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自衛隊転移ー衛るべきものー  作者: GoGoGorilla
第五章

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第五章 エピローグ:観測者の告白

私、日下部くさかべ 楓斗ふうとは、元いた未来では時間跳躍研究施設で技術員をしていた。


私が任されていたのは、時間跳躍現象の研究対象となる粒子加速器の運用と周囲環境や歴史への影響の観測、それから日常的なメンテナンスだった。研究の中心にいる立場ではなかったが、装置の癖や異常には人一倍敏感だった。


あの日もいつも通り、スケジュール通りに冷却系を安定させ、出力ラインを確認し、制御卓に身体を寄せて呼吸を整えた。開始信号に応じてスイッチを入れる。いつもなら低い唸りから滑らかに出力が上がるのだが、その日は違った。甲高い共鳴音が最初から混じっていた。設備全体が微かに軋むような音――嫌な予兆だった。


制御卓に警告が出るまで、数十秒と掛からなかった。装置の状態表示が激しく乱れ、閾値を超えた瞬間、本格的なアラートが鳴り響いた。地上区画の研究員たちが退避を開始するのが分かった。私は反射的に安定化操作に入った。この技術はまだ未知の部分が多く、発生した異常がどこにどのような影響を及ぼすか分からない。私は何としてもこの異常を抑え込まなければという義務感だけで、退避のことはすっかり頭から抜け落ち、機器の正常化に没頭した。


だが次の瞬間、視界が白い閃光に呑まれた。身体が押し潰されたのか、浮き上がったのかも判断できない。


意識はそこで途切れた。


次に目を開けたとき、私は見知らぬ薄暗い部屋の簡易ベッドに寝ていた。消毒液と布の匂い。聞いたことのない電子音。そして歴史書で見た記憶のある軍服を着た男たち。彼らは自分たちを “自衛隊” と名乗り、ここが “令和” という時代だと説明した。


数日後、他の民間人と同じ扱いで小さな個室が与えられた。宿舎の一番奥の部屋だった。ここで落ち着けということだろう。夜になると、私は未来から一緒に転移してきた小型端末を起動した。歴史記録用の端末。時代判定画面を開くと、表示された年代は戦国時代を示していた。私はその瞬間、声も出なかった。令和ですら私にとっては遥か過去のはずで、そのさらに底へ落ちたということだった。


それから毎晩、私は端末に向き合った。記録されている年表、文化史、地理史を照合し、漏れ聞こえる駐屯地の人間の話を繋ぎ合わせた。日中は駐屯地を出入りする現地民の話を黙って聞き、断片的な風景や固有名詞をノートに写した。

数回だけ、夜明け前に駐屯地を抜け出して、転移した粒子加速器の様子を見に行った。 偽装された入り口を開けて中に入り、機器の状況を確認する。


得られた情報を総合して分かったのは、私が未来から令和へ落とされ、そこでさらに巨大な暴走が発生し、駐屯地を丸ごと巻き込んでこの時代へ飛ばされたということ、装置は動力源を失ったうえに完全に故障しており二度と動かないことだけだった。なぜ暴走したか、なぜ二度も連鎖したか。原因は何も掴めなかった。


未来側が救助に来る可能性も考えた。私の時代より先の技術で時間を遡行し、回収される可能性だ。しかし、そんなことが起きるならとっくに行われているはずだし、何より――未来から見れば、私は既に “過去” に属している。彼らにとって過去は確定事項であり、我々の行為によって未来が完全に滅びるような事態でない限り、わざわざ過去に干渉するような危険は冒さないだろう。もしも来たとしても、他の時代に干渉するかもしれない。


結果、私は口を閉ざすことにした。私も時間跳躍に巻き込まれた被害者だが、この駐屯地の人々を巻き込んでしまった加害者でもある。許されるはずはない。それに、未来の知識を安易に口にすれば、さらなる歴史の攪乱を招く。だから私は、ただ “観測” だけを続けた。


しかし、端末は数週間前から奇妙な挙動を示すようになった。特定の地域史の記述が断続的に更新され、文章単位で上書きされていったのだ。最初は小さな地名の揺らぎだった。それがやがて、一つの村の運命へと変容していった。

山向こうの寒村が、本来の “衰退の末に移転する” という未来から、“武力侵攻により蹂躙される” 未来へと書き換わった。記述を深掘りすると、宮本という男が個人的判断で村に施した援助が引き金となったようだ。援助によって豊かになった村は周囲の目を引き、標的となり、やがて敵対領主が攻め入って滅びる。不意を突かれ大軍に攻め込まれたこの駐屯地でも、少なからぬ死者が出る。駐屯地の装備が破壊され、略奪され、敵対領主の手に渡り、さらに時代への影響は拡大する。

そこから先の未来は……読めない。ストップウォッチの小数点表示のように、文字が目まぐるしく変わって何も判読できない。こんなことは今までなかった。歴史が、決定的に揺らいでいる。

(いま、歴史の転換点にいる。ここでどう動くかが、今後の歴史を左右する)


私は悟った。沈黙している場合ではない、と。

この駐屯地の人々は、こんな事態を招いた罪深い私に、身元も分からない私に、駐屯地の隊員よりも厚遇して個室を与え、寝具を与え、食事を与えてくれた。追い出すことなく親身になってくれた。私にはその恩がある。それに、これほど大きな歴史改変を、未来人である私が、その原因を作った私が、黙って看過することなど許されない。


(自分の身を案じている場合じゃない。恨まれようが、殴られようが、追い出されようが、構わない)


死者を出さず、改変を最小限に抑える。それができるのは、今この瞬間しかない。


私は心を決めた。 自分の身の上のすべてを告げ、歴史の揺らぎを伝え、可能な限りの対策を提案する。


“観測者” ではなく、責任を負う “当事者” として。


これが、この時代に落とされた私に残された、唯一の役割だった。

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