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自衛隊転移ー衛るべきものー  作者: GoGoGorilla
第五章

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第五章 第三部:時空遮断と観測端末

激昂する隊員たちの罵声が、重苦しい空気の中に響き渡っていた。

「お前たちのせいだろ!」

「俺は!家族は!!どうしてくれるんだ!!」

パイプ椅子を蹴倒し、立ち上がって怒鳴り散らす隊員もいる。剥き出しの怒りをぶつけられても、日下部くさかべは反論も弁解もしない。ただ、仏像のように耳をそばだて、静かに目を閉じてすべてを受け入れていた。


「静かにしろと、言っている……ッ!」


外山そとやまの怒鳴り声に、ようやく場に一瞬の静寂が落ちた。

日下部もゆっくりと目を開ける。

荒い息をつきながらも怒りを押しとどめる隊員たちを一瞥し、外山が落ち着いた声で諭す。


「貴官らの無念は痛いほどわかる。私とて同じだ。だが、怒りに身を任せて彼を糾弾したところで、帰還の道が開けるわけではない。落ち着け。冷静になれ。感情で引き金を引くような真似はするな。我々自衛官が武器を預かる者として、最も守るべきは規律と沈着冷静さであるはずだ」


外山の話に隊員たちは落ち着きを取り戻し、席に戻る。


「我々の時代に、彼を裁く法はない。が、いずれにしても、沙汰は追って考える。彼も、こうなることを覚悟して打ち明けたんだ。その覚悟を受け止めて、今はいったん落ち着いて彼の話を最後まで聞こう」

外山は隊員たちを見回し、日下部に視線を向ける。


再び、隊員たちの視線が日下部に集まる。日下部は一呼吸置いてから、ゆっくりと隊員たちを見回した。ここから先は、単なる経緯の説明ではない。この世界が、どのような“法則”の上に成り立っているのか――彼らが気にする歴史改変に関する話だった。


「まず、はっきりさせておく必要があります」

静寂のなかに日下部の声が響く。

「私たち――正確には、時間転移した存在は、歴史改変の影響を受けません」

伊藤が、怪訝そうに眉を動かす。

「……影響を、受けない? どういう意味だ」

「はい。転移した瞬間、その存在は“歴史の連続性”から物理的に切り離されます。時空遮断“Temporal Isolation”。未来では、そう呼ばれていました」

日下部は、手元の端末の淡い光を見つめながら続ける。

「時空遮断が成立すると、その人間はもはや未来に属する“歴史の結果”ではなくなります。時空の異物として突如として過去に発生し、その存在は過去に属し、元いた時代の因果から完全に独立した存在になります」

「つまり――どういうことだ?」

外山が押し殺したような声で問いを投げた。


「仮に、です――仮に......」

日下部は、そこで言葉を区切った。慎重に言葉を選ぶ。


「好ましくない例ですが、例えば、転移した人物が、自分の祖先を、子をなす前に殺害したとしても、すでに転移した人物は消滅することはありません。これは、時空遮断がおきて、元いた時代の因果からは切り離されているからです」

一瞬、場の空気が張り詰めた。


「自己消滅パラドックスは起きません。なぜなら、転移した時点で“その人間が生まれる未来”から、我々の存在は独立しているからです。過去に干渉すれば、確かに未来の歴史は書き換わります。ですが、書き換わるのは――非転移領域、つまり我々以外です。我々人間だけじゃない、我々と一緒にこの時代に転移してきた物も、歴史改変の影響を受けません」

日下部は、断言した。

「例えば、この駐屯地内に残された記録や歴史資料は、こちらへ来てから一行たりとも書き換わっていないはずです。ただし――」

ここで、彼は初めて、例外に触れた。

「――私の持つこの端末だけは、例外です」

誰も、言葉を挟まなかった。

「この端末は、未来世界の“確定史料”データベースと、情報的に同期しています。物理的な、電波を媒体としたものではありません。この端末の特殊な物質でできたチップそのものが、時空を超えて未来のデータベースのチップと同調しています。これによって、過去に存在しながら、未来側の歴史記録に常時“同期”されています」

それが、日下部が毎晩、人知れずひそかに端末を起動していた理由だった。


「歴史改変が起きるたび、未来の記録は書き換わり、保存されます」

彼は、淡々と続ける。

「私はそれを、毎晩確認してきました。何かが書き換わっていないか。我々の転移が、未来にどのような影を落としているのかを」

橋谷(はしや)が、震える声を抑えながら慎重に尋ねた。

「……未来が変わるというなら、それは歴史ではなく予言のようなものじゃないんですか」

日下部は、静かに首を横に振った。

「いいえ。端末に表示されるのは“予言”ではありません」

それは、歴史干渉の影響と、その修正を考えるうえで、非常に重要な点だった。

「歴史、という言葉の概念に引きずられると理解が難しいのですが、ここに示される未来の歴史とは、“現在のまま進めばこうなる”という未来です。確定ではなく、私たちの干渉を受けて、常に変動し得るものです。ですが、これまでは、大きな変化は見られませんでした」


理由は単純だった。


「皆さんが最初から歴史改変を意識し、極力干渉しないように振舞ったこと。あわせて、皆さんの接触が、歴史の大きな流れに対して極めて小規模だったこと。そして、あの村自体も、未来の史実の中ではただの“周辺ノイズ”に過ぎなかったからです。多少栄えようが、衰退しようが、誰の目にもとまらなかったし、歴史の本流にはさざ波一つ立ちませんでした」


歴史の巨大な歯車を狂わせるには至らない、取るに足らない場所。それが、あの村だった。


「ですが――」


日下部の声が、鉛のような重さを帯びた。


「今は、違います」

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