アキヤの感情
アキヤはわざとらしく眉を下げて、悲しげな表情をした。
「ええ!? どうしたんですか? 急に。何か気が強そうなのに、何か気が弱そうな……」
「優しいですね。ちょっとからかってみただけですよ」
舌を出して、アキヤは矛屡を困らせた。
「藺草矛屡一生の不覚! 美人なシスターさんに騙されてしまったあ!」
額を押さえて天を仰ぐ矛屡の言動に、アキヤはクスクスと笑った。
「面白い方ですね。では、お話を聞きましょうか」
「あいさー!」
「私は上司ではありませんよ?」
「細かいことは気にしないっ」
「そうですね……失礼しました」
矛屡のペースに乗せられまいとしていたが、結局は矛屡の思うツボだった。
アキヤは人に流されやすいのかもしれない。
矛屡の話は昨日の无子の話に比べれば、波乱万丈な人生ではない。
しかし、彼女にも彼女なりの苦悩があり、他の人間の人生と比べるのもおかしな話だ。
アキヤは微笑んだ。
「辛い思いをされたのですね」
「ハハ、そうですね……でも、シスターさん、感情こもってないですよ」
「いちいち癇に障る言い方を……」
「シスターさんこそ」
「アキヤです」
「ハハッ、アキヤさん」
「人の辛い話を聞いた時、同情するのが良いと聞きました。実践したのは、貴女が初めてですけど。実験台になってください」
「酷いですなあ……実験台なんて。もっといい言い方ないんですか?」
「私は語彙が乏しいもので」
とアキヤは困った時の言い訳を口にした。
アキヤの言い訳を、矛屡が咎める。
「アキヤさんって、人間味ないですよね」
「はい? 人間ではないので」
「乏しいのは語彙じゃなくて、感情なのでは?」
矛屡の疑問は核心を突いていた。
アキヤに足りないのは、感情だった。
「ばればれでしたか。いやはや、矛屡さんは審美眼に優れているようですね。お見逸れしました。これでも色々と考えてはいるんですよ。色々な感情を知るようにしています」
「あ、何か、あたし失礼なこと言いましたね……すいません……」
矛屡がアキヤにぺこりと軽く謝る。
「昔っから、要らんことばっかり言ってて。それで人に嫌われたりしてたんですけど。その癖もまだあるみたいで……不快にさせてしまってたら、すいません」
「そういうことは、初めに言っておくのがいいですけどね」
アキヤはクスクスと笑う。
「そうですね……ハハハ」




