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クラブ・ジェムノット~エピソード1-少女は全員直感系の家を出る~  作者: (さ)くま
幕間

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幕間・1 帰省

夏休みが始まり、

遼叔父さんと一緒に京都への帰路に就いた。


「イヴ、確認だ。

 俺はイヴを斎宮家まで見送ったら、

 その足でじいさんとばあさんに会いに行く。

 多分そのまま東京へ日帰りだ」


「はい」


遼叔父さんは忙しい。


「…次の帰省の時には、

 じいさんばあさんのところに一緒に行くか。」


えっ!


「行きます!」


叔父さんが優しく笑う。

車内アナウンスがまもなく京都につくことを知らせてくれた。


「気持ちいい返事だな。

 スケジュール確保するよ。

 …早いな、もう京都か。イヴ、降りよう」


ホームに降り立つと、

懐かしい空気が私たちを迎えてくれた。

東京の揺れは消えて、 影が静かになりすぎる。


たった4か月程度で懐かしくなるなんて。


遼叔父さんと二人で斎宮の家に向かう。

斎宮家の玄関を開けると、 お母さんがすぐに出てきた。


「イヴ、遼。おかえりなさい」


その声は懐かしいのに、

胸の奥が少しだけざわついた。


お母さんは私を見たあと、

ほんの少しだけ眉を寄せた。


「……影が、東京の色になってる」


私は息を呑んだ。


「そ…そうかな?」


「とぼけるんじゃありません。

 イヴもわかってるでしょ…」


拝啓直感系お母さま、コメントが少なくございます。。。


お母さんは遼叔父さんを恨めしそうに見てる。


「遼、あんた見てなさいよ…

 まさか手出してないわよね?」


「姉さん、勘弁しろよ。

 流石にない。

 …じゃ、俺はそろそろ。」


私は

お母さんと遼叔父さんのとんでもないやり取りは

聞かなかったことにして、うなずいた。


「遼、おじいちゃんとおばあちゃんによろしくね」


「遼叔父さんありがとう!

 気を付けて」


「ああ。

 何かあったら連絡してくれ」


世界に溶け込むように、

叔父さんの後ろ姿はすぐに見えなくなった。


「イヴ、さっさと拝殿でご挨拶して

 整ってきなさい?

 中途半端な神楽を舞わないで頂戴ね」


胸の奥がぎゅっとした。


「……はい」


「若いときは仕方ないのかしら。

 経験かと思って承諾したけれど、

 東京なんて行かせるべきじゃなかったかしらねえ…」


―――移動お疲れさま。

疲れたろ、

今日はゆっくりしようか―――


遼叔父さんなら、

こんな風に言ってくれたのかな。


お母さんは、お母さんだった。


帰ってきたご報告を兼ねてお社に向かう前に、

白衣と緋袴に着替えた。

服を着替えただけなのに、

“何も考えない私”の感覚が戻ってくるみたい。


拝殿には誰もいなかった。

二礼二拍手し、瞼を閉じる。一礼。


「イヴ、東京より戻りました。

 夏休みの間、また精一杯お務めいたします。

 お力をお貸しください」


たったそれだけのことで

気持ちがまっすぐになる。

「影が整って」しまう。


神楽殿にも寄ろう。

少し体も動かしたい。


神楽殿へ歩いて向かう。

途中の社務所で千早を羽織った。


私は静かに舞台の中央に立った。


神楽は、

身体が覚えている。


呼吸。

間。

足の運び。

手の角度。

声の出し方。


全部、影とつながっている。


本番では太鼓が鳴る。

笛が鳴る。

空気が揺れる。


今は無音だが、私は舞った。


舞うほどに、

自分の影が静かになっていく。


揺れが整い、

輪郭がどんどん強くなる。


「……ああ、これだ」


胸の奥がじんわり温かくなった。


私はずっと、

無意識に影を整えてきたんだ。

神楽は、影を整える儀式だった。


翌朝、

朝もやの立ち込める神社の境内は

夏の光で白く照らされていた。


早くも蝉の声がそこかしこで響いている。


大学に入るまでのルーティンだった、

神楽のお稽古をした。舞い終わったあと、

境内の参拝者様たちの影が目に入った。


私の神楽のお稽古を見てくださっていた

参拝者様の影が、整っている。


揺れが静まり、

輪郭が柔らかくなっている。

まるで水面が静まるみたいに落ち着いている。


「……私の舞で?」


胸の奥が熱くなった。

影は、整う。


神楽は、

影を整える。


大学に行く前からわかっていた。

だけどそれはただの“当たり前のこと”で、

言葉で実感したのはこのときが初めてだった。


そして──

私の声も、

もしかして影を整える?


そのことに、

初めて気づいた。


その後の夏休み中、

大学生活が恋しくなるほど

神事をお手伝いして、東京に戻った。


そして、京都で気づいたことを、

東京に戻ってから試した。


夜、部屋で小さく歌う。


神楽の節。

お母さんの子守歌。

自分の声。


歌うほどに、

影が整った。


揺れが静まり、

輪郭が強くなる。


陽菜ちゃんの影を思い出す。

揺れすぎる家。

薄い影。

軽い揺れ。


「……陽菜ちゃんにも、届くかな」


私は小さく歌った。


声が、

影の奥に届くように。



歌は、

影を整える。



そのことを、

私は確かに理解した。


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