浜无子という女性
「もしかして、後半寝てました?」
「いいえ、そんなことはないですよ。きちんと聞いていました。内容は頭に入っています。ただ眠くて早く日記を書きたいなと思っていただけですので」
「……つくづくシスターっぽくない方ですね」
「それは当たり前ですよ。私はシスターではないですからね」
「では何ですか?」
「仮聖職者です」
アキヤは含みのある笑みで、女性の問いに答えた。
「変わった名前ですね。仮さんという苗字は、初めて聞きました」
「貴女のような方に会ったのも私は初めてです……会話が成立しません……。もしや病気ですか? アスペルガー症候群など」
「どうでしょう? 私自身何もわかりませんが」
女性は首を傾げて、アキヤの質問を躱していく。
「自覚症状がないとなると、ますます怪しいのですが。まあ良いでしょう。お話はお聞きしましたし、お帰りになりますか?」
「カエルになる?」
「……敬語に駄目だしをされるとは。私だって蛙になってゲコゲコ言いたいですよ」
そしたら無駄な体力を使わずにすむ、とアキヤは言った。
「すみません、私が駄目人間なばかりに……。だから人に呆れられて、まともに話をすることもできないんです……。できた友達もすぐに私のことを嫌いになって、離れていってしまいますし……それでも我が息子だけは……私のことを好いていてくれて……ああ、どうしよう、私……我が息子にあんなことをしてしまった……死んでも死に切れない……」
「ん? デジャヴュですか?」
よよと泣き崩れる女性の体を支えて、アキヤは不服そうな声音で言う。
「私が悪いんです……全部私のせいで……めちゃくちゃに……」
「先程懺悔を聞きましたから、もう貴女は解き放たれたのです。まだ何かあるようならば、再度お聞きしますが? どうされますか?」
「……うう……ありがとうございます……ですが、私には聞かないでください……選択肢がない方が楽なんです……」
「ではもう一度聞きましょう。これも仮聖職者の務めです」
「はい……」
「……私としたことが、貴女の名前を聞くのを忘れていました。お名前は何と?」
「浜无子です。我が息子は无斗と言います……」
「浜名湖……いいえ、无子さんですね。无子さん、私はアキヤと言います。アキヤは暁の夜と書きますよ。暁はちょうど、このぐらいの時間です」
「暁の夜……素敵ですね」
「私もこの名前が気に入っています」
ニコッとアキヤは无子に笑いかけた。
「私も……そんな素敵な名前が良かったです……」
「と言いますと?」




