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卑怯な温もり  作者: 久遠寺蒼
リエとの出会い
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4:彼と知り合ったのはネット上で

 それからどうやって連絡を取り合うようになったのか……今ではもう思い出せない。

 まだ一ヶ月くらいしか時間は経っていないはずなのに。

 仕事中に、社員さんが彼女のことを『桜井さん』と呼んでいたので、彼女が桜井という名前なのだと分かった。

 気づいたらSNSでメッセージ交換をしていて、それじゃあ今度花見でも行こうかって話をしてて。

 付き合うつもりはなかった。

 ただ彼女がどこか落ち込んでいるようだったから、気晴らしでもしますかーと思っただけ。


 それなのに。

 気づけば僕らは人気のない公園の奥で、そっとキスをして、抱きしめあっていた――



「どうした、ぽかんと天井を見つめて」

 彼が戻ってきた。

 手に持っているコップには、ホワイトウォーターが溢れんばかりに注がれている。

 氷は入っていない。

 『俺さ、腹が弱いからドリンクバーとかじゃあ氷はいれないようにしているんだ』と、話していたことがあった気がする。

「いや、なんでもない。それより悪かったな、こんな時間に」

 言いながら、ほとんど灰になってしまった煙草を灰皿に押し付ける。

 くすぶった煙が、僅かにたちこめる。

「気にするなって。いつもこれくらいの時間に呼び出しているのは俺の方だし」

 ぐいっと彼が呷ると、グラスは半分ほど空になっていた。

「んで、どうした? 『例の子』にふられたのか?」

「『例の子』って、どの子のことだ?」

 彼は目を少し大きく見開き、視線を泳がせた。

「あれ、あれだよ、お前がずっと好きだーとか話していた子。すごく惹かれてさーみたいな感じで言ってたじゃん」

「最後に会ったのって、いつだったっけ?」

「んーと、二ヶ月くらい前だったかな」

 よく覚えている。

 彼――いい加減、名前で言おう。彼の名前はホタル。実は本名を知らない。彼と知り合ったのはネット上で、同じ埼玉県に住んでいると分かって実際に会ってからも、僕は彼のことをホタルと呼び、ホタルは僕のことをワッカと呼んでいた――はもう一口喉を鳴らしながらホワイトウォーターを飲むと、グラスは空になってしまった。

「そうそう、ユリちゃんって名前の子だよ。思い出した」

「ああ……ユリちゃん、ね」

 僕は再び白い煙が漂う天井を見上げた。

 近くのギャルたちの笑い声が響く。

「ユリちゃんには、ずっと前にふられたよ。そうだな、一ヶ月ちょっと前だ」

「え、そうだったんか?」

 ホタルはマイセンに手を伸ばし、ポケットからマッチを取り出してシュっと擦り、火をつけた。

「じゃあ今日はユリちゃんとは違うんだ」

「……ああ」

 うまく煙草に火をつけられず、彼はもう一度マッチを擦った。

 煙草に火がつき、先から赤い光を放ちはじめる。

「あ、女絡みの話じゃなかったってことか」

「いや、女絡みの話だよ。さっきふってきたとこ」

 ゲホゲホと、彼は大きく咳き込んだ。

 無理もないと思う。

「な、マジかよオイ! 誰だよ、その子」

「話すと長くなるんだけど……」


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