5-2 ブース見学会~シズクさん
新人は挨拶が基本――
これは、お父さんの教え。
「いいかいイヴ、
挨拶もできないような人には、
なっちゃいけないよ」
――はい。
イヴは頑張ります。――
……ごめんなさい、お父さん。
社会経験初日に、いきなり
挨拶がすっ飛びそうになりました。
本当に危なかったです。
でも、だって、こんな美少女……
ん、美“少女”…?
「レーヴちゃん若そうだね~。
歳きいても平気?」
「あ…今年で20歳です」
「わっか~い!!
ウチの歳聞くの禁止ね♡」
……歳を聞くのが禁止なら、
美少女で、いいよね。
シズクさんは、ふわっと笑った。
その笑顔だけで、
事務所の空気が少し柔らかくなる。
胸の奥がぽわんとする。
小杉さんが淡々と促す。
「じゃ、シズクさんの
ブースから行きましょうか」
シズクさんは軽く手を挙げて、
「じゃ、ウチのブース、ONするね」
と言った。
ブースを開くと、
ふわっとした空気が流れ込んできた。
「わ……」
思わず声が漏れた。
ブースの中央に、
大きな満月が浮かんでいた。
本物じゃないのに、
本物みたいにきれいで、
光が柔らかくて、
見ているだけで呼吸が整う。
「そう。めーちゃきれいでしょ?」
シズクさんは嬉しそうに言った。
「この月ね、ずっと満月なの。
ウチ、ブレないからさ~。
星はちょっとだけきらめくけど、
月はずっとこのまんま」
「……ずっと、満月なんですか?」
「うん。
ウチはブレないからね。
お客さんがどんな状態でも、
ウチはブレないの。
かわいいっしょ?」
ハートポーズいただきました。
かわいい。
かわいすぎる。
ブースの装飾は、
月光の色に合わせた淡いブルーと白。
水晶がいくつも並んでいて、
星座のモチーフが壁に浮かんでいる。
占い師の館みたいだけど、
ほんとにきれい。
シズクさんに似合ってる…
かどうかは、ちょっと、わからないけど。
「どうして月をテーマにされたんですか?」
占い館の内装にも
もちろん何か思い入れはあると思うけど、
このブースで目を引くのは、やっぱりこの満月だ。
「ウチ、きれいなものが好きなんだ。
神秘的なのとか。
そういう、自分の好きなの
全部詰め込んでもらったんだよ」
なるほど。
「そろそろ予約の時間だから、このくらいでいい?」
「十分っす。
あざっした」
小杉さんが退室を促してくれた。
「また来てね~」
「はい。
ありがとうございましたっ」
急いでお礼をする。
シズクさんは手を振って送り出してくれた。
シズクさんのふわっとした空気、独特だなあ。
小杉さんが補足する。
「シズクさんの部屋は、
演出がほとんど動かないんすよ。
揺れないのが、あの人の“揺れ”なんで」
「……揺れないのが、揺れ……」
「そうっす。
まあ、見てればわかるようになりますよ」
確かに、
シズクさんのあの感じ…
私、知ってる気がする。
なんでだろう……。
「次は俺のブースを見てもらいますかねえ…」
事務所に戻ろうとしたとき、
奥から声がした。
「小杉。お疲れ」
「おつかれさま、おはよう~」
大柄な男性と小柄なおばあさまがいた。
私は慌てて会釈した。
「レーヴです。よろしくお願いします」
「久遠さん大江さん、
お疲れっす。新人ちゃんですよ」
大柄な男性のほうが大江朔さん、
小柄なおばあさまは、久遠宮子さん。
小杉さんが紹介してくれた。
大江さんは背が高くて、
スーツが似合う“できる人”という感じ。
宮子さんは柔らかい笑顔で、
まるで昔からここにいるような安心感があった。
「きれいな子だな。
…少し伏見に似てないか?」
「姪っ子さんらしいです」
大江さんは軽く頷き、
宮子さんは優しく微笑んだ。
「姪御さんなのね。
どうりでお若いのに」
「俺はいつもの感じです」
小杉さんの発言に、
3人が一斉に噴き出す。
この3人は、お付き合いが長いのかな。
「じゃ、予定通り、
大江さんと宮子さんのブース
見せてもらいましょっか」
小杉さんが言う。
遼叔父さんのウユニ塩湖、
シズクさんの月の部屋。
大江さんと宮子さんのブースは、
どんなブースなんだろう。
私は胸の奥が高鳴った。
すごく楽しみだ。




