表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
卑怯な温もり  作者: 久遠寺蒼
ユリ
7/25

6:僕達はその喫茶店で何度も会った

 それ以来、僕は彼女と頻繁にメールをするようになった。

 まだまだ寒い二月の日のこと。

 音楽の話だけじゃない、例えば履修している授業のこと、大学の近くのおしゃれな喫茶店のこと、生協のこと、カラオケで歌う曲のこと、家族のこと、ライブのこと……僕達のメールのやり取りは、不思議と切れることがなかった。

『じゃあ今度、その喫茶店に行こうよ。僕も前々から行きたいと思ってたし』

『いいよー。じゃあ、十六時に正門前集合でいいよね?』

 デートの誘いの受け答えのようなメールをやり取りして、僕達はその喫茶店で何度も会った。

 そして他愛のない話で、盛り上がった。

『最近のJanne Da Arcはあんまり好きじゃないんだぁ。昔のさ、インディーズ時代の曲の方が好きかも』

『激しくてエロい曲が多いよね。エロかっこいいみたいな?』

『そうそう。アルバム曲の方がいいかも。桜とかやばくない?』

『やばいやばい。でも僕、カラオケで歌おうと思ったけど高すぎて歌えなかったよ』

『あ、本当に? そうだよね、yasuの声って男の人にとっちゃ高いもんね』

 そう言って、ユリはコーヒーを一口すすった。

 ミルクは入れない、その代わり砂糖をたっぷりいれるんだって、言っていた。

 白いカップは、今の彼女の服装に妙に合っていた。

 ふわふわのカールを巻いた亜麻色の髪、白いフリルのついたシャツに、グレーのカーディガンを羽織っている。

『私はちょうどいいかな、yasuの声。ただ、サビ以外だと低くて歌えない箇所が少しあるかも』

『だったらサビをユリが歌って、他の部分は僕が歌えばちょうどいいのかもね?』

 そう言って二人で笑うと、じゃあカラオケ行こうかという話になり、そのままカラオケ館で二時間、歌った。

 ユリが歌った曲で知らない曲はなかったし、ユリにしてもそのようだった。

 the GazettE、アリス九號.、雅-miyavi-、ヴィドール、Phantasmagoria、Kagrra,、Dir en grey、Janne Da Arc、Gackt、GLAY、Plastic tree、……よくもまあそこまでネタが尽きなかったね、と後から二人で笑ったりした。

 本当に、ユリはよく笑った。

 ユリが笑う姿を見て、僕もつられて笑った。

 二人で一緒に、笑いあった――



「前にも話したっけ? 今の話」

「いや、初耳なことが多い。実際のところ、俺はワッカの話をほとんど聞いたことないからな。いつも俺が自分の悩みばっかり言ってるし」

「そっか、そうだったな」

 僕は最後のフライドポテトを口に放り投げて、少し油のついた手を紙ナプキンで拭いた。

 ベタついた感触がかすかに残っている。

「どのあたりのことを、話したんだっけ?」

「んー、そうだな、何度も遊びにいったってところは聞いた」

「ああ……そのあたりね」

「すっげー楽しいんだって、言ってた記憶があるぜ」

 ホタルはそこで、ドリンクバーおかわりしてくると言って、席を立った。

 その間に僕はLUCKYSTRIKEを一本取り出し、ホタルのライターで火をつけた。

 Zippoとはまた味が少し違う。

 どこか呆けた苦味が、口の中を満たした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