2-2 一人暮らしは想像よりずっと大変
あれから…
遼叔父さんとの短い二人暮らしの後から半年近く過ぎた。
結論から言えば……………………………
ものすごく、忙しい。
大学生ってこんなに大変なんだね。。。
—---
毎日すごく忙しいけど、
下宿の契約を終えて、
鍵を受け取った日のことを、
私はたぶん一生忘れない。
小さな鍵。
銀色で、軽くて、
ポケットに入れると存在感がほとんどない。
でもその鍵は、
“自分で選んだ生活”の象徴みたいに思えた。
その生活の“保証人”は、遼叔父さん。
下宿の部屋に荷物も届いた。
「イヴ、
京都からの荷物って本当にこれだけか?」
届いた段ボールの数に、
叔父さんは訝しんでいた。
京都を出る前に荷造りしていたものを、
お母さんに電話して送ってもらったのだけど。
「はい。着替えくらいで…
他に何か要りますか?
鍵ももらいましたし…」
「いや着替えだけにしても量が…その…
いや、なんでもない。いい、すまない」
遼叔父さん、めちゃくちゃ歯切れが悪かった。
どういうことかさっぱりわからないけど、
叔父さんは部屋のそこかしこの寸法を測って、
何かメモもとっていて、
その後すごい勢いで家具屋さんに私を拉致した。
遼叔父さんは、さっきのメモを渡してくれた。
「あっ」
「…まあ、まずはそういうことです。」
本当にめちゃくちゃ叔父さんの歯切れが悪い。
でも当然だ。
—
ベッド、カーテン、テーブル、
クローゼットなし箪笥類、
冷蔵庫、レンジ、湯沸かし、
窓サイズ180×…
—
これが一人暮らしなんだ。
「すみません…全然考えてませんでした」
「そんなもんだよ。
さ、イヴの“好きなもの”探しに行こう。
今日買えなくてもいいからな?」
「はい!」
私はまず目の前のカーテン売り場で……
…しばらく、動けなかった。
「……どうしよう」
声に出してみたけれど、
カーテンは当然返事してくれない。
その当たり前のことが、 少しだけ胸に刺さった。
こんなにいっぱいあるなんて。
「カーテンって……どうやって選ぶの?」
色? 長さ? 素材? 遮光? レース? 二重? 一重?
選び方がわからない。
選んだ結果がどうなるのかがわからない。
選ぶことが怖い。
“選ぶ”という行為そのものが、
本当に、こんなに大変だなんて。
私はスマホを握りしめて、
遼叔父さんを振り返った。
涙目になってしまってたんじゃないだろうか。
「叔父さん……カーテンってどうしたらいいですか」
泣きそう。
叔父さんがいないなんて想像できない。やばい。
「これ、部屋の写真ね
LINEでイヴにも送るよ」
—---
…なつかしい。
昨日のことのよう。
私の部屋は、
遼叔父さんなしには絶対に出来上がらなかった。
きっと一人暮らしも断念してた。
言い切れる。
次に困ったのは、ゴミ袋だった。
「ゴミ袋って……どれを買えばいいの?」
自治体指定?
燃えるゴミ?
燃えないゴミ?
資源ゴミ?
サイズ?
厚さ?
もう、本当にわからないことばかりだった。
「おなかすいた…どうすればいいんだろう」
私は
スーパーの棚の前で固まり、
コンビニの前で固まり、
ドラッグストアで固まり、
1コインショップで固まり…
影が揺れそう。
呼吸が乱れそう。
でも── 誰も整えてくれない。
“これが普通の生活なんだ”
遼叔父さんと暮らした半月くらいと、まるで違う。
遼叔父さんの家の、
陽だまりのような温かさや静けさが恋しい。
そう思って泣きそうになったっけ。
ああそうそう、洋服も全然足りなくて。
洗濯物、全然間に合わない。
遼叔父さんの変な顔の理由が最近は本当によくわかる。
今もきっと、色んなものが多分少ない。
部屋の明かりをつけると、
白い光が部屋の隅まで届いた。
家具が少ないせいか、
光がまっすぐに広がる。
その光の中で、
私はスマホを取り出した。
目の前には
コンビニのおにぎり。
味噌汁のカップ。
ペットボトルのお茶。
斎宮家ではありえない食事。
でも、なんだか嬉しかった。
――遼叔父さん、
約束の定期報告です。
今月もなんとかひと月終わりそうです。
送信。っと。
「……私、ちゃんとできてるのかな」
私のつぶやきは一人きりの部屋に溶けて、
誰も答えてくれない。
でも、その“答えのなさ”は。
ふふふ。
遼叔父さんからメッセージが届いた。
早い。今日はタイミングよかったみたい。
『イヴ。
今月もよく頑張ったな。
そろそろ学年末試験がおわった頃か?』
その言葉を読んだ瞬間、
胸の奥がじんわり温かくなった。
私は、
一人暮らしが想像よりずっと大変だと知った。
でも同時に、
“私も普通の女の子”
その気持ちも、
叔父さんと過ごした頃よりうんと強くなった。




