幸せの絶頂期
无斗を抱き締めて、无子は野宿をした。
无斗に自分の着ていたコートも着せて、防寒を完璧にする。
无子はと言うと、薄着で眠るのだ。
寒空の下、无子は眠れない夜を過ごした。
一人になると、色々と無駄な感情が芽生えてくる。
寒い、辛い、一人は嫌だと。
でも、誰かを信じればまた騙される。
それなら、自分を必要としてくれる无斗と二人だけで生きていけばいいのではないか。
父親がいないと寂しいかもしれないが、无斗は父親の顔を知らない。
できれば、会わせたくないものだ。
「无斗……いつか、私のこと、お母さんって呼んでね……」
眠る无斗の寝顔を見つつ、无子は願望を呟く。
そんな生活が続いたのも束の間、何と无子に嬉しい知らせが届いた。
勤め先の社長が、无子にマンションの一室を貸してくれたのだ。
「無利息、無担保。出世払いでね」
「ありがとうございます!」
「いつも頑張ってくれてるから。本当はプレゼントしたいところだけど、贔屓したら社員たちに何言われるかわかったもんじゃないしね。だから、家を建てられるまでの間、貸すことにしたよ。誰も入ってないことだし。永住権はないけど、その場凌ぎになるよね」
「はい……」
「若いのに、苦労してるよね」
「……」
「私の養子になればいいのに。一生遊んで暮らせるだけの金はあるよ」
「はい」
「本当に!? 冗談で言ったのに、私の養子になりたいのかい?」
「冗談ですか。そうですよね……私なんて、要らない人間ですから。要らないって散々言われてきましたし、仕方ないですよね」
「いやいや、そこでネガられても困るんだけども。君はどうしたいのかね?」
「どうしたいって聞かれても困ります……私はもう自分の意見は言えないんです……人に決めてもらわないと……」
「それは会社としては大問題だけど、聞かなかったことにしてあげよう。じゃあ、望み通り、養子縁組をしよう。君とその息子も一緒に、我が家のえにしを」
「はい。お願いします」
ちょっとした社長の冗談を皮切りに、无子の人生は鰻上りに良い方向へ進んでいく。
无子が不幸を呼ぶ人間ならば、无斗は幸を呼ぶ人間。
无子はこの時そう思ったのだ。
住む部屋も与えられ、仕事も与えられ、金も与えられる。
貧乏だった昔とは大違いの、勝ち組の人生だ。
二度と味わえないような絶品の料理もたらふく食べて、无子は最高に幸せを得た。
それもたった少しの間だけではない。
かなり長い間、无子を幸せにしてくれた。
「今日はどのブランド物を着ていこうかな……」
金銭感覚も狂い始め、无子は給与に不満を持ち始めた。




