藺草矛屡という女性
「はい。私は人外ですよ? アブノーマルという括りではなく、現象という括りが正しいかと思いますね」
「現にこうして、あたしの目に見えてるのに、ですか?」
「目に見えるものが正しいとは限らないんですよ。貴女の目に見えるものは、私が存在しているということ。修道女の服を着ているということ。それだけが正しいとは限りませんよ。この世は謎だらけ。ミステリーに満ちているのです」
アキヤは両手を広げて、いつもの調子で語り出す。
「禁断の愛もミステリーに満ちている。貴女の禁断の愛を知り、私はそれを日記に記す。貴女は晴れて罪を洗い流され、自由の身となる。その先の人生は、幸せなものとなることを約束します。我々の力であなた方を良き場所へと導くのです」
この教会が建てられた真の意味を、アキヤは女性に教える。
女性は感心したように口を開けて、アキヤの話をしっかりと聞いていた。
「ただ……貴女の話が、波乱に満ちた人生でない場合、それは叶わぬことなのですが。話を聞いてみなければわかりませんけれど、必ずしもそうなるとは思わないでいただけますか? これを話したのは、貴女が初めてですけども。何故話されたかは、わかりますね?」
「大丈夫です。まともな人生送ってませんし。ハハハ……」
「それは大丈夫とは言えない話ですね。では、儀式を始めましょうか」
「お願いしまーす」
軽い口調で、女性はぺこりとお辞儀をした。
アキヤは頷く。
「今ここで汝の罪は洗い流されることになろう」
「ありがたや、ありがたや……」
女性は手を擦り合わせて、拝み倒した。
「さて、貴女のお名前を聞きましょうか。私はアキヤです」
「あたしの名前? 何故このタイミングで?」
「いきなり名前を聞かれると人は警戒してしまうものなので。できるだけ話をしてから聞くことにしています。私の方針で」
「なるほどー。一理ありますね。あたしは藺草矛屡って言います。宜しくです」
「いぐさ、むる……個性的な名前ですね」
「変って言ってくれていいんですよ? 何回も言われましたし。褒め言葉だって思ってますからね。変なのは、別に悪いことじゃないって、あたしの好きな子も言ってました」
「むるさんの恋焦がれていた人も、変わった名前なんですか」
「そりゃもう。あたしを凌駕するほどの変わり者ですよ。変な子だって言われてたし」
「……女性、ですか」
「そうですねー。ハハ。あたしも、女の子好きになるとは、思いませんでしたよ」
「元々は男性が好きだったんですね」
「もちろん。だって、かっこいい人とか見たらドキワクするじゃないですか」
「私が同意すると思いますか?」
「同意して欲しいわけじゃないんですよ。ってか、シスターさんちょっと厳しくないですか? 何か聞いてた噂と全然違う……」
「冷たいですか、私は……。貴女とは仲良くなれそうだと思っていましたが……私はどうやら嫌われてしまったようですね」




