无斗は女性を愛せなくなった
「ずっと傍にいてね……お母さんのこと、ずっと大好きでいてね」
「わかってる」
无斗の器量の広さに无子は甘えた。
医師の言った通り、无斗は幼い頃から人の気持ちがわかる人間で、大きくなっても優しい人間に育った。
无子が唯一本気で愛せると思った男性だ。
しかし无斗と无子は血の繋がった親子で、その愛はどうしたって、叶うことはない。
たとえ、血が繋がっていなかろうが、倫理に反することだとされてしまう。
親子の愛でも、越えてはならない線がある。
その線を、无子は踏み越えてしまった。
知らぬこととはいえ、許されることはない。
无斗の初めての恋人は、无斗が初めての相手ではないことをすぐに見抜いた。
「……誰とやったの」
「……」
「別にさ、元カノのこと悪く言うつもりはないんだけど。无斗のことも悪く言うつもりもないんだけど。何か、初めての恋人って言うからさ、てっきりこれもやったことないんだと思ってた。でも何か違わない? 无斗、慣れてるし。もっと戸惑うと思ってたのに」
「……でも恋人と付き合うのは初めてで」
「やったことはあるんだ。へえー。何回?」
「……さあ……」
「ダメ。初めてだと思ったからあたしもそんな気になってたのに。ヤリチンには興味ない。もうあんたとはやれない。バイバイ」
无斗が好きになった女性はみんな、无斗の初恋相手や好きになった相手のことを詮索してきた。
うまくはぐらかしても、いつもばれてしまって『付き合っては別れる』を幾度となく繰り返した。
もう嘘は吐けないと思って、先に言っても无斗の過去を受け入れてくれる器の大きい女性は現れなかった。
しまいには、笑い話の種にまでされる始末。
无斗はいつどこで誰かに笑われているかもしれないと脅え、マスクをしないと外出できなくなってしまった。
極力声を発することも嫌い、人も寄せ付けなくなる。
无子の一時の過ちが、この先の无斗の人生を無茶苦茶に狂わせてしまったのだ。
そんな張り詰めた毎日を送っていた无斗は疲れ果てていた。
「母さんの望み通り、これでずっと一緒だな」
「……!」
「これで、良かったんだろ? 俺も……もう他の女性と付き合うのやめるし。ずっと母さんと繋がるからさ。俺だけしか愛せないんだろ」
「……无斗……ごめん。ごめんね……お母さんのせいだね……ごめん……」
「母さんは悪くない。俺が何も考えてなかったから」
「違う、違うよ。无斗が十二歳の頃だったから……悪いのは私なの。ごめんね……」
无斗への愛情は本物だが、无子が无斗にしたことは自慰行為と同じ。
无斗という人間は、自分を慰めるための、代物だったのだ。




