6:僕達はその喫茶店で何度も会った
それ以来、僕は彼女と頻繁にメールをするようになった。
まだまだ寒い二月の日のこと。
音楽の話だけじゃない、例えば履修している授業のこと、大学の近くのおしゃれな喫茶店のこと、生協のこと、カラオケで歌う曲のこと、家族のこと、ライブのこと……僕達のメールのやり取りは、不思議と切れることがなかった。
『じゃあ今度、その喫茶店に行こうよ。僕も前々から行きたいと思ってたし』
『いいよー。じゃあ、十六時に正門前集合でいいよね?』
デートの誘いの受け答えのようなメールをやり取りして、僕達はその喫茶店で何度も会った。
そして他愛のない話で、盛り上がった。
『最近のJanne Da Arcはあんまり好きじゃないんだぁ。昔のさ、インディーズ時代の曲の方が好きかも』
『激しくてエロい曲が多いよね。エロかっこいいみたいな?』
『そうそう。アルバム曲の方がいいかも。桜とかやばくない?』
『やばいやばい。でも僕、カラオケで歌おうと思ったけど高すぎて歌えなかったよ』
『あ、本当に? そうだよね、yasuの声って男の人にとっちゃ高いもんね』
そう言って、ユリはコーヒーを一口すすった。
ミルクは入れない、その代わり砂糖をたっぷりいれるんだって、言っていた。
白いカップは、今の彼女の服装に妙に合っていた。
ふわふわのカールを巻いた亜麻色の髪、白いフリルのついたシャツに、グレーのカーディガンを羽織っている。
『私はちょうどいいかな、yasuの声。ただ、サビ以外だと低くて歌えない箇所が少しあるかも』
『だったらサビをユリが歌って、他の部分は僕が歌えばちょうどいいのかもね?』
そう言って二人で笑うと、じゃあカラオケ行こうかという話になり、そのままカラオケ館で二時間、歌った。
ユリが歌った曲で知らない曲はなかったし、ユリにしてもそのようだった。
the GazettE、アリス九號.、雅-miyavi-、ヴィドール、Phantasmagoria、Kagrra,、Dir en grey、Janne Da Arc、Gackt、GLAY、Plastic tree、……よくもまあそこまでネタが尽きなかったね、と後から二人で笑ったりした。
本当に、ユリはよく笑った。
ユリが笑う姿を見て、僕もつられて笑った。
二人で一緒に、笑いあった――
「前にも話したっけ? 今の話」
「いや、初耳なことが多い。実際のところ、俺はワッカの話をほとんど聞いたことないからな。いつも俺が自分の悩みばっかり言ってるし」
「そっか、そうだったな」
僕は最後のフライドポテトを口に放り投げて、少し油のついた手を紙ナプキンで拭いた。
ベタついた感触がかすかに残っている。
「どのあたりのことを、話したんだっけ?」
「んー、そうだな、何度も遊びにいったってところは聞いた」
「ああ……そのあたりね」
「すっげー楽しいんだって、言ってた記憶があるぜ」
ホタルはそこで、ドリンクバーおかわりしてくると言って、席を立った。
その間に僕はLUCKYSTRIKEを一本取り出し、ホタルのライターで火をつけた。
Zippoとはまた味が少し違う。
どこか呆けた苦味が、口の中を満たした。




