるほど気安い名前じゃないんだから」

「さん付けしてるじゃん。そう堅くならないでさ。もっと楽しもうよ」

「は? 何言ってるのよ」

「真面目に考えすぎると疲れるよ。ほら、今も眉間に皺寄ってる。あたしみたいに、気楽に生きればいいじゃん。そんな難しい顔ばっかりしてたら、幸せ逃げちゃうからさ」

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