持たざる者の悪魔的思考
だが、心中にあるだけで一度もその不満を口にしない。
こうして好きなもの、服もアクセサリーも飲食物も、全てを買い与えられているのに、不満があるのもおかしな話だ。
无子が小学生の頃はそんな感情はなかった。
持つものを、全て持っているからだ。
无子はそれに気づいた時、少年を思い出した。
少年は全てを持っていると言った。
神に愛されているから、全てを持っていると。
「私は愛されてなかったの……」
无子はその事実を否定したかった。
ブランド物の服を破り、无子は叫んだ。
強い立場の人間が、弱い立場の人間を救う。
そんな当たり前の出来事を、无子は呪った。
どうして自分だけが、こんな目に遭わなくちゃいけないのか。
どうして自分には他人に与えられるものがないのか。
金を失えば无子には、何が残っている?
无子本人に、何があるのか。何もない。
少年の言うように、无子は持たざる者だったのだ。
「…………ハァハァハァ……」
息を切らした時には、既に部屋はぐちゃぐちゃになっていた。
買い与えてもらったバッグも服も靴も、全部破り捨てて散らかした。
積年の恨みを晴らすように、八つ当たりをした。
そしたら気分も軽くなり、无子はストンと床に座った。
「……やっちゃっ……た……」
ゴミで埋め尽くされた部屋を見て、无子は後悔するどころか、喜んだ。
今まで守るばかりをしていた无子が、初めて壊した。
破壊することが楽しかったのだ。
破壊だけでは飽き足らず、无子は奪うことを考えた。
社長が大事にしているものを奪い、めちゃくちゃにしたい。
いい子だった无子が、悪魔に生まれ変わったのだ。
无子は社長の大事にしているペットを傷つけた。
社長が怒って无子を叩いても无子は反省の色を見せなかった。
へらへらと笑って、理解しようとしなかった。
「私の大事な猫ちゃんによくも……! これだけしてやってるというのに! まだ何か足りないのか! 何なんだね、君は!」
「……私は、ただの人間ですよ」
「ただの人間が、こんなことをするか! 私の目が間違いだったのか……君がそんな奴だとは思わなかったよ。今度こんなことをしたら、出ていってもらう。養子縁組も終わりだ」
「はい」
しかし、无子は一度感じたスリルをもう一度感じたいと思った。
社長に悪さをするのはやめて、仕事で悪さをすることにした。
ばれないように、こっそりとするのが楽しくて堪らなかったのだ。
こうして、无子は犯罪に手を染めていった。
これは、今まで无子が塞いできた心の叫びが、他者を虐げることで生まれる快感。




