何もかもをなくした
「……お爺さんとお婆さんは関係ない……」
无子が尚も抵抗する力があると見たのか、少年は服をひん剥いて、无子の首筋をガブッと思いっ切り噛んだ。
痛みで服従させる気なのだ。
「あうう」
「痛いか。痛いよな。だって、血が出てるし」
无子の首筋に赤く光る滴を指でつと伝って、无子の頬につけた。
絶望の表情。
少年は无子を見て、闇に染まる笑みを見せた。
「お前は逃げられないんだよ。俺から」
「……!」
胸を掴んだ手を離し、少年は无子の体に歯型と苦痛を刻ませた。
痛みを忘れられないように、丁寧に写真まで撮って无子を従順な僕にしたのだ。
ドメスティックバイオレンスと性行為と。
一晩の内に一生残るトラウマを抱えてしまい、无子は学校に行く気力をなくした。
いや、それだけではない。
自殺も図ったのだ。
今まで育ててくれていた爺さんと婆さんに示しがつかないどころか、生き恥を晒すくらいならば死んだ方がましだと思い、二階から飛び降りた。
无子は救急搬送され、運良く助かったが、その後脳に重大な後遺症が残ってしまい、今まで通りとはいかなくなった。
「无子……! 何でそんなことをしたんですか……!」
「……」
術後暫く経っても、无子は言葉を喋れなかった。
原因はストレスと後遺症によるもの。
泣きじゃくると爺さんと婆さんを、ただ物憂げに見つめていた。
「あなたが死んだら悲しむと……あれほど言い聞かせていたのに……」
「お前はわしらを犯罪者にしなければ気がすまんのか……! くう……、生きていて良かった……本当に、良かった……。もう老いぼれを悲しませんでくれ……」
少年に金をふんだくられ、もう金は底をつきた。
无子の手術費用は金融機関に借りたものだ。
无子を学校に通わせることもできなくなった。
借金生活になり、爺さんと婆さんの生活は困窮し、遂に无子の元を離れ、天国へ旅立った。
享年は共に八十三。
まだ生きたかっただろう。
残ったのは、虚しさと借金だけだった。
度重なる不幸を、无子はどうにか乗り越えた。
しかし、十三歳になる少し前のこと、无子に更なる悲劇が訪れる。
少年との性行為で、卵子と精子が受精してしまった。
つまり、无子は妊娠したのだ。
子供を産む金などない。
育てられるだけの金も知識もない。
中絶するしかない。
あの少年の血が混ざった子供ならば、きっと最低な人間になってしまう。
返せるほどではない借金の額が、更に膨れ上がっていく。




