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【連載版】死亡エンドしかない悪役令息に転生してしまったみたいだが、全力で死亡フラグを回避する!  作者: 柚希乃愁
第四章

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初めてのお酒

 店内は落ち着いていて、照明も明る過ぎない、大人な雰囲気だった。

 前世のバーに似てるけど、それをもっと高級にした感じ、それがレオナルドの感想だ。

 店員の話では、気に入ったお酒があれば、ボトルで購入することもできるらしい。


 案内されたのはソファ席。

 レオナルドとミレーネは、一つの二人掛けソファに隣同士並んで座っている。

 肩と肩が触れ合っており、非常に距離が近い。

 他の客も男女で来ている者は同じように座っているので、そういうものなのだろう。


「レオナルド様、お誕生日おめでとうございます」


「ありがとう、ミレーネ」


 チン、と高い音が小さく鳴る。

 二人はグラスを合わせ、乾杯した。

 中身はスパークリングワインだ。


「いかがですか?初めてのお酒は」


「めちゃくちゃ美味しいよ。他のも色々飲みたくなるね。ミレーネはどう?」


 前世の記憶から久しぶりのお酒という思いもあるのだが、今のレオナルドとしては当然初めてで、店の雰囲気や一緒にいる相手のためか、また違った感覚があった。


「それはよかったです。私も初めて飲みましたが美味しいですね。ふふっ、ですが、明日も学園がありますし、飲み過ぎないように注意してくださいね?」


 初めてのお酒を一緒に味わおうと、ミレーネはこの場を選んだ。

 セレナリーゼには申し訳ないが、レオナルドより年上の自分にしかできない特権だから。


 ミレーネも初飲酒なのは、今まで積極的に飲もうとはしてこなかったためだ。



 と言うのも、ムージェスト王国には、お酒は十六歳からという法律が存在する。

 ただ、罰則は何もなく、実際には形骸化したもので、もっと若いときから飲んでいる者も普通にいる。


 一説には、王立学園で、上級生と下級生の違いを明確に表すために作られた法律ではないかと言われているくらいだ。

 実際、学園の催しなどでは、セレナリーゼのように三月生まれもいるため、一年はノンアルコール、二年はアルコールありと一律学年で区切っている。


 そんな法律だが、クルームハイト公爵家は、若いうちから飲む必要もない、という考えから子供達に守らせていたため、十六歳の誕生日を迎えた今日がレオナルドの飲酒解禁日となったのだ。



 ドライフルーツとチーズをつまみに、一杯目を飲み終わり、新たに注文した赤ワインをグラスに注いでもらった後だった。


「レオナルド様。こちらを……、よろしければ受け取っていただけますか?」


 そう言って、ミレーネが差し出したのは小さな包みだった。

 レオナルドへの誕生日プレゼントだろう。


「っ、ありがとう、ミレーネ。……開けていい?」


 包みを見たレオナルドは反射的に、一瞬びくりとしてしまう。

 今の状況が、セレナリーゼからプレゼントを貰ったシーンと重なって、鮮明に思い出されてしまったから。


(いやいや、そんな。まさか、な。さすがにそんなことは……)


 レオナルドは心の中で自分に言い聞かせる。

 ゲームで、ルートに入ったミレーネがアレクセイにプレゼントしたのは、ミレーネお手製の花の刺繍が入った手巾(しゅきん)だった。

 万が一、セレナリーゼの銀時計と同じように、自分への誕生日プレゼントがそうだったら……、なんていう考えが頭を過ってしまったのだ。


「はい」


 レオナルドは緊張した面持ちで、丁寧に包みを開いていく。

 果たしてその中身は―――。


「手巾か。……もしかして、この刺繍はミレーネが?」


 自分でも意外だが、落ち着いた声が出た。


「はい。何か自らの手で作ったものをお贈りしたくて……」


 ミレーネが瞳を閉じ、自身の胸元に手をやって、何か満たされているかのような柔らかい微笑みを浮かべながら答えた。


 ミレーネがレオナルドへの誕生日プレゼントを何にしようかと考えたとき、公爵家子息が持つに相応しい高価なもの、というのも考えはしたのだが、レオナルドが大金を稼いでいることを知っていたし、そもそも自分の給金で買えるものでは、よいプレゼントをイメージできなかった。

