第七章 第三部:戦後処理-禁足地
自衛隊が直面した次なる課題。
それは、この時代の諸勢力から受ける干渉をいかに断絶し、歴史に影響を及ぼさず生き延びるかという難問だった。
少なくとも、白峰駐屯地が保有する現代技術が完全に消滅し、後世の人々がこの時代の社会の一部として完全に溶け込む、その日まで。
すでに、彼らの存在は小谷の村の者たちや、北の領主とその近臣、そして出兵した部隊には知られている。進軍の途上にいた北領の民、偶然居合わせた旅人の目にも触れた。そもそも、駐屯地の偽装は完璧ではない。時間が経てば、誰かが気づく。それは避けられない。
そして、存在が知られれば、必ず欲望を孕んだ“干渉”が起きる。
彼らは一人の男を頼ることにした。
かつて勘定頭を務め、現在は新たな北領の主となった男。“葛城兼遠”。領主としての権限を持ち、数字と人心の両方を読むことができる切れ者だった。
北領とは、戦後賠償の話もつけなければならなかった。だが、自衛隊側に北領を困窮させるような選択肢はない。領民が飢えれば内乱が起きる。隙を突かれれば他国が侵攻する。その恨みや混乱が駐屯地に向かえば、再び同じ悲劇が繰り返される。結果として、未来への影響は拡大する。
そこで彼らは、制裁ではなく駐屯地への補助を主眼とした賠償を選んだ。
北領民の生活に影響のない量の米と、当面の生活の援助。そして、もう一つ。今後、他の勢力から駐屯地が干渉を受けないようにするための方策を練り、協力してほしいという要請だった。
自分たちが未来から来た存在であること。
歴史に与える影響。
彼らの存在が他の勢力に知られることの危うさ。
すべてを打ち明けられた葛城は、静かにうなずいた。彼らの謎の技術をみれば、充分に納得性のある話だ。そして、圧倒的な力を持ちながら、領地領民への被害は最小限に抑えてくれた。それどころか、自分を領主に据えたのが彼らであること。その結果として領地経営が改善し、領民に笑顔が戻りつつある現状に、葛城は深い恩義を感じていた。
この程度の賠償で済むなら、ありがたい話だ。
葛城はそう語り、全面的な協力を約束した。
最初に決められたのは、情報の遮断だった。
自衛隊の存在は、北領のごく一部と小谷の村だけが知る、最大級の秘匿事項とされた。関係者には厳重な箝口令が敷かれ、これを破る者には容赦のない厳罰が科されることとなった。
次に、葛城は係争中だった他領との紛争に折り合いをつけ、国境を整理していった。
南領主には、かつて奪い取った実り豊かな大きな村と、小谷の村・駐屯地を含む一帯との“領地交換”を持ちかけた。南領主にとって、その一帯は何の価値もない寂れた土地だった。代わりに得られる豊かな村の魅力は大きく、彼は諸手を挙げてこの提案に飛びついた。
こうして、小谷の村と駐屯地は正式に北領の一部となった。
そのうえで、葛城は最後の布石を打つ。
駐屯地と、その姿を望める周辺一帯を“禁足地”に指定したのだ。
その理由を表向きには伏せ、裏で一つの噂を流布させた。その理由とは――“呪い”である。
行けば帰ってこられない地。向かうことを命じた者すら祟られる場所。
禁足地を攻めた将がいかなる最期を遂げたか。それを命じた重臣たちが、なぜ跡形もなく消え去ったか。
その話を、禁足地から生還した者たちの口から語らせた。公式な布告よりも、人々の恐怖を煽る“噂”の方が、より真実味を持って民衆の間に浸透していった。
駐屯地に通じる道はすべて封鎖された。
加えて、小谷の村に資金提供して、駐屯地に向かう者を見張り、止める役目が与えられた。また、北領からの駐在員が村に派遣され、強行突破を試みる者があれば、強硬手段に出た。
そして、駐屯地との交流を許されるのは、北領主とその供回り、そして小谷の村の者とそこの駐在員だけとされた。
ある夜、日下部が皆の前で端末を起動した。 時空転移による歴史改変の影響を確認するためだ。
表示された未来史を見て、彼は小さく安堵の息を吐いた。
未来は、限りなく元の形に戻っている。
今後、誰かの些細な、軽率な行動が再び道筋を変える可能性はゼロではない。
しかし今は、その道は安定していた。
皆は黙って、その画面を見つめていた。
あとは、我々がこの時代でどう生きるか、だ。
それぞれが、この先の未来を確かなものにするため、この時代を生きていく覚悟を新たにしていた。




