无子の怒り
无子に酷いことをした少年も、こんな気持ちだったのかもしれない。
決定的に違うのは、无子は敗者側だということ。
弱者だから強者を虐げてみたくなる。
悪いことをして困らせて、怒らせたい。
誰かを傷つけたい。
無性にそんな思いが込み上げてくる。
无子の原動力となって、无子の精神を蝕む。
罪を重ねていた无子に、遂に罰が下った。
「出頭してくれ」
「……え」
「もうこれ以上は見てられん。今日で君は解雇だ。そして君は少年院に行くべきじゃないか。学校で一体何を学んできたんだ。社会人としてのマナーもなっちゃいない。もう私には君に教えることは何もないよ。牢屋で学ばなきゃわからないようだから」
「…………」
「行きたくないとは言わせないよ。みんな今まで我慢してきたけどね。もう無理なんだよ。明らかに犯罪だ。私のペットを傷つけたこと、あれも犯罪なんだよ」
「そうですね」
「……ちゃんと意味をわかっているのかい?」
「はい」
「……じゃあ、一緒に行ってあげよう」
「…………」
「どうしたんだい?」
无子は社長に向かって、気持ちを吐き出した。
「何でそう、上からしか物を言えないんですか。私が弱いからですか。私が神様に愛されていないからですか。私が不要な人間だからですか。何でそんな風に私のことを見下すんですか。同じ人間なのに、どうして上下があるんですか?」
長年思っていたことを、无子は問う。
答えが欲しいわけじゃない。
ただ言いたいだけ。
もう二度と自分の意見は言わないと思っていたのに、それだけは言いたかったのだ。
「……」
「どうして、優劣があるんですか……。私はそんなに、醜い人間ですか……」
无子の気持ちを、社長は受け止められなかった。
代わりに、こんな言葉を言い放つ。
「みんな仲良く一緒だったら、私が贅沢できないじゃないか」
「……!」
「不平等だからこそ、欲しい物を手に入れたくなるものだ。違うかね? 金も名誉も地位も、平等だったら意味がない。優劣がなければ、面白くも何もない。ちっぽけな世界になってしまうとは、思わんかね」
社長の持論は、无子の怒りを買う。
「あなたみたいな人間こそ……死ねばいいのに……」
「なっ!」




