5-1 小杉さんとシズクさん
ジェムノットの開店は夕方、18時。
それまであと1時間くらいある。
でも遼叔父さんは、
「まだ時間があるよ」とは言わなかった。
―――ずっと、
歌っていたかったな―――
歌うのは好き。
私の中の色んなものが、
ピカピカと光り輝くような気持ちになれる。
でも、さっきは。
誰か一人のためだけに歌ったのは
初めてだったから、少し緊張したけど、
…遼叔父さんも、キラキラと輝いて見えた気がした。
影が整うのは、わかってた。
でも、あんなふうにまでキラキラしたのは…
今、私は、
遼叔父さんに勧められるまま
事務所の椅子に座っているのだけど……
ぽわん。ぽわん。
また、私の胸の奥で、柔らかな何かがはじける。
その時。
ピピピ。ピ。ガチャリ。
裏口のドアが開く音がした。
誰か出勤してきたんだ!早い。
足音が近づいて、事務所の扉が開けられた。
私と同じか、少し小さいくらいの男性が入ってきた。
だいぶ細い。ちょっと心配になるレベルだ。
「おつかれっす~。」
「小杉、早いな」
席を立った叔父さんに
小杉と呼ばれたその人は、
無駄のない歩幅で入ってきた。
「新人ジュエルのレーヴだ。
小杉、すまん、
しばらく面倒見てやってくれるか」
「いっすよ。いつもの感じで大丈夫ですか?」
「ああ、頼んだ」
伏見は自分の仕事に戻ろうとした。
けれど、ふと立ち止まり、私と小杉さんのほうを振り返る。
「それ、俺の姪っ子な」
それだけ言って、
また静かに席に戻った。
小杉は一瞬だけ目を細めた。
「……了解です」
その短い沈黙の中で、すべてを理解した…のかな?
私は、ただ小さく会釈した。
小杉さんはタブレットを取り出し、
淡々と確認を始める。
「店の説明は、
伏見さんからひと通り聞いてます?」
「はい。たぶん。だいたいは……」
「じゃあ、最初の仕事はブースづくりですね。
新人ジュエルはまず、
自分の空間を作るところから始めるんで」
私は少し緊張しつつ、背筋を伸ばした。
「ブースづくりで大事なのは、
コンセプトと演出っす。
“何を見せたいか”より、“どう見せるか”のほうが、
たぶん重要です」
ビジネスライクで格好いい説明。
イヴは小さく手を挙げる。
「……あの、
遼叔父さんと一緒に考えるって
約束してるんです。
どうしましょう?」
小杉さんは一瞬だけ思案して、すぐに答えてくれた。
「じゃあ、引き出しを増やしておきましょう。
みんなのブースを見学するのが早いです」
「見学……」
「伏見さんのブースは見ました?
一面星空のやつ」
「はい。」
…たぶん、もっとたくさん見ました……。
言った方がいいのかな、言わない方がいいのかな…。
遼叔父さんと二人だけの記憶にしたいなあ…。
許してくれるかな…。
「あれは結構特殊なんで、比較対象がある方がいいっすよ。
出勤順に見せてもらうのが効率いいと思います。
今日が初勤務ですか?」
イヴはこくりと頷いた。
「はい。
でも勤務は…
今日、さっき決まったばかりで…」
初勤務なのかな、今日。
「それなら今日が初勤務で大丈夫っす。
みんなに挨拶がてら、ブース見せてもらいましょ。
そのあと帰る前に
出勤打刻とかも説明しちゃいましょうか。」
そのとき、
また事務所のドアが開いて、
とってもかわいい声が聞こえてきた。
「おつかれさま~」
イヴが振り向くと、
ふわっとした空気をまとった女の子が入ってきた。
うわっ、かわいい…!!
ものすごくかわいい。
ちっちゃくて、ふわふわしてる。
甘い色合いのコーデ。
パステルブルーのカーデに白い膝上スカート。
小物はパステルピンクと
パステルグリーンでさりげなく。
ほんとにかわいい。
私を見つけて、
はにかむように笑ってくれた。
世界が少し柔らかくなる。
私は思わず息をのんだ。
「……かわいい……」
「井上シズクさんっす」
小杉は淡々と紹介した。
「じゃ、シズクさんのブース
見せてもらいまっしょっか。
シズクさんごめん、
新人ちゃん。いつものやつっすわ」
「あー、また伏見さんに
押し付けられてるの?小杉さん」
「俺の担当っすよ」
シズクさんが話していると、
世界がすごく明るくなる感じがする。
ずっと聴いていたくなる声だなあ。。。
あっ、いけない!
「い…レーヴです!
よろしくお願いします!!」
新人は、挨拶が基本!




