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自衛隊転移ー衛るべきものー  作者: GoGoGorilla
第六章

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第六章 エピローグ:尽きない悔恨、繋がれた命

白峰しらみね駐屯地、正門にほど近い救急救護室。


攻撃ヘリの強奪を図った敵兵に切りつけられた、パイロット二名が運び込まれた。 医官の佐野が救急救護室に駆けつけるのと、二人を乗せた装甲車が滑り込んできたのは、ほぼ同時だった。


「担架、こっちだ! 急げ!」

装甲車の後部ハッチが開き、隊員たちの怒号が響く。 運び出された二つの担架を、佐野は食い入るように見つめ、すぐに“トリアージ”を開始した。


機長。

首元が赤黒く染まり、シーツ代わりの毛布は吸い込んだ血の重みで垂れ下がっている。 意識は、すでにほとんどない。

――重症……一刻の猶予もない


続いて射撃手。

顔色は悪いが、しっかりと目は開いている。

「私は、大丈夫です……機長を……」

声は出ている。呼吸も辛うじて安定している。

――直ちに命に関わる状態ではない、と判断した。


「射撃手はまずは応急処置を。看護官、任せます」

短く指示を飛ばし、佐野は機長の枕元へ回る。 背中を切られた傷は首筋にまで達しており、その切創せっそうが深い。主要な血管を傷つけている。

しかし、ここは山間の駐屯地だ。

“輸血”が無い。

十分な設備も、器具もない。

そしてここは戦国時代。移送できるような病院もない。

医官は、佐野ただ一人。


(できることは限られている……。それでも、やるしかないんだ)

今ある環境で、できる限りの治療を試みる。

緒方おがたさん……お願い、戻ってきて……!」

祈るように叫ぶが、意識は戻らない。心拍は弱まっていく一方だった。

それでも、手は止めない。希望は捨てない。まだ、死を受け入れることはできない。

(まだだ、まだ終わらせない……!)

懸命の処置を続ける。



――

――――だが。


「……心停止」

佐野の声が震えた。

即座に心臓マッサージを開始する。

一回。

二回。

三回。。。。。。


時間の感覚が、なくなる。

「どうか……お願い……」


――しかし。。。。。。


その心臓が、再び鼓動を打つことは、なかった。


佐野は、手を止めた。

救護室を、鉛のように重い沈黙が支配する。


“殉職”


その二文字が、脳内で幾重にも反響した。

胸の奥に、底の見えない巨大な空洞が開いたような感覚に襲われる。


だが。


「……次」

まだ、待っている患者がいる。

無理やり気持ちを切り替え、佐野は射撃手のベッドへと向かった。


射撃手は意識こそはっきりしているものの、こちらも切創の状態は極めて悪かった。背中から肩にかけて、筋肉まで深く切り裂かれ、骨が見えている。

「……手術を開始します」

「……お願いします」

射撃手が答えた。その短い声に、佐野は救われる思いがした。局部麻酔を施し、手術を進める。


縫合は、一針、一針、手早く、しかし丁寧に、確実に。



機長の手術を始めてから、どれほどの時間が経過しただろうか。

最後の縫合糸を切り、消毒薬を含むガーゼで傷口の周囲を拭い、厚くガーゼを当ててテープで留め、身体を包むように包帯を巻く。


「……終わりました」

その言葉を発した瞬間。 数時間にわたってずっと張り詰めていた“緊張の糸”が、切れた。

視界が歪み、涙が溢れ出す。

止めようとしても、堰を切ったように頬を伝い落ち、止まらない。

傍らの看護官たちも、声を殺して静かに泣いていた。


(助けられなかった……)

朝、顔を合わせれば必ず元気に挨拶をしてくれた緒方機長。

『今日もみんな元気だな』と快活に笑っていたあの声が、耳の奥に残る。


もし、十分な輸血があれば。

もし、必要な設備があれば。

もし、救急搬送できていれば。


――あるいは。


自分の腕が、もっと熟達していたら……

敵がヘリに向かって走り出した瞬間、動けていたら......

せめて、警戒の声を上げられていたら......


果てることのない“後悔”が、幾重にも幾重にも押し寄せ、心を削っていく。


その時だった。

「……先生」

弱々しいが、はっきりとした声が響いた。 傷口圧迫のため仰向けに寝かされた射撃手が、佐野を見つめていた。

「ここは戦場です。機長も、私も、覚悟はしていました」

佐野は、顔を上げることができなかった。

「あなたが気に病む必要はない。あなたは懸命に、我々を救おうとしてくれました」


一息置いて、射撃手は言った。

「……機長の分まで、礼を言わせてください。ありがとうございました」

佐野は、ただ、激しく震える肩を押さえて、頷くことしかできなかった。

射撃手のベッドを押して、救急救護室を出る。

薄暗い廊下には、外山そとやま司令が微動だにせず立っていた。

狙撃手を見つめる。

佐野たちは、ベッドを押す足を止めた。

「ご苦労だった」

低く、押し殺したような声だった。

「機長の件について……全責任は、この作戦を遂行した私にある」


一拍、深い間を置く。

「それでも……君が助かってくれて、助けてくれてよかった。ありがとう」

射撃手は目を閉じて首だけを縦に動かし、佐野は敬礼の手で顔を隠して深く頭を下げた。 再び溢れ出した涙を、誰にも見せないように。


「なお、先ほど現地班から連絡が入った。仇は取った。他に被害はなく、作戦はすべて終了した……。今はただ、充分に休んでくれ」

声を殺して涙を流す佐野は、言葉を返すことができなかった。


救えなかった“命の重さ”だけが、


彼女の胸の底へ、冷たく、静かに沈み続けていた。

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