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クラブ・ジェムノット~エピソード1-少女は全員直感系の家を出る~  作者: (さ)くま
第4章 レーヴ──歌姫誕生

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4-6 たった一度だけ

たぶん―――

これは、遼叔父さんと私のノッティングなんだ。


私には、そんな確信があった。


きっと、本当に、一度きりだ。

遼叔父さんが、そういうのを覆すと思えない。


覆されたくないって意味ではないけど…。


二人で、ブースに戻ってきた。

でも遼叔父さんはジェム側。私はジュエル側。


「すまない、

 このウユニ塩湖は、俺専用として、

 センシングやAI解析にすこし調整が入ってる」


ブース内が、ゆっくりと星空に包まれていく。


「俺の時と

 違う動作をする可能性がある。

 でも、できれば気にしないでほしい。

 …すまない。」


遼叔父さんの影だけが、静かに見える。


「わかりました。

 …時間のゆるす限り、

 声が出なくなるまで歌います」


「イヴ、それは…」


「…私が、そうしたいんです。

 リスエストがあれば、言ってくださいね。」


深く深呼吸する。

まさか、ここで、歌わせてもらえるなんて。


ありがとう、遼叔父さん。


―――今日の、今の、たった一度きり。


大学生の私が、ソロで、ここで、叔父さんにだけ歌う。


多分、本当に全部たった一度の機会だ。

それなら、1曲目はこれしかないと思った。



―――めでたし、

まことのおからだよ―――



モーツァルト、アヴェ・ヴェルム・コルプス。

キリストの聖体をたたえるモーツァルトの名曲。


静かな祈りの歌。

人の痛みと救いをそっと抱くような、


モーツァルトの短い聖歌。

本当にただただ美しい。


歌い始めた瞬間、星空が青空に変わった。

…なるほど、私のベースは青空の方なんだ。


遼叔父さんは、まるで動かない。


聞き入ってくれてるのかな。

遼叔父さんにとっても癒しになればいいのだけど。


転調を繰り返し、歌い終わってお辞儀をした。

穏やかな拍手をいただいた。


「モーツァルト、アヴェ・ヴェルム・コルプス。

 …私が一番好きな讃美歌です。」


「…俺も好きだよ」


胸の奥が、ぽわんと揺れた。



…歌いながら考えていた。

“叔父さんを私のたった一人に選びます”と伝える歌は、

なんだろうって。




―――大地を褒めよ 讃えよ土を―――




ウユニ塩湖は、大地の恵みそのもの。

だから、次は“大地への感謝”を歌った。


学生合唱の定番曲。

混声の曲だけれど、


今の私の声で、できる限り丁寧に。


ウユニの大地に、

遼叔父さんに、

この場所を使わせてもらえることに、


心からの感謝をこめて。


歌い終わると、

ブースの青空が、少しだけ濃くなった。




―――あかぼしは みょうじょうは―――




次は、星を呼ぶ神楽。

明けの明星を讃える古い歌。


歌い始めると、

ブース内は夜空に戻り、

ゆっくりと夜明けの光が差し始めた。


「夜が…」


遼叔父さんが、ひとりごちる。


明星の歌だから、

夜が明けていくのは当然なんだけど。



このブースは、本当にすごい。



「……次は…歌詞はありません。

 音だけで祈ります」



―――アー……

―――ハー……

―――ラーララ……



ケチュア族の雨乞い歌を選んだ。


私は、

ウユニの空気に合わせて、

母音だけをそっと置いていく。


声が空気に溶けていくたび、

ブースの星空がゆっくりと曇り、

やがて、

本当にうっすらと雨が降り始めた。


遼叔父さんが、

息を呑む気配がした。


「そんな…」


遼叔父さんの声が、

驚きと静かな感動で揺れていた。


雨乞い歌を歌い終わると、

雨はすっと止んだ。


拍手が、また静かに響いた。


うん、美しい。

なんて美しいの…




…遼叔父さんの気配で、

終わりが近いことがわかる。


「最後に…」



―――夜空の向こうの 朝の気配に ―――



「花は咲く」。



東日本大震災復興支援ソング…

優しい、穏やかな再生の歌。


ウユニの夜が明けていく。

雲も晴れてゆく。


歌い終わる直前、

朝日が差し込み、虹がかかる。

長い、

長い拍手が続いた。



「遼叔父さん、ありがとう」


「イヴ……ありがとう。

 ……最高の時間だった」



…よかった。

ブースが、夜空に戻っていく。



「名残惜しいが、片付けよう。

 ―――もうすぐみんなの出勤時間だ」



こうして、

遼叔父さんと私の秘密のノッティングは

静かに幕を下ろした。



宝石たちの時間が、はじまる。


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