血の繋がった家族のために
「あの子の話はするな。飯がまずくなる」
「……」
「あの子が来てから、わしの営業成績はガタ落ち。子供もいじめられ、親子の仲は悪くなるし、お前との仲も悪くなってきてる。偶然とは言えないこの有様だ。このままじゃ仲良し一家とも言えなくなるな。……まだあの子の肩を持つなら、離婚するか?」
「それは嫌ね。あなたとは一生を添い遂げるって約束したじゃない。この約束に比べれば、あの子との約束なんて、たいしたことないわよ。本当の家族の方が大事よ」
「お前なら、そう言ってくれるって信じてた」
「あの子を引き取ってくれる人を捜しましょう」
「そうだな。あの子も自分を大事にしてくれる人の方がいいだろう」
无子の心に、どんどん闇が深まっていく。
「……叔母さんは……私の味方じゃないんだ」
无子はそう呟いて、裸足で赤ちゃんを抱いて家を出ていった。
言いたいことも言えずに、人の意見を鵜呑みにする。
生きている価値がないと言われたようで、自分の命など、もうどうでもいいと思ったのだ。
誰にも愛されていない人間が、生きていても仕方がない。
ここらで人生に幕引きしよう。
だが、无子がいなくなると赤ちゃんはどうなる。
せっかく産んだ命だ。
奪ってしまうことはない。
せめて赤ちゃんだけでも生きていけるように、无子は保健所に預けようとした。
「……うー」
「おしっこしたいの?」
「うう」
「うんち?」
「うううー」
赤ちゃんの心を无子は理解できていない。
赤ちゃんは泣き出した。
ぎゅっと小さな手で胸を触る。
少年の時のようにきつくではなく、温かく柔らかいもち肌の手で。
无子はその手をそっと掴んで、聞いた。
「……私のために、泣いてくれるの?」
「うあうー」
赤ちゃんのために、もう少しだけ生きてみようと无子は心に誓った。
无子は働く決意をした。
借金を返すことが先決だが、まずは赤ちゃんを養うため、赤ちゃんのために生きる。
汗水垂らして、日々を生きていく。
「私、ちゃんと生きるからね。无斗」
「うー」
まだ幼い赤ちゃんの、无斗の小指を掴んで、无子は指切りをした。
責任を持てるようになって、无子は再び、人のために頑張ることにした。
いや、今度は人のためじゃない。
血の繋がった家族のために、心血を注ぐのだ。




