5:カフェテリアに一人で入ってきたのがユリだった
――実際のところ、どこから話したらいいのか、僕にも分からない。
少し、複雑な事情が重なり合ってしまった。
偶然から生まれた不幸……そう言ってもいいけれど、やはり最終的には自分に非があると思い直し、口には絶対出さない。
桜井さんの本名は桜井 梨絵という名前で、僕は彼女の名前を知ってからリエと呼んでいた。
先ほどホタルが言っていた『ユリちゃん』は、的場 友利子という名前で、バイト先で知り合った子とはまた違う子である。
僕が先ほどふってきたのは、ユリではなくて、リエの方だった。
まだリエと出会う前、僕はユリと出会った。
ユリは、率直に言ってしまうと、僕がリエよりも惚れた人。
同じ大学だった。
僕は法学部、ユリは商学部だった。
ある日、商学部の友人から飯に誘われて、大学のカフェテリアで食事をすることにした。
僕はボンゴレ・ビアンコとシーフードサラダを、彼は茄子とベーコンのカルボナーラ大盛りを注文した。
一息ついたところで、最近どうよって話を始めたところ、カフェテリアに一人で入ってきたのがユリだった。
ユリは一度店内を眺め、彼の姿を見つけると、笑顔で近くまで寄ってきた。
恋人同士なのかな、と思ったが違うらしく、語学で同じ授業をとっているとのことだった。
『初めまして。的場って言います』
そう言って笑うユリが眩しかった。
『今日は何とるん? これから飯かい?』
『そうだよー。朝から何も食べてなくて』
『じゃあ一緒に食おうや。俺ら今ちょうど注文したところやし』
彼女は大きく頷くと、彼の隣に座った。
『ああ、ちなみにこいつな、ワッカって名前やねん』
『ワッカ? 珍しい名前ですね』
『ライブネームだよ。ライブの時はワッカって名前を使っているんだ』
『へー、バンドマンなんですね』
そこから音楽の話で会話が盛り上がった。
僕も彼もロックが好きで仲良くなり、ユリもまたロック好きな女の子だった。
『うーん、僕は太陽族とかにはまっていたかな』
『インディーズが好きだったんだね。私もマイナーなのが好きだったかな』
『へえ、例えば?』
『こいつな、蜉蝣が好きやったんやて。バリバリのヴィジュアル系』
『あ、こらちょっと!!』
そう言って、ユリは彼の肩をベシリと叩いた。
『へー、ヴィジュアル系が好きなんだ。僕も好きだよ』
『え、そうなの?』
彼女はすぐに打ち解けて、はじめは敬語だったにも関わらず、いつのまにかタメ語で話すようになっていた。
『高校時代は他にThe Yellow MonkeyやDir en greyくらいしか聞いてなかったからね』
『そうなんかー。ヴィジュアル系だったら、俺はX JAPANにはまっとったで』
『hideいいよねー、かっこいい』
あまりに話に熱中しすぎて、料理がきたのも分からなかったくらいだった。
熱中しすぎたね、と三人で笑った。
食事が終わり、授業に出るとユリは席を立ち、その際に連絡先を教えてくれた。
また音楽の話しようね、と名残惜しそうに、彼女は去っていった。
その日のうちに、僕は彼女にメールを送った。
今日はありがとう、楽しかったよ、と。
すぐに返信があった。
こちらこそ楽しかったよ、音楽の趣味が似てる人がいてびっくりだったよー、と。




