7:彼女の飲み方が悪酒になることがある
二人の遊びは、喫茶店にとどまらなかった。
ユリはノリがいい子で、気まぐれに『暇だから遊ぼうよ』とメールするとすぐにOKしてくれて、ビリヤードに行ったり、ダーツに行ったり、一緒に飲みに行ったりした。
大学近くに、よく行くBARがあった。
常連……と言うにはまだまだ回数が少なかったが、おいしいお酒を飲みたいと思ったら大体そのBARでギムレットかジャックダニエルのコーラ割りを、終電になるまで飲んでいた。
ユリも気に入ってくれたようで、また行きたいと何度も言っていた。
二人ともジンベースのカクテルが好きだった。
二人でボンベイ・サファイアのボトルをキープして、ボトルの背中に『ワッカ&ユリ』と書いたりした。
『なんで、ボトルにまでワッカってライブネームを書くの?』
初めてボトルをキープした時、ユリは可笑しそうに聞いた。
『好きなんだよ、ワッカって名前。もしも叶うなら、自分の本名もワッカって名前にしたいくらいだ』
『ふーん、じゃあ小林ワッカくん、ってわけだ』
『そうなるね』
そんな会話を交わしながら、キンとカクテルグラスで乾杯すると、まるでそのBARは二人だけの世界のように感じられた。
マスターもバーテンも他の客もいない、いるのは僕とユリと、目の前にならんだ数々のボトルたちだけ。
そんな一時に酔いしれるのが、僕の楽しみになっていた。
ユリは酔うとものすごく多弁になった。
自分の身の上話、ジンが好きになった理由、あっちむいてホイの勝ち方、マーケティングの難しさ。
多岐にわたるその会話に、僕はじょじょに惹かれていった。
たまに、彼女の飲み方が悪酒になることがある。
どんどん沈んでいって、自分を否定しはじめるのだ。
一瞬会話が途切れて、どうしたんだろうと横を向いた時にはもう俯いていた。
『私って、ダメな女なんだと思う』
どうして、と聞いてもユリは答えず、ただ首を振りながらグラスを一気に空にしては、次のカクテルを注文するのだ。
最終的にユリは吐いたり、泣き崩れたり、ふらふらになって帰れなくなるわけではなく、ただ黙して目の前のボトルたちのさらに向こうを見ているような瞳を宿しながら、ぼーっと時間に身を委ねていた。
そんな時のユリに言葉は無意味だった。
明るい会話を振っても、自嘲的にとれる笑みを浮かべるだけ。
彼女が元気になるまで僕はその隣で煙草を吸いながらギムレットをちびちびと飲んでいた。
悪くはなかった。
なんとなく、ユリの普段見せない一面が見れているようだったし、そうなるには何か理由があるに違いないと思ったからだ。
だから僕はそれ以上何も聞かなかった。
隣に、一緒の空間の中にいるだけだった。
だから、僕は自分の失態に気づかなかった。
僕と一緒にいるだけで、彼女を苦しめていたことに気づかなかったのだ。
「んで、話の続きといこうか」
またもやホワイトウォーターをグラス満タンにして、ホタルが戻ってきた。
少しだけホワイトウォーターを口に含むと、顔を律とさせて、僕の顔を覗いてくる。
「うん、そうだね……」




