冬休み(2)
久々の更新です。
「つ、疲れた・・・」
魔術師昇格試験を終え、戻って来た応接室のソファにへたり込む。
そんな私の姿を見て、ベルさんは苦笑するだけで、行儀が悪いとか注意することは無かった。
テーブルの上には疲労回復に効果のあるハーブティと、おいしそうなお菓子の数々が置かれていた。
今から数十分ほど前、昇格試験のために訪れた訓練場で全く予想しなかった出来事が・・・。
『アイリス!何故、君が訓練場に?!」
まさかの王子との遭遇。
学園の外で、よりにもよって王子と会うなんて・・・。
王宮=王族の住居だから、王子と遭遇する可能性はゼロではないけど、このひろ~い敷地内、王族の住居部分からかなり離れた場所である訓練施設で遭遇する確率は限りなくゼロに近いはず。
「今日は、偶々、時間があったので訓練の見学に来た」
そう、王子は言っていた。
「まさか、ここで君に会うなんて思わなかった?どうして、ココに?」
周囲からの好奇の視線が痛い。
「今日は、ライアン商会の仕事です。商会が納めた制服の試作品の性能試験の協力でココに来ました。そうですよね?レオンハルトさん?」
と、言っておいた。
私の言い方に何かを察したレオンハルトさんが、
「学園の生徒の成績は、魔術研究所にも報告されていますからね。偶然、彼女が納めに来たので、無理を言って協力してもらっているのです。殿下。今から性能試験を始めますので、危険ですからあちらの安全な場所までお下がりください」
と、言ってくれた。
どうやって的を破壊しようかと色々考えてはいたが、王子がいる前で派手なことは出来ないので、無難にファイアーボールを使用することにした。
遠くの的にはファイアーボールを放ち、近くの的には借りた訓練用の剣に火属性を付加し、的を叩き切ることにした。
火属性を付加することで剣が赤く輝くのだが、そこに魔力を流し続けることによって剣が炎を纏い、刀身が二割増しの大きさとなる。さらに、大きく振りかぶることで、剣の先から火球が放たれるのだ。
不思議なことにこの技、魔力が無いと言っているヴィクターさんが使用できるのだ。
私は他人の剣に属性を付加させることは出来るけど、そこに魔力を供給し続けることは出来ない。
あくまでも予測なのだが、ヴィクターさんの闘気が魔力の代わりになっているのかと。
木製の板の的は、剣で簡単に割ることが出来た。
的に当てる直前、剣に重力魔法をかけたおかげかも。ついでに、火の温度も高かったから、的は見事なまでに燃え上がる。
炎の側にいてそんなに熱く感じなかったのは、制服の耐熱効果のおかげだろう。
全ての的が燃えているのを確認して、
「では、私はこれで。報告に帰らなければいけませんので」
と、急いで訓練場を後にした。
一応、王子がいる方にお辞儀はしたよ。
王子がコチラに近寄ってこようとしていたけど、レオンハルトさんが「炎が消えるまでは危険ですので」と、言って上手く引き止めてくれていたようだ。
魔力は大して使っていないのに、この疲労感は半端ない。
出されたお茶とお菓子をありがたく頂いていると、応接室に新たな来訪者が。
クロード先生だった。
先生は、冬休みの期間はココで例の資料の解読と研究をすることにしたそうだ。
「アイリスが来ていると聞いてね、まだ途中ではあるが、君にも報告しておこうと思ってね」
学生である私が関わっていいのかと思ったが、遺跡の発見者の内の一人として公式な記録に名前が載っているので構わないとのこと。
「今、研究しているのはこの文字なんだが・・・」
先生が見せてくれた紙には“氷”と書かれていた。
「資料には、初心者向けの文字とかかれていた。この文字を魔法陣を描く特殊なインクで紙に描き、魔力を込め、水の入ったコップに貼り付けると・・・」
中の水がゆっくりと凍り始めた。
だが、しばらくすると徐徐に凍るスピードが遅くなり、止まってしまう。
再び文字に魔力を込めると凍り始めるが、しばらくすると止まってしまう。
コップ一杯の水を凍らせるのに、10回ほど魔力を込めなおしていた。
「一度に込められる魔力が少ないと考えて、文字の大きさや線の太さなどを変えてみたが、大した効果は無かった」
回数が1~2回減っただけらしい。
魔力を込める者を代えても、あまり変化は無かったそう。
「当時と違うインクだからとも考えられるが、材料がすぐには手に入らなかったので、それについてはインクが出来次第、改めて検証することにした」
「材料なら、今日、アイリスちゃんが届けてくれたから一週間ほどで出来上がると思うわ」
あの瓶に入っていたのが材料でしたか。
「そこで、試しに描く人を変えてみたらどうかと思い、数人に文字を描いてもらって試したところ、面白いほど差が出た」
凍るスピードだったり、一度に凍る量だったり、それぞれ違った差が出たそう。
一番効果があった文字で試すと、先ほどの半分、5回魔力を込めるだけでコップの水は氷になった。
先生が実験で使用した文字を見せてくれたが、文字と言うより記号?に見えた。
「そこで、アイリス。君にも実験に協力して欲しい。これが遺跡にあった原本だ。コレを見本にこの文字を描いてくれ」
そんな貴重な本を・・・・・・。と、思ったけれど、さすが原本。達筆な漢字が書かれていた。
コレ、筆で書かれているな~。と、思いつつ、魔法陣用のインクとペンで紙に文字を書き、魔力を込め、コップに貼ったところ、あら不思議。時間はある程度かかったものの、追加で魔力を込めることも無く、氷になりました。
クロード先生もベルさんも呆気に取られていましたよ。
「アイリス・・・、試しにコチラの文字に魔力を込めてみてくれないか?」
先生の手元にある誰かが描いた紙で試したところ、途中で凍らなくなりました。
「魔力の質は関係ないか・・・。いかに文字を正確に描けるかなのか・・・?」
正確に・・・って、“とめ、はね、はらい”に気をつけて書いただけなんだけど。
改めて、他の人達が描いた文字を見てみると、“はね”や“はらい”の自然に力を抜くことで線が細くなる部分が他の線と変わらない太さだった。
私の勝手な推測なんだけど、“とめ”の部分で魔力を留めて、“はね”と“はらい”の部分が魔力の流れに大きく関わっているんじゃないかな~と。
「私、そろそろ戻らないと・・・」
窓から差し込む光が夕暮れ時を知らせてくれる。
「ずいぶん引き止めてしまったわね」
ベルさんも現在の時刻に気付いて驚いたようだ。
テーブルの上に残っていた手付かずのお菓子を箱につめて持たせてくれた。
「お店の方にはコチラから連絡しますと伝えててね。それじゃあ、良いお年を」
「はい。ベルさんも。レオンハルトさんにもお伝えください。それでは、クロード先生。私、帰りますね」
真剣に考えこんでいる先生に、一応、声はかけたが気付いていないようだったので、そのまま部屋を後にした。
帰りはベルさんが研究所の馬車を手配してくれたので、王子と遭遇すること無く、平穏に帰宅することが出来た。
なかなか更新できず、すみません。




