アキヤは人ではない
「浜名湖に準じて付けられた名ですから……」
「私の予想通りでしたね」
アキヤの表情が硬くなる。
カチコチの氷のように。
「ご子息のナトというのは?」
「私の好きな納豆です」
「……それでよく嫌がりませんでしたね。ご子息は聖職者に向いているかもしれませんよ」
「向いていますか! では、お願いします」
「いえいえ。ナトさんのご意見を聞かなければ……」
「あ、そうですね。そうしましょう」
聞いたまま、出されたままの意見に同調する无子。
彼女の本質とは一体何なのか。
アキヤにも見抜けない人間だ。
「……謎の多い人です……」
強敵。
いきなり超大物が出てきてしまって、アキヤは冷や汗をかいた。
「私の性格は、生まれつきのものではないですけどね」
「それはまた驚きですね。ミステリーです」
「アキヤさんも……謎の多い聖職者さんですよ」
ニコニコと无子は笑った。
さっきと性格が違っているようにも見える。
アキヤは无子を見て、不機嫌になった。
「私のわからないこと、多すぎます……この世はミステリーですね」
「人という生き物が、それだけ深い生き物だということではないでしょうか」
「先程まで会話すらまともに成立しなかったのに……これは一体……。神に聴かねばならぬことが増えたようです……あなや」
アキヤは頬に両手を当てて、有名な絵画の、ムンクの叫びのような顔をした。
无子はまた笑う。
気の良さそうな、朗らかで優しい笑顔だった。
ころころ変わる性格に、アキヤは謎を追究するのをやめにしようと思った。
「私はまだ修行中の身……わからないことは、わからないままにしておいても良いかもしれません……」
「独り言が少し多いですよね、アキヤさんは。私も、人のこと言えませんけど」
「私は人ではないですよ」
アキヤは不敵な笑みを浮かべて、そう言い放った。
无子が帰ってから、アキヤはまた自室へ行って日記をつける。
「親子の恋愛というのは、何故禁止されているのでしょうか。倫理に反することだとしても、親子で恋愛をすると、世間の目には、どう映るのでしょう。ハグやキスをするのは悪くはないでしょうが……それ以上となると、まずいのですね」
アキヤは万年筆を手にし、紙に自身の思いを乗せた。
アキヤが感情移入した、最初で最後の懺悔日記になる。




