第六章 第四部:小谷の村、静かなる迎撃
村に配置された隊員たちは、現地の住民として振る舞い、日々の村の生活に自然に溶け込みながら拠点構築と監視の任務を継続していた。
村内に配備された防衛装備と設備は、秘匿性を優先して最小限に絞られている。拳銃、自動小銃、機関銃、そして通信機器と観測機器。これらに加え、輸送車が2台、偽装されて納屋に格納されているのみであった。
隊員たちは通信機器を用い、白峰駐屯地との連絡体制を維持している。 村側に潜伏する“偽装隊員”は、平穏な農村の風景に異常が混じらぬか目を光らせ、外部勢力の接近を警戒していた。不測の事態には、村内の装備で本隊到着までの時間を稼ぐとともに、状況が劣勢と判断されれば、即座に村民を輸送車に乗せて撤退する手はずとなっていた。
そんなある日の昼下がり、異変は、村の西側遠方に設置された動体センサーの警告から始まった。 物見櫓にいた隊員が光学機器で確認すると、徒歩で接近する武装集団が視認された。
(やはり来たか……。数も想定内、ひとまず本隊の援護は必要なさそうだ)
櫓の隊員はそう考えつつも直ちに警鐘を打ち鳴らし、無線で地上班と本隊に報告を上げる。その音を合図に、村民たちは訓練通り、迷うことなく集会所への避難を開始した。偽装隊員たちは状況を確認しつつ配置につき、村に置いた通信本部は本隊に無線をつなぐ。
「こちら村側配置班。敵性武装集団が西より接近。数は未確定ながら比較的小規模で概ね想定内。住民は現在避難行動中。これより詳細な状況監視に移行する」
報告を受けた駐屯地では、即座に警戒態勢の引き上げを全隊に下達した。 現時点では、敵集団の正確な規模、目的、装備、そして士気や移動速度などは未知数である。防衛部隊は“第二警戒体制”へ移行し、駐屯地の門周辺の防備を固めるとともに、観測班へ双眼望遠鏡による周囲の徹底監視を命じた。
数分後、村の隊員から再び通信が届く。
「村周辺にて武装集団停止。歩兵主体。装備は槍、盾、弓。我々は一般村民に扮し警戒観測を継続。攻撃意志を確認次第迎撃したい。交戦許可を求む」
『了解。攻撃は必要最小限とせよ。開戦判断は現地小隊長に一任する』
外山司令から、落ち着いた声で端的な回答があった。
偽装隊員たちが息を潜めて観察する中、村の手前で軍容を整えていた敵集団が、号令とともに一斉に村へと駆け出した。 村内に侵入した敵の一部は建造物に火を放ち、あるいは破壊を始める。その後方からは、抜刀した歩兵隊が村人たちが逃げ込んだ集会所へ向けて傲然と歩を進めてきた。
やがて歩兵隊が集会所の前に到達し、先頭の兵が乱暴に扉を蹴破る。
薄暗い室内に、逆光を背負った敵兵の悍ましいシルエットが浮かび上がった。集会所を埋め尽くす村民たちの間に、鋭い悲鳴が響き、恐慌状態に陥りかける。
だが次の瞬間、その悲鳴をかき消すように、野太く張りのある号令が集会所内に響き渡る。
「交戦!! 各個撃てっ!!!」
直後、耳をつんざく爆音が響く。
『ダァーン!』
扉を蹴破った敵兵の胸部を弾丸が無慈悲に貫き、さらに後ろの敵兵の肩を砕いた。
住民に紛れて潜伏していた小隊長が開戦の判断を下した瞬間、隣の隊員が冷徹に引き金を絞り、乾いた銃声が開戦を告げた。
その号令と銃声は、無線を通じて全隊員へ瞬時に共有される。 それを合図に、村内各所で散発的な銃声が上がり始めた。しかし、その射撃は極めて正確かつ抑制されている。 方針はあくまで“必要最小限”。扉を蹴破った末端の敵兵への射撃と、部隊を指揮する頭目の捕縛のための乱戦で敵方に数名の死傷者が出た以外には、執拗に攻撃を続ける者や、施設の破壊を止めない者に対して、行動不能を目的としてやむなく手足への狙撃をしたのみで、交戦らしい交戦もしていない。
「……っ!? なんだ、この音は!?」
現代火器による未知の反撃は、敵兵に底知れぬ恐怖と混乱をもたらした。
統制を失った集団は、蜘蛛の子を散らすように村外へと逃走していく。
村に放たれた火は物見櫓を焼き落とし、設置されていた通信機器一基を焼失させた。
しかし、火災は隊員たちの迅速な処置で間もなく鎮火され、設備の一部に損害は出たものの、隊員側・村民側ともに“人的被害ゼロ”でこの急襲を退けた。




