閑話 「やっぱり変態だっ!・番外編」
4.5話のようなものです。
「ルシア様、お呼びになりましたか?」
控えめなノックの音と共に、教育係兼護衛であるレイが静かに部屋へ入ってきた。
普段、俺が寝坊した時などは有無を言わさず突入してくるのだが、今日は一応確認を取ってくれるらしい。
「あ、うん。入っていいよ。」
「……随分とお疲れのようですね」
「そりゃあね。今日はドレスの試着がなんだかんだ一番疲れたし。その後に来たレイムンドは……うん。
」
コルセットで締め付けられた息苦しさと、ドレスの重たい布地の感触がまだ体に残っている。
「疲れてはいるけど……そうね、やっぱりいいや。あ、でも……」
「結局どっちなんですか。」
レイの冷ややかな口撃に、俺は思考を放棄した。
「んー、めんどくさい! もう寝る!」
そのままの勢いで、天蓋付きのふかふかベッドへとダイブする。
正直、ベッドに天幕なんていらないし、言っちゃえばテーブルや椅子に施されている無駄に高価そうな彫刻も落ち着かない。
一応は公爵家の六女なので何かあっても大丈夫だとは思うが、万が一壊してしまった時の事を想像すると、前世の普通の貧乏大学生だった俺の精神が持たないのだ。
元々、この部屋の壁紙もベッドも、いかにも幼女向けの過剰な装飾が施されたピンクの部屋だった。
流石に落ち着かなかったので、レイに頼み込んで白を基調とした落ち着いた色合いに変更してもらった経緯がある。
部屋に飾られている高そうなガラス細工なんかも全部撤去してくれと頼んだのだが、そればかりは『公爵家六女としての品格が疑われます』と却下され、泣く泣く諦めた。
「それじゃレイくん、私はもう寝るから。行った行った」
いつもの手つきでレイをベッドから払い除け、俺は強引に眠りへとついたのであった。
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「……レイムンドさん」
「いや、これはですねぇ、不可抗力と言いますか……」
翌朝。
俺の自室にて、爽やかな朝日に照らされながら、教育係の変態ことレイムンドが、レイにこってりと絞られていた。
ガラス越しの光が二人を包み込み、無駄に幻想的な一枚の絵画のようになっているのが酷くムカつく。
ずっと見ているとレイムンドが少し可哀想になってくる気もするが……いや、いきなりあんな事をされたんだ。
誰だって全力で叫ぶしかないはず。
あの悲劇は、今から十分ほど前のことだった。
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「ルシィィ“ア様ァアアア! 朝ですぞォォオオ!!」
「……ん?」
うわぁ、すごい。空からお寿司が降ってくるぞぉ……。あはは、大トロだぁ……。
夢の中で、俺は何故か降ってくる寿司達を、口を開けて待ち構えていた。
「スゥウウ――ル“シィィイイア様ァ“ァぁアア!!!」
「っへ!?」
耳元で馬鹿でかい声が響き、バッと目を覚ます。
すると、視界いっぱいに、血走った目をした暑苦しい男の顔面――レイムンドの顔面がドアップで迫っていた。
こいつ、本当に教育係なのだろうか?
驚きと、日頃の仕返し。
この二つの感情が合わさった結果、俺は肺の空気をすべて使い切る勢いで叫ぶことにした。
「すぅ――きゃぁ“あああああああ!!!!」
「「…………」」
一瞬の沈黙。
直後、部屋の重厚なドアが勢いよく開け放たれた。
今、ミシッ……いや、バキッて言った気がするけど多分気のせいだろう。
「どうされましたか、ルシア様!! ……ってお前かっ!?」
血相を変えて飛び込んできたレイが、ベッドの状況を見るなり、どんどん顔が曇っていく。
――それで、先ほどに繋がるわけである。
「勝手にルシア様の寝室へ入るのは禁止ですよ、レイムンドさん。」
「はい……申し訳ありません……。」
普段は無駄にテンションが高く叫んでばかりのレイムンドが、怒られた子供のように縮こまっている。
こんな真面目に怒られている姿は珍しい。
いや待てよ、いつもこいつがふざけすぎているだけか?
「……はぁ。とりあえずルシア様。気を取り直して朝食にいたしましょう」
「ま、そうだな!」
深いため息をつくレイを見ながら、俺は心の中で強く再確認した。
やっぱりレイムンドは、変態だっ!




