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自衛隊転移ー衛るべきものー  作者: GoGoGorilla
第五章

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第五章 エピローグ:贖罪の光

宮本は、最初期から、村を助けられるなら助けるべきだ、と考えていた。

制度や外交、歴史改変といった複雑な議論を持ち出されても、彼には関心がなかった。自らが凍えようとも目の前で寒さに震えている者がいれば毛布を渡し、最後の一つであろうと熱にうなされる子供がいれば薬を飲ませる。それが、自ら被災者として自衛隊に助けられた過去があり、それに憧れて自衛隊に入隊した宮本の信念だったし、そもそも人としての道理だと信じて疑わなかった。


だが、実際に動くとなると、それは彼一人の意志だけでは成立しない。自衛隊は組織であり、彼はその一員だ。宮本もそれは理解していたはずだった。


にもかかわらず、衛生班の隊員が老婦の安藤はると生薬の話を交わし、村人たちが頭を下げて何度も礼を言う場面を目撃したとき、胸の奥に小さな棘が刺さった。救われた者たちの笑顔も、はるが誇らしげに薬草の束を差し出す姿も、本来なら宮本が喜ぶべき光景だったはずだ。


しかし、彼はそうは思えなかった。

(あれは、俺が先に考えていたことだ)

(あそこにいるべきなのは、感謝されるのは、俺だったはずなのに)

そう思った自分を内心で激しく責めつつも、どろりとした感情は消えなかった。助けたいという“善意”と、認められたいという“欲望”。その矛盾が、胸中でぬかるみのような重さを生んでいた。


ほどなくして、宮本は駐屯地の医薬品や防寒具、工具を持ち出し、独断で村に渡すようになった。最初こそ戸惑っていた村人もやがてそれを受け入れ、目に見える“成果”が現れ始めた。

子供の熱が下がり、母親が泣いて笑った。 夜の寒さに凍えていた老人に笑顔が戻り、冬を越せると希望に沸いた。隙間風だらけで今にも崩れそうな家が直って家族が喜び、肩を叩き合った。 作業が早く終わり、収穫量が増えて、村に久しぶりの活気が生まれた。


宮本にとって、それらは“自分の善意が形になる”という確かな手触りだった。 達成感、充実感、そして必要とされる喜び。純粋に人が救われる光景の美しさ。それらすべてが宮本の内側に積み重なり、彼はそれを“誇り”に近いものとして抱えていた。

(俺は間違っていない)

その静かな確信は、未来人の端末が見せた映像によって、一瞬で崩れ落ちた。


“村が滅亡する”という、残酷なまでに確定的な未来。 その原因が異常繁栄であり、その背景に武力と物的支援があった。そして、破滅の引き金となった支援の中核には、宮本の行動があった――その可能性が“極めて高い”という。


説明を受けた宮本は、怒らなかった。

言い訳もしなかった。

ただ、心の中で同じ言葉を何度も呟き続けた。

(助けたかった、ただ助けたかったんだ。なのになぜ……)

誰かに非難されたわけではない。誰かに責められたわけでもない。だが、宮本の胸を締め付ける罪悪感は、他者が与えるどんな罰よりも重く、彼自身を裁いていた。


その日を境に、宮本は村の方角を見なくなった。視界に入れないように努めた。村を思えば後悔が湧き、後悔を思えば胸が焼けた。だから彼は村から目を背け、ただ黙々と任務をこなした。無言で、無表情で、任務に没頭した。

人を避け、他人もまた彼に触れようとはしなかった。 静かな“孤立”だった。それは処罰でも指導でもなく、互いの間に自然に発生した距離だった。


ある夜。 宮本は人目のない屋外に立っていた。 周囲には灯りもなく、夜空には星だけがかすかに光っていた。遠く、深い闇に沈む村の方角。本当はその方向を見たくなかった。見ないようにしてきた。しかし、足が、顔が、磁石に吸い寄せられるようにそちらを向いていた。

あそこにいる人々は今、眠っているのか、笑っているのか、あるいは怯えているのか。 自分にはもうわからない。守りたいと願った場所。結果として壊してしまうことになった場所。 視界が急に滲んだ。頬を伝う熱い線が、夜風で冷えた。

声は上がらなかった。代わりに、胸の奥が軋んで、苦しくて、どうにかなりそうだった。


そこに、誰かの足音が聞こえた。

ふと現実に引き戻された宮本は、それ以上村を見ていられず、強く目を閉じて顔を伏せた。


数日後、全隊員が集められ、外山そとやまははっきりと言い放った。


「村も部下も見捨てない。介入は最小限とし、全面的に守る。責任は組織として負う」


その宣言を聞いたとき、宮本は奇妙な感覚に襲われた。

誰かに赦されたわけではない。しかし、自分が自分を赦すことを“許される”気がしたのだ。


もう、独断はしない。 助けたいと願うなら、今度は組織として、堂々とやる。 生きて、責任を取る。 逃げずに、今度こそ最後まで守り抜く。


それから宮本は、少しずつ以前の調子を取り戻していった。


そんなある日の昼下がり。分隊の数人と共に駐屯地内の道を歩きながら、宮本はふと足を止めた。

仲間たちは何も気づかず、談笑しながら先に進んでいく。

宮本は、ゆっくりと後ろを振り返った。 その先には、あれほど見ないようにしてきた、小谷おだにの村があった。 遠い霞の向こう、まだ滅びてもいないし、救われてもいない不確かな未来が、ぼんやりと漂っている。


夜に泣きながら目を背けた、あの同じ方向。

それを、今は正面から見つめていた。

胸の奥はまだ疼く。それでも、目は逸らさなかった。

(まだ、終わっていない)

(まだ、間に合うはずだ)


仲間の一人が振り返り、声を上げた。

「宮本、何してんだよ。行くぞ!」

宮本は前を行く仲間の方を振り向き、短く、しかしはっきりとした声で返した。

「今行く!」


小さく息を吸い込み、宮本は駆け足で仲間たちへ追いついた。 その顔は晴れやかで、もう瞳に迷いはなかった。 まわりには仲間がいて、あの重苦しい夜とは違う、輝く“昼の光”が満ちていた。


起こってしまったことは、もう元には戻らない。自分たちの時代に帰る道もない。

ならば、もう後ろも下も向かない。


ここで、仲間たちと共に、前を向いて歩んでいこう。

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