 それに、金額ではなく、心のこもったものを贈りたかった。


 そして思い浮かんだのが手巾だった。

 レオナルドからもらった手巾は本当に嬉しくて心を揺さぶられたのだ。

 刺繍されたブルースターと青いバラ、見た目だけでなく、その花言葉まで考えてレオナルドは選んでくれた。ブルースターが誕生花だってことまでは知らないようだったけれど。

 もらってから常に肌身離さず持っているミレーネの宝物。今も―――。


 だから自分の想いを込めるならこれしかないと思ったのだ。

 では、刺繡するものをどうするか。

 やっぱり見た目とは別に、意味を込められる花がいいなと思った。

 ただ、男性に贈るものだから、あまり目立たないよう端の方に小さめで。

 そこまで決まれば、刺繍する花を何にするかはすぐに決まった。

 一針一針、心を込めて丁寧に作っていく間、ミレーネの心はずっとポカポカと温かかった。

 完成が近づくにつれ、この時間が終わってしまうと残念に思うほどに。


(つたな)い出来で申し訳ございませんが……」


 しかし、続けた言葉は、尻すぼみに消え入りそうな声になってしまう。

 自分がレオナルドからもらった手巾に比べたら、出来だって当然よくはないし、値段で考えたら雲泥の差だとわかっているからだ。


 だから、レオナルドから返ってきた言葉、そして表情にミレーネはそっと安堵した。

 花言葉、だけでなくもしかしたら花の名前もやっぱりわかってなさそうなのが、ちょっぴり残念で、ちょっぴり安心という複雑なものだったけれど。


「そんなことない。すごく綺麗だ。ありがとう、ミレーネ。大切に使わせてもらうから」


 セレナリーゼのときのような激しい動揺は、ない。

 一日で二度目だったからかもしれない。

 プレゼントは手巾。

 端の方に、青紫色の小さな可愛らしい花と、枝から放射状に展開している細い葉が刺繍されていた。

 ゲームと同じだ。

 それが今、ゲームとは違い、レオナルドに贈られた。


 ただ、そんなこと関係なしにしても、ミレーネが時間をかけて、丁寧に作ってくれたものが嬉しくないはずがない。

 だって、前世の記憶をまだ思い出す前のこと、レオナルドの初恋は間違いなくミレーネなのだから。


 レオナルドは、自身の気持ちからもう目を逸らさないと心に決めた。


 レオナルドは花にも花言葉にも詳しくないから知らない。

 手巾に刺繍された花がローズマリーであり、その花言葉が変わらぬ愛だということを。



 それから一時間後。

 レオナルドはペースを変えずにグラスを傾けていた。


(なあ、ステラ。俺達そんなに飲んだかな?それにしては、俺全く酔った感じがないんだけど……)


『まあ、そうでしょうね。レオの霊力を使って自動で解毒するようにしていますから』


(なっ、ちょっ、ステラさん!?勝手にそんなことしてたの!?)


 俺ってかなり酒に強いのかな?なんて思っていたら、ステラから思ってもいなかった言葉が返ってきて慌てるレオナルド。


『当然でしょう?毒なんかでレオが死ぬようなことがあってはなりませんから』


(マジかよ……。じゃあ、俺っていくら酒飲んでも酔うことはない、ってこと?)


『そうなりますね』


 別にレオナルドは酔っぱらいたい訳ではないのだが、お酒を飲んで楽しく酔う、あの独特の感覚を味わえないというのは少々残念だった。


(そうなんだ……。あ、じゃあ、ミレーネに悪いことしちゃったかな。俺に付き合わせて飲ませ過ぎちゃったかも)


『……()()()()()()()


 レオナルドは隣に目を向ける。

 そこでは、ミレーネがレオナルドの肩にもたれかかり、可愛らしい寝息を立てていた。

 途中までレオナルドと同じペースで飲んでいたのだが、気づいたときにはこうなっていた。

 さっきから何度か起こそうともしたが、むにゃむにゃと何事かを呟き、レオナルドに一層体を寄せるだけで、一向に起きる気配がないのだ。

 こんな無防備なミレーネを見るのは初めてで、レオナルドの口元に自然と笑みがこぼれる。


「……帰るか」


『ミレーネはどうするのですか?』


(起きないんだから女子寮には帰せないし、今日は俺の部屋で休んでもらうよ)


『……そうですか』


 レオナルドが会計をするため店員を呼んだら、ミレーネが先にお金を渡していたようで、逆におつりを渡された。


 そしてレオナルドは、ミレーネを抱き上げ、店を出るのだった。

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