この子は私が守る
ここからがスタートライン。
无子は无斗のために、就職先を必死に探す。
アルバイトでも社員でも何でもいい。
とにかく金を稼げれば、後はどうにかなる。
あの少年ではないが、神に愛されていない者ならば、无子はとっくの昔に命を落としていたかもしれないじゃないか。
何度も命を絶とうとして、何度も生き延びているのだから。
愛されていないはずがない。
この先、少年よりも長く、无斗のために生きることになるのだから。
人生というものは、わからないことだらけ。
不幸が連続して起きることもあれば、幸ばかりが目立って不幸を忘れることもある。
誰しも辛い時期があって、幸せな時期がある。
そう教えられた无子は、幸せを求めてひたすらに走り続ける。
二度と馬鹿なことをしないように、仕事に生きることを決めたのだ。
恋愛すれば、また同じように悪い男に騙されてしまうかもしれないから、无子は男性に言い寄られても、きっぱりと断った。
初めから拒絶した。
これは自分の意見ではない。
そうした方がいいと専属の医師に言われたからだ。
无子は仕事帰りに、度々医師のところに通った。
「その後はどう。赤ちゃんがいると、仕事はできなくなるけどね」
「そうなんですか。この子、凄くいい子で、私のために我慢してくれているのかもしれません」
无子は无斗の頬をつっついた。
无斗はニパッと笑う。
「幼い時から親の気持ちも理解できる子供は、早々いないよ。大事にしてあげてね」
「はい」
「そうそう……何かあった時じゃ遅いから。もし自分一人では無理だったら、私に相談しに来るといい。私が息子さんを預かるからね。男性恐怖症がなくなることはないだろうけど、私は医師だ。あなたに悪いことはしない。約束しよう」
「……はい」
无子は思っていたことを口にしなかった。
約束なんて、一度も守ってもらったことがないと。
无子は医師の言葉を信じなかったのだ。
何度も辛酸をなめた无子は、他人を信じられなくなっていた。
一生かかっても、人のことを信じられなくなってしまうほど、受けたダメージは大きい。
まして、精神が未熟で発展途上だった无子には、全てが早すぎた。
降りかかる災いが、もっと遅ければ、无子の心も不安定ではなくなっていただろうに。
優しくしてくれた爺さんも婆さんも、もういない。
天国から見守ってくれているという考えはない。
頼れる宛もなく、頼りたい人間もいない。
医師は頼ってくれていいと言うが、下心がないかどうかも怪しい。
自分一人の力だけで生きていくのだ。
「この子は……私が守る」




