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愛こそ必要悪で正義 -sins-  作者: 社容尊悟
Ⅲ 親と子

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持たざる者の悪魔的思考

 だが、心中にあるだけで一度もその不満を口にしない。

 こうして好きなもの、服もアクセサリーも飲食物も、全てを買い与えられているのに、不満があるのもおかしな話だ。

 无子が小学生の頃はそんな感情はなかった。

 持つものを、全て持っているからだ。

 无子はそれに気づいた時、少年を思い出した。

 少年は全てを持っていると言った。

 神に愛されているから、全てを持っていると。

「私は愛されてなかったの……」


 无子はその事実を否定したかった。

 ブランド物の服を破り、无子は叫んだ。

 強い立場の人間が、弱い立場の人間を救う。

 そんな当たり前の出来事を、无子は呪った。

 どうして自分だけが、こんな目に遭わなくちゃいけないのか。

 どうして自分には他人に与えられるものがないのか。

 金を失えば无子には、何が残っている?

 无子本人に、何があるのか。何もない。

 少年の言うように、无子は持たざる者だったのだ。


「…………ハァハァハァ……」

 息を切らした時には、既に部屋はぐちゃぐちゃになっていた。

 買い与えてもらったバッグも服も靴も、全部破り捨てて散らかした。

 積年の恨みを晴らすように、八つ当たりをした。

 そしたら気分も軽くなり、无子はストンと床に座った。

「……やっちゃっ……た……」

 ゴミで埋め尽くされた部屋を見て、无子は後悔するどころか、喜んだ。

 今まで守るばかりをしていた无子が、初めて壊した。

 破壊することが楽しかったのだ。

 破壊だけでは飽き足らず、无子は奪うことを考えた。

 社長が大事にしているものを奪い、めちゃくちゃにしたい。

 いい子だった无子が、悪魔に生まれ変わったのだ。




 无子は社長の大事にしているペットを傷つけた。

 社長が怒って无子を叩いても无子は反省の色を見せなかった。

 へらへらと笑って、理解しようとしなかった。

「私の大事な猫ちゃんによくも……! これだけしてやってるというのに! まだ何か足りないのか! 何なんだね、君は!」

「……私は、ただの人間ですよ」

「ただの人間が、こんなことをするか! 私の目が間違いだったのか……君がそんな奴だとは思わなかったよ。今度こんなことをしたら、出ていってもらう。養子縁組も終わりだ」

「はい」

 しかし、无子は一度感じたスリルをもう一度感じたいと思った。

 社長に悪さをするのはやめて、仕事で悪さをすることにした。

 ばれないように、こっそりとするのが楽しくて堪らなかったのだ。

 こうして、无子は犯罪に手を染めていった。

 これは、今まで无子が塞いできた心の叫びが、他者を虐げることで生まれる快感。

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