生まれてしまった、責任感のない親が
「浜のことは……頭良くて美人……って思ってるだけで。ホント、何もないっすから!」
褒めるところだけ声を小さくして、少年は気恥ずかしそうに頬を赤らめた。
みんなの評判通り、彼は性格の良い、普通の少年だ。
无子は褒められて満足し、眠りについた。
それから无子は少年のことが気になっていったのだ。
彼の趣味や好きなもの、嫌いなものが気になって无子は夜も眠れない。
四六時中彼のことを考えていたいとまで思うようになった。
无子はそのことを友人に相談する。
気になっている相手のことは伏せて。
「それって、恋じゃね?」
「恋……? これが、恋……?」
「うん。ま、无子は美人だから相手の男もヨユーで落とせっしょ。がんばんなよ!」
バンバンと背中を叩かれて、无子は咳き込んだ。
「恋って、何?」
「ハア? 遅れてんね! 今時の女子は恋したら即ベッドが当たり前だしぃ。恋が何とかお子様! さっさとヤれよー!」
无子の友人は女子トイレだとかなり下世話な話をする。
男子がいると、そんなことは一言も発さないのに。
猫を被っているのだ。
「……よくわからない。具体的には何をすればいいの?」
「ちょっと耳貸して」
友人は无子に良からぬことを吹き込んだ。
「え……! もうみんな、そんなことしてるの? 嘘……」
「あたしももう経験済み。早い方がいいっしょ。遅くなったら、馬鹿にされっし」
恋のこの字も知らない无子は、友人の言葉を信じてしまったのだ。
全員が全員、若い時から性行為をしているわけではないのに。
无子は性行為に興味を持つ。
そして子供を産んで、育てたいと思った。
育てられるほどの経済力も知識もないのに、友人の言葉一つで突き動かされてしまったのだ。
何もかもが、无子には早すぎた。
こうして責任感のない親が一人、生まれてしまったのだ。
少年の名前は何と言ったか、无子は覚えていない。
否、忘れ去ったのだ。
記憶から完全に消し去った。
つまりそれは、嫌な思い出。
忘れたくて忘れた思い出なのだ。
少年は无子に気があったらしく、それからも无子を何かと気にかけていた。
消しゴムを家に忘れた時も、
「貸してやるよ」
傘を忘れた時も、
「一緒に入るか?」
と言って、少年は无子の心を鷲掴みにしていた。




